そしてもう一つ、新保が片山の功績としてあげるのが橋本國彦や信時潔、伊福部昭といった戦時下にすぐれた作品を数多く残した作曲家を掘りおこし、光をあてたことだ。
片山が吉田秀和賞とサントリー学芸賞をダブル受賞した直後、月刊誌「諸君!」で対談した新保はこう話している。
《新保 僕も一応クラシックファンを自認していますが、戦前の日本の音楽なんてほとんど興味がなかった。夏目漱石は「日本の開化は『外発的』」と述べていますが、音楽では特にそれが顕著で、美術や文学と比べても西洋の模倣的な色彩が強い、そういう思い込みがあったからです。
でも、片山さんが企画されたCDなどにふれて、昭和10年代に、決してこのまま埋没させてはいけない収穫があったんだと思い知らされました》
その対談で、片山は戦前の音楽をニュートラルに評価することの意義をこう述べている。
《片山 (戦前の音楽は)時代精神を生々しく感じるためにはうってつけの教科書です。でも、聴くこと自体をタブーにしてしまえば、戦争という極限状態の中、どれほど日本人が煩悶(はんもん)し、真剣にいろいろなことを考えていたのかを実感する「よすが」が失われます。作品の好き嫌いはさておき、歴史の資料として耳を傾けてみるべきです》