工務店跡を買い取った自宅書庫は90畳。筆者が3年前に訪ねたときより本の高さが1.5倍ほど高くなっていた(撮影/篠塚ようこ)
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 評論家・慶應義塾大学法学部教授、片山杜秀。博覧強記とはこの人のことだ。音楽、政治、文学、映画、演劇、古典芸能、美術、サブカル、何でもござれのストーリーテラー。大学院時代、音楽雑誌で執筆業を始め、人気ライターに。やがて政治思想史の研究業績も注目され、母校に呼び戻された。持論は「偉人伝より失敗話のほうが世の役に立つ」。「持たざる国」日本は歴史から何を教訓としたらいいのだろう。教えを乞う。

【写真】中古盤を扱うディスクユニオンや神田古書店街のある一帯は憩いの場だ

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 6月下旬、東京・渋谷のNHK放送センター。

 片山杜秀(かたやまもりひで・59)がパーソナリティーを務めるFM音楽番組の収録スタジオを訪ねた。番組はいつもどおりに始まった。

「『クラシックの迷宮』、片山杜秀です。きょうはこれから聴いていただきましょう」

 短いあいさつの後、すぐに1曲目。実はこのオープニング、2012年に亡くなった音楽批評家、吉田秀和の長寿番組「名曲のたのしみ」へのオマージュだという。

 吉田は「音楽批評に新しい人間が生まれた」と片山を高く評価した人物で、死去の翌年、事実上の後継番組の進行役に抜擢(ばってき)されたのが片山だった。

 その日の収録は7月8日放送分の「浪曲・レチタティーヴォ・バラード~歌と語りのあいだで~」。台詞(せりふ)を話すように歌うオペラの様式レチタティーヴォなど、「語りと歌」がテーマだった。

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