音楽界では長く、「誇るべきは黛敏郎、武満徹ら戦後の作曲家。戦前は西洋の模倣でレベルも低く、評価に値しない」とされ、「戦時下の作曲家らを評価しようとする姿勢自体、危険だ」との風潮も平成初期まで続いたという。

 要するに戦前のクラシック音楽を軽視、忌避する二つの流れを片山は覆してみせたわけだ。

怪獣好きが高じてクラシック愛好家になる

 音楽分野での活躍はここまで書いたとおりだが、本業は政治学者、思想史家でしょ、と違和感を覚える人もいるだろう。何より、「週刊新潮」の巻頭コラムを連載する慶應義塾大学法学部政治学科の有名教授だからだ。

 例えば、代表作『未完のファシズム』(2012年)は日本の敗戦について、一元的な強い政治権力が天皇以外に認められていなかった明治の制度設計に起因すると指摘。資源のない「持たざる国」が、「精神主義」を増幅させ、やがて破滅に至る経緯を解明し、司馬遼太郎賞を受賞した。

 さて、この博覧強記はどう作られたのだろう。

 片山は1963年、広告代理店勤めの父と、歌舞伎や森進一、加藤剛の大ファンだった母の間に生まれ、4歳下に妹、7歳下に弟がいる。

 一般的には「仙台市生まれ」と紹介されるが、母が出産で里帰りしたため。赤ん坊のときの住まいは千葉県船橋市の団地だった。そして幼稚園に入る前、両親は中央線の武蔵境に一戸建てを購入。後に阿佐谷、東中野へ移り住んだ。

次のページ