中華そば専門 とんちぼの「特製中華そば」は一杯1200円。チャーシュー3枚、味玉、ネギ、メンマ、ノリ3枚(筆者撮影)
中華そば専門 とんちぼの「特製中華そば」は一杯1200円。チャーシュー3枚、味玉、ネギ、メンマ、ノリ3枚(筆者撮影)

 30歳までには独立しようと決め、「千代作」での修業が始まった。「千代作」の店主の千代正純さんはもともとホテルマンで、アルバイトへの待遇もしっかりしていた。修業はもちろん厳しかったがすごく楽しい時間だった。

「『千代作』は横浜家系ラーメンの店ですが、すごく独特で個性があり、私の感覚では“剛速球”のラーメンだと思っています。そのまま『千代作』で修業を続けることも考えましたが、そのままやっていたら『千代作』にしかなれないのではないかと不安が出てきて、3年たったところで『卒業したい』と千代さんに告げました」(丸岡さん)

「千代作」ではラーメンの作り方を教わったものの、お客をすごく大事にしている千代さんは、肝心要の部分は必ず自分で作業していた。何より楽しい職場だったこともあり、丸岡さんは千代さんのラーメン作りを横で学びながら、結局その後アルバイトを1年半継続。4年半の修業を経て、次の店を探すことになった。

 25歳になった丸岡さんは、第2の修業先として品川区にある「多賀野」を選んだ。今までとは全く違うラーメンを学んでみたかったからだ

「知人が教えてくれたお店だったんですが、中華そばを食べて涙を流すほどおいしかったんです。メニューが多くて技が多彩で、これはすごいと驚きました。いつお店に行ってもお客さんが行列しており、地元に愛されている雰囲気がすてきだと思いました。ここなら剛速球だけでなく変化球が覚えられるのではと思い、門をたたきました」(丸岡さん)

店主の丸岡匡太郎さん。自然のなかで自分らしい一杯をつくり続けている(筆者撮影)
店主の丸岡匡太郎さん。自然のなかで自分らしい一杯をつくり続けている(筆者撮影)

 そう決めて「多賀野」に電話するも、わずか10秒で断られてしまった。埼玉に住んでいる時点で弟子にすることは無理だと言われてしまったのだ。強い意志を何度も何度も伝え、無理やりOKにこぎつけ働かせてもらうことに。

 ノスタルジックで奇をてらわない一杯ながらファンが多く、その後「ミシュランガイド東京」のビブグルマンも獲得することになる名店。なんといっても「多賀野」の代名詞になるのはスープの「追い煮干し」製法。既に魚介で取ったスープに、さらに提供直前に煮干しを加えてひと煮立ちさせる。こうすることでうまみと風味が増し、おいしくなる。今まで学んできた横浜家系ラーメンには全くない発想で、丸岡さんは新たな視点を増やすことができた。師匠の高野正弘さんは、全ての仕込みを目の前で包み隠さず作業し、丸岡さんはそれを見て覚えていった。そして、卒業前最後の2カ月でスープ作りを教えてくれた。

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「似ているのはどんぶりだけ」と言われ…