麺は平打ちの手もみ風(筆者撮影)
麺は平打ちの手もみ風(筆者撮影)

 大野さんは常に今一番話題のラーメン店に行き、なぜここまで人気なのかを日々研究している。近隣でいえば、「中華そば 四つ葉」(埼玉県比企郡)には30回以上通ったという。自分の好きなラーメンを作るというよりも、今の世間のど真ん中のラーメンは何なのかを常にインプットしておきたいからだ。

「自分がど真ん中だとは思っていませんし、ラーメンには正解がないから常に怖さがあります。その中で、情報をインプットし続けることは本当に大事だと思っています」(大野さん)

喜九家 エキチカ/埼玉県所沢市くすのき台1-12-1 内野ビル 1F/営業時間などの詳細はお店のTwitter(@wwwwinaka)にて/筆者撮影
喜九家 エキチカ/埼玉県所沢市くすのき台1-12-1 内野ビル 1F/営業時間などの詳細はお店のTwitter(@wwwwinaka)にて/筆者撮影

 そんな大野さんの愛する一杯は、埼玉県日高市の風光明媚な場所にある名店のラーメンだった。

■「似ているのはどんぶりだけ」と酷評も

 西武池袋線・高麗駅から徒歩15分。埼玉県日高市にある彼岸花の名所「巾着田」のほとりに一軒のラーメン店がある。「中華そば専門 とんちぼ」である。たぬきの看板が目印。店主の父親の故郷・新潟の佐渡ではたぬきやあなぐまのことを「とんちぼ」といい、店名の由来になった。 

 店の横には高麗川が流れ、ゆったりとした時が流れる。煮干しなどのこだわりの食材の自然のうまみを生かした一杯が人気だ。

自然豊かな街の中に店はある(筆者撮影)
自然豊かな街の中に店はある(筆者撮影)

 店主の丸岡匡太郎(きょうたろう)さんは埼玉県飯能市生まれ。川越の高校に通い、その後早稲田大学に進学する。高田馬場がラーメン激戦区としてどんどん店を増やしている時期で、生活の一部がラーメンになっていった。 麻雀かラーメンかという生活の中、そのどちらかを職業にしたいと考えるようになったという。就職も考えたが、当時は就職氷河期だったこともあり、丸岡さんはラーメンの道に進むことに決めた。

 数ある早稲田・高田馬場のラーメン店の中でも、大好きだったのが高田馬場のさかえ通りにあった「千代作」(現在は閉店)。大学1年の4月に初めて食べて衝撃を受け、それからというもの週一以上のペースで通うほどの「千代作」好きだった。

 ラーメンの道には、ラーメン屋になるか、ラーメン評論家になるか、メーカーに行くかの3択があった。親に相談すると「ラーメン屋になるなんて許さん。せめてメーカーに行け」と言われたが、丸岡さんには「千代作」の味を広めたいという思いが強かった。 

店主の丸岡匡太郎さん(筆者撮影)
店主の丸岡匡太郎さん(筆者撮影)

「脳天に突き抜けるような強烈な味わいで、こんなにうまいのかと感動しました。このラーメンを埼玉に僕が持っていくんだと決心し、『千代作』で働くこと以外が選択肢から無くなりました。それで、3年生の秋に『ラーメン屋をやりたいんです』と『千代作』の門をたたきました。両親には大変怒られました(笑)。親不孝者と反省しています」(丸岡さん)

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3年たったところで『卒業したい』