「メーカーもその場を収められるし、お客様にも喜んでもらえる。お渡しした別の商品を気に入って、今度から買ってくれるかもしれない。本当の意味でのWin-Win(ウィンウィン)の関係ではないにもかかわらず、当時はそのような空気感の中で対応していたのが事実です。言うなれば『顧客満足度』の取り違えですよね」(天野さん)
 
 そして、時代も“消費者”に味方した。
 
 90年代に入ると消費者の権利意識が変化し、製造物責任法(95年施行)など法整備の動きが進んだ。
 
 さらに2000年には雪印乳業の食中毒事件や三菱自動車のリコール隠しなど、社会を揺るがす不祥事が発覚し、世間の目が厳しくなった。真偽の疑わしいクレームなのに、メディアが購入者を「被害者」として報じたこともあり、消費者の立場が強くなっていった。
 
 3氏がクレームの質の変容を感じたのも、そのころからだ。暗に見返りを求めた、悪質な電話が増えたという。
 
「死ね」「バカやろう」などの暴言を繰り返したり、「土下座しろ」「マスコミに言うぞ」「お前が会社を辞めるように仕向けてやる」などとカスハラ的圧力をかけたり。
 
 女性の担当者に対する男性からのクレームには陰湿なものもあった。田中さんがこう話す。
 
「『なんだ、女か』『女じゃ役に立たないから上を出せ』とののしられることはしょっちゅうでした。さらに、下の名前を聞いてきたり、担当者の女性をわざわざ“指名”してきたりするような、商品に対するクレームから明らかに逸脱している電話も少なくありませんでした」
 
 さらに、20年ほど前に各社が「お客様のために」と、一斉に相談窓口としてフリーダイヤルを導入したことで、一方的なクレームに拍車がかかった。やられっぱなしの状況で担当者が精神的に追い詰められ、通院に至るケースもあったという。
 
「『顧客満足』とは何かをはき違えて対応し続けた結果、『あの業者はこれだけ返してきたのに、お前のところはこれっぽっちか』と、見返りを求めて脅すようなことを言う人がどんどん増えていきました。クレームの電話をしてきた人を、われわれが常習者に育ててしまった側面は否定できません」(笠原さん)

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