写真はイメージです(GettyImages)
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 お客様は神様ではありません--今年3月、度重なるカスハラ(カスタマーハラスメント)に苦しんでいたバス会社が、新聞にこんな意見広告を出して話題になった。カスハラや客側の過剰な“神様意識”がたびたび議論を呼ぶが、「クレーマーを育ててしまった」と自らを省みるのは菓子業界。かつての過ったクレーム対応を踏まえ、新たな基準作りを進めているという。

【図表】「ストーカー型」五つのカスハラ要素はこちら


 
 菓子業界150社(6月1日現在)が加盟し、消費者対応を行っている「日本菓子BB(ベタービジネス)協会」。取材に応じたのは同協会元アドバイザーの天野泰守、現常務理事の笠原浩児、事務局長の田中美津子の3氏。いずれも大手菓子メーカーや食品会社で「お客様相談室長」を務めた経験を持つ。
 
「あの頃のわれわれの対応がクレーマーを育ててしまった側面はあると思います」と3氏が振り返るのは1980年代のこと。
 
 当時、小売業界の主役は百貨店だった。
 
 天野さんがこう振り返る。
 
「百貨店の丁寧すぎるほどのおもてなし対応が、お客様への素晴らしい対応なのだとわれわれ菓子業界も信じていたのです」
 
 結果、何が起きたのか。
 
 菓子メーカーでは、購入者からクレームが入った場合、同じ商品と交換するのではなく、プラスアルファを付けて購入者に返すことが慣例となった。
 
「数百円の商品一つへのクレームなのに、何倍にもして返したり、段ボールいっぱいにさまざまな商品を詰め込んで、お渡ししていたこともあったと思います」(笠原さん)
 
 商品の改善につながるような有益な意見に対してならまだしも、「焼け具合が違う」「期待した味じゃない」など購入者の主観でしかなさそうな批判や真偽が怪しいもの、間違いなく自作自演であろうクレームにまで、丁寧にお返しを送ってしまっていたのだ。
 
 当時は業界としてのクレーム対応のルールがなく、各社とも担当者任せ。担当者はクレーム対応に出向くと、たくさんの商品を渡して会社に戻り、「お客様に喜んでいただきました」などと報告するケースが常態化していたという。

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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