それでも、業界としてその過ちに気づくにはさらに時間がかかった。2015年に協会に出向した天野さんは、菓子業界の大半を占める中小の業者がクレーム対応で疲弊しきっている現実を目の当たりにし、対応が急務だと直感した。
 
 天野さんは、

「中小は従業員が少なく、営業や他の業務と掛け持ちでクレーム対応をしている業者もありました。大手より、中小へのクレームがきつかったんです。つまり、対応の基準がない企業や、組織対応ができない担当者任せの企業など、クレーマーは『勝てる相手』を選んでいたんですね」

 と話す。

 協会では、2017年から原則として、現物がない場合は代わりの商品は送らないルールを作り、今はほぼ浸透している。「断る」という選択肢を明確に示したのだ。現在も、クレーム対応のマニュアル作りを進めている最中だ。
 
 クレーマーに手の内を明かすことになるためマニュアルの詳細は明かせないが、例えば、毅然(きぜん)と断るべき過去の事例はこんなケースだ。
 
 同じ購入者が「また髪の毛が入っていた」と短い期間に何回も業者にクレームを入れてきた。
 
「ミスを100%防ぐことはできないとはいえ、商品に髪の毛が入ってしまう確率は100万個のうち1個程度というデータがあります。同じ人に、しかも短期間に何度もなんてことは、確率的にどう考えても起こらないことだから断って良いと会員社に伝えました。われわれが確認すると、その客は別のメーカーにも同じやり口でクレームを入れていたことがわかりました」(笠原さん)
 
 とっくに販売が終わっている商品について、「買ったら賞味期限が切れていた」などと会員社にその商品を大量に持ち込み、買い取らせようとした事例もあった。協会が調べると、フードロスを防ぐため賞味期限に近い商品を専門に販売している店で、そのクレーマーは大量購入していた。詐欺とも言える行為で、協会は毅然として断るよう指示したという。

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ルールの中で毅然と対応