私は、これらはうまく使いこなせば脳に良い影響をもたらし、スマホやSNSがもたらした「分散系の過活動」というマイナス面を打ち消す効果があると考えている。オンライン上とはいえ、「リアルタイムでの会話」が可能になるからだ。
リアルタイムでの会話は、やり取りにタイムラグがあるSNSとは違って、主に集中系が活性化する。会話においてはまず言葉を聴覚でとらえ、その意味を理解し、返答するための言葉を考え、その言葉を発話するという、非常に複雑な作業を繰り返し行うことになるためだ。
とはいえ、オンラインでの会話は「対面での会話」と同じではない。言葉やデータは共有できるが、相手の表情の微妙な変化や小さなうなずき、しぐさなどが伝わらないからだ。
人の表情を読み取るうえで重要なのは、過去の経験によって培われた「意味記憶」の蓄積である。相手の表情やしぐさの意味するところを無意識の中に蓄積しているので、相手を見て何を感じているかを把握し、過去の記憶と照合することによって「共感」が生まれるのである。オンラインでは言語以外の相手の情報が極めて少ないため、共感が生まれにくく、人の孤独を埋め合わせるには十分とは言えないだろう。
特定のツールに比重のかかった生活は、脳の働き方に偏りをもたらすことを知っておこう。長期にわたれば、忘れてはいけない記憶を失くし、忘れてしまった方がいい記憶を忘れることができないといった状態に陥ってしまうだろう。
《新たな記憶の獲得には、「不必要な記憶をきちんと忘れる」ことが重要だ。『忘れる脳力』(朝日新書)では、「忘れたい記憶」をきちんと忘れ、「忘れてはいけない記憶」を維持するための方法論を詳述している》