そうした岸田人事のうちの一つとしてささやかれているのが「国民民主党の与党入り」だが、それでは存在感が薄れてしまう公明党がいい顔をしないだろう。そもそも衆参合わせて所属の国会議員が20人にすぎない国民民主党に大臣ポストを与えることは、衆参合わせて59人の所属議員がいながら大臣ポストを一つしか持たない公明党が納得するはずがない。自民党にとっても、党勢が衰えつつあるとはいえ22年の参院選比例区で618万票を獲得した公明党を捨て、316万票の国民民主党と組むというのは、得策ではない。衆院選の各小選挙区での影響力では、両党の格差は拡大する。

公明党の山口那津男代表(左)との面会に臨む岸田文雄首相=2022年12月28日
公明党の山口那津男代表(左)との面会に臨む岸田文雄首相=2022年12月28日

 統一地方選で大過がなければ、岸田政権には「黄金の3年間」が保証されるだろう。もっとも「防衛増税には民意を問うべきだ」との声には応じなければならず、岸田首相もテレビ番組で「(増税の)スタートの時期までに選挙があると思う」と述べたが、ウクライナ戦争に積極的なアメリカのバイデン大統領や他の西側首脳らとの“協力”でもって、なんとか乗り切ろうとするのではないか。北朝鮮から飛んでくるミサイルの数が増え、台湾海峡が不安定化すれば、国民の不安は増大し、防衛増税についての批判は少なくなるはずだ。

 同時にやらなければならないのは国民所得を増やすことだが、てっとり早いのは円高を誘導して、ドルベースでのGDPを増やすことだ。インフレ対策のために各国の中央銀行が利上げする中で、相変わらずゼロ金利政策に固執していたのが黒田東彦日銀総裁だが、日銀は12月20日の金融政策決定会合で長期金利の変動幅を従来の0.25%から0.5%に修正。これを受けて為替は1ドル当たり5円ほど円高に振れた。

 日銀の決定に政府が直接介入することはできないが、総裁の人事権は政府が握る。もちろん国会の同意は必要だが、物価上昇を招くドル高を歓迎する国会議員はいないだろう。

日銀の黒田東彦総裁
日銀の黒田東彦総裁

 防衛増税に反対する国民は多いが、防衛費増強に反対の意見は少ない。これをうまく乗り切れば、岸田政権は保守層を含めて広く国民の支持を得ることができる。岸田政権にとって23年は課題が多い一年になるだろうが、長期政権も夢ではなくなる。まずは足元に気をつけることだ。スキャンダルのタネは閣僚ばかりではない。

(政治ジャーナリスト 安積明子)

■あづみ・あきこ 政治ジャーナリスト。兵庫県出身。慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格し、政策担当秘書として勤務。その後テレビなど出演の他、著書多数。「『新聞記者』という欺瞞|『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)などで咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を3連続受賞。近著に「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)

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