しかし大規模改造はリスクが伴う。実際に8月の内閣改造は身体検査が十分ではなかったため、旧統一教会との関係をあやふやにしていた山際大志郎前経済再生担当大臣や「政治とカネ」問題を抱えていた寺田稔前総務大臣の入閣を許すことになった。閣外から新たに大臣を任命するとなると、完璧な身体検査が必要になるが、自民党は旧統一教会との関係についての党内調査すら十分に行うことができず、“漏れ”が残って問題となった。新たに就任する大臣が「クロではない」と誰も保証はできないのだ。
岸田首相は同日のテレビ番組で「年末年始やその周辺では今、私の頭の中にない」と早期の内閣改造を否定したが、「何カ月先も考えてないという意味ではない」とも述べて含みを残した。これは適宜に人事権を行使して、閣内や自民党内を引き締めるということだろう。岸田首相の目下の関心は、安倍晋三元首相というリーダーを失った最大派閥の清和会がどうなるかということに違いない。清和会は次の会長職をめぐっては萩生田光一政調会長と西村康稔経済産業大臣らが争っているが、彼らにポストを与えてうまく取り込んでいれば、所属する国会議員が100人近い清和会を押さえることができるのだ。
そうした意味では、秋葉氏の後任として同じ平成研所属の渡辺博道氏を任命したことも理解できる。党内最大派閥の清和会を牽制(けんせい)するためにも、第2派閥である平成研の勢力をそぐことは得策ではないからだ。なお党の経理局長だった渡辺氏は茂木敏充幹事長が会長を務める平成研を支える副会長でもあり、派閥内をまとめきれない茂木氏に恩を売る人事ともいえるが、一方では23年春の統一地方選を前に、党の資金面で平成研を牽制する意味もあるだろう。
このように人事を微調整しながら存続を図っていくのが、「人事の岸田」のやり方だ。なお閣僚就任の理由付けとされる「適材適所」はあくまで政権にとって都合のいい配置であり、議員の能力に従うものではないことは明らかだ。