どれくらいの偏差値帯を目指すのか、志望校はどの辺りにするのか。本人の意見を尊重しつつも、両親で意見が割れていると、子どもは振り回されてしまう。そのため、互いに歩みよるなど、時に無理やりにでも夫婦の歩調を合わせることも大切だと感じた。

 時には、思うように取り組まない子どもの姿を見て、イライラしたこともある。

「わが家の場合、子どもから『中学受験に挑んでみたい』と言い出したにもかかわらず、ダラダラしている時間も多かったので、『本当にやる気があるのか』と怒りたい気持ちになったこともあります。ですが、次第に『これは親の受験ではないんだ』と意識を切り替えることにしました。『せっかく受験をするのだから、このくらいは目指してほしい』といった思いはすべて捨てることにしました」

 受験勉強に並走する時間は長く、費用もかかる。だからこそ、次第に受験が“自分ごと”になってしまい、親の思いや願望を捨てることが難しくなりがちだ。ゆずぱさんがそれを潔く「捨てる」ことができたのはなぜなのか。

「妻も自分も中学受験は未経験だったからこそ、『中学受験をすることだけが唯一無二のルートではない』という考えが前提にあったことが大きいかもしれません」と言う。

「息子の友人たちを見ても、私立の小学校から公立の中学に進む子もいれば、中学受験をしても進学した中学で勉強について行けずにやめてしてしまった子もいた。いろいろなパターンやルートがあることがわかっていたため、『道はここしかない』と思い詰めなかったのも良かったのかもしれません」

 前出の矢野さんも「中学受験未経験だからこそ、『唯一無二のルートではない』という冷静な視線を持ち、『これは親の受験ではない』と割り切れたのが良かったのではないか」と言う。

 息子の受験を終えてから数年後、今度は娘が中学受験に臨んだ。

 兄と両親の姿を近くで見てきた娘は精神的にも安定し、心の余裕を持って試験当日を迎えることができた。

「不安定になり焦って詰め込むよりも、時間はかかってでも一問一問確実に取り組んでいく方がいい。それに、たとえうまくいかなかったとしても、長い人生でいくらでもリカバリーはできる。親はどっしり構えていればいいのではないか、と今は思います」

(古谷ゆう子)

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