村上靖彦『「ヤングケアラー」とは誰か――家族を“気づかう”子どもたちの孤立』(朝日新聞出版)※Amazonで本の詳細を見る
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【村上】お母さんのこと心配だからってだけでもなくて。

【ショウタさん】『心配だから』っていうのもあるし、『勉強についていかれへん』っていうのもありますね。その頃は学校に行くとなると、おなかが痛くなるような症状もあって、学校に行けなかったですね、その頃。1回、また引っ越したんです、西成区から。どこの地区か忘れたんですけど、引っ越して。どこの地区やったかな。また小学校転校して、その小学校はちょっと通ってた、半年ほど通ってたんですけど、母親がまた彼氏できて、その彼氏とここの家に住んでたんですね。でも、その彼氏も厄介で、母親は僕のことが一番やと思ってくれてるのを、それに嫉妬して、包丁差し出してきて。僕は刺されそうになって、警察ざたになったんです、また。

【村上】何じゃそれ。

【ショウタさん】それが小学校6年生ぐらいのときかな。裸足で外に逃げ出したの覚えてますね。騒動ってか、警察ざたになって、その人も捕まったんですけど。
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 この語りははじめ時期があいまいで、だんだんと小学校6年生のときの場面だと特定されていく。「僕のことが一番やと思ってくれてる」という母親の思いがショウタさんを支えていたのだが、母親の彼氏からの暴力というトラブルも引き起こす。そして暴力ゆえに転居することになり、これが不登校の理由の1つともなる。

 暴力が登場する場面では、「裸足で外に逃げ出した」ような慌ただしいドタバタした描写が反復される。子ども支援の現場では、頻繁な転居はしばしば危機のサインと受け止められる(例えば虐待死は頻繁な転居をともなうことも多い)。しかしショウタさんたちの場合は、支援とつながり続けることができている。今まで「~けど」で母親をめぐる病やDVのさまざまな様子が示されてきたが、その最後の帰結として、このあとセーフティネットの町である西成に落ち着いたのだ。ショウタさんと母は「やくざ」が多かった西成区から転居し、そして福祉が充実した町でもある西成区に再度戻ってきている。同じ西成区でも母親の人間関係のネットワークが「やくざ」から支援者の多職種連携へとここで変化している。小学校、生活保護のケースワーカー、そして西成に来てからは学校や、のちにはこどもの里のサポートがある。転居が重なってもサポートを受けられたことは、力であり大事な要素だ。こうして頻繁な転居が停止する。

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