「子どものいる同性カップルもいますが、話を聞くと、ゲイの男性が精子ドナーになって一緒に子育てをするとか、パートナーの男兄弟の精子を使うとか、そういう話がほとんど。でも、『知人男性の精子』というところに拒否反応があって。もし途中で男性の気が変わって親権を主張しだしたりしたら、何が起こるか想像がつきません。私たちは私がパパで響がママであるという役割分担をしているので、それ以上人間は必要ありません。精子バンクを使うというのは命の種を買うという気持ちです」(一恵さん)
昨年、知人経由でクリオスを知った。まだ日本の窓口ができる前のことだ。
「最初は『こんなふうに精子が選べるんだ』とサイトを見ているだけでした。精子バンクに関する知識が全くなかったので、自分たちの中でもかみ砕く時間が必要でした」(響さん)
クリオスがドナーの登録までに、感染症や遺伝病の有無など、厳しい検査を課していることも知った。
登録基準を、現CEOのピーター・レスリヴ氏はこう語った。
「対象年齢を18歳から45歳までに限っています。ニーズの多い人工授精で重視されるのは、精子の運動率、次いで1ミリリットル中の精子細胞の数です。この2点が基準値に達したら、本人の喫煙歴や飲酒歴、家族の病歴など、健康に関するアンケートを取ります。米国産婦人科学会のガイドラインに従って、性感染症や46種類の深刻な遺伝性疾患についても、潜伏期間を考慮し、半年間凍結した後、検査します」
こうした厳格な基準をクリアする確率は、わずか5~10%だという。
6月10日、伊藤さんに連絡し、翌日にはドナーを選んだ。人工授精なのでまず精子の運動率を重視した。
「それ以外は、ドナーの幼児期の写真が私の小さいころの笑顔と似ていたこと。髪と目の色がダークブラウンかブラウンであれば、人種はそこまで気になりませんでした。最終的に選んだのはイタリア人の精子でした」(一恵さん)
排卵日に合わせ、シリンジを使って自宅で人工授精を行った。この1回で妊娠した。