真弓さんにとって、日本語でやりとりができることが大きな前進だった。

「日本でシングルマザーになると、貧しいというレッテルが貼られてしまう。実際はシングルマザーでも裕福で幸せな人はたくさんいます」

 伊藤さんに紹介された国内のクリニックで、妊娠可能かどうか一連の検査をした。基準を満たしたため、すぐに精子をオンラインで注文した。

 クリオスでは、精子の運動率や、ドナーの民族・人種、瞳の色や身長、体重といった情報を公開している。子どものときの写真や現在の写真を公開しているドナーもいる。

「精子を選ぶうえで最も重視したのは、精子の運動率です。できれば日本人の精子がよかったのですが、なかったので、ドナーはデンマーク人の男性です。送料を考えると、1回ずつ注文するよりまとめたほうがよいので、5回分購入しました」

 選んだ精子を同じクリニックに送ってもらった。費用は総額50万円ほど。精子の価格は条件で異なり、デンマークでは1本あたり47~1940ユーロ(1ユーロ=約118円/9月5日現在)。タンクに液体窒素を充填して送るため、送料もかなりの額を占める。

 真弓さんはクリニックで人工授精を行ったが、1回目は失敗し、これから2回目に挑戦する。2回目も失敗したら、体外受精に切り替える予定だ。両親はまだ知らないが、真弓さんは妊娠したら「伝えるつもり」という。

 子どもを望む単身女性や同性カップルが精子バンクを使うのは、欧米では普通のことだ。クリオスの創設者、オーレ・スコウ氏はこう語った。

「クリオスのミッションは、不妊のカップルや子どもがほしい女性を助けること。先進国では、レズビアンのカップルやシングル女性からの需要は急増しています」

 その波は、日本にも来ている。クリオスの日本事業所は開設して半年ほどだが、伊藤さんによると、「日本でも、夫婦のみならず、子どもを望む女性からの相談が増えている」という。

 一恵さん(42)と響さん(40)は女性カップル。12年前に知り合い、一緒に暮らしている。子どもがほしいと考えだしたのは、3年ほど前のことだ。

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