不妊に悩む夫婦だけでなく、単身女性や同性カップルにも子を望む人はいる。日本では昨年慶應大がAIDの受け入れを中止したが、世界的な精子バンクが上陸、国内の状況が変わろうとしている。ジャーナリスト・大野和基氏がリポートする。AERA 2019年9月16日号から。
【写真】精子の運動率と1ml中の精子細胞数を調べているところ
* * *
証券会社に勤める真弓さん(38)は独身だ。現在、交際している相手はいない。両親と同居しているが、両親には「子どもがほしい」と折に触れて話している。「両親は冗談だと思っているかもしれない」が、真弓さんは真剣だ。
「ハリウッド女優のジョディ・フォスターが精子バンクを利用して子どもを産んだことは知っていました。私も年齢を考えると時間がないので精子バンクを利用しようと思いました」
提供精子を扱う精子バンクは、日本では1996年に民間業者がインターネット上で開設した。これに対し、日本産科婦人科学会は精子の売買を規制する見解を発表。法律ではないため拘束力はないが、第三者の提供精子を使う場合でも、夫婦でないと人工授精を行わないクリニックは多い。
非配偶者間の提供精子による人工授精(AID)は、日本では慶應大学病院で48年から実施されてきた。しかし、ここ10年ほど、世界的にドナーの情報開示を求める声が大きくなった。ドナー確保が難しくなり、慶應大は昨年、新規患者の受け入れを中止している。
つまり、現在、日本の生殖補助医療は、極めて厳しい状況にある。
そこで、真弓さんも、最初は海外で人工授精をしようと考えた。
「日本ではできないと思ったからです。が、調べているうち、クリオス・インターナショナルという精子バンクを知り、日本事業担当の伊藤ひろみさんと知り合いました。単身女性でも精子バンクを利用できることがわかりました」
クリオス・インターナショナル(デンマーク・オーフス)は87年に設立された、世界最大の精子バンクだ。世界100カ国以上に精子を輸出している。そのクリオスが2月、東京都内に窓口を開設した。伊藤さんはそのディレクターを務めている。