結婚に向けて背中を押されても、“いい子”は何からはじめればいいかもわからない。そこで真実は親の伝手を頼り、お見合い相談所に登録するのだった。
マイさんの両親は、早く結婚することが女性の幸せという考えの持ち主だった。だから大学卒業後、大手企業の関連会社への就職をことのほか喜び、「すぐに大企業の男を捕まえてこい!」とけしかけた。しかしマイさんも恋愛経験ゼロ。自分に自信がなく、ちょっとでも好意的な態度を見せてくれる人のことをすぐ好きになった。
「別の部署の、29歳独身の先輩とデートするようになり、交際に発展……と私は思っていたのですが、同僚から『あの人、36歳で3児の父親だよ』と聞かされました。ひどい嘘だとは思うけど、気づかない私も私ですよね。しかもモラハラ気質なので、すぐには別れられずにずいぶんこじれました」
“いい子”は処世としての嘘や計算に慣れていない。それは、恋愛していくうえであまりに不利だ。いうまでもなく、結婚相手を探すうえでも。
本作のもう一人の主人公・架は、個人で結婚相談所を営む小野里という女性を訪ねる。真実が親の伝手で登録していた紹介所で、架の目的は真実がそこから紹介されて出会った男性たちのことを知ることだったが、小野里の口から語られる真実の話に、また知らない一面を見た。
話を、“いい子”の結婚に戻す。マイさんは幸運な例だろう。
ネット通信を通じて現在の夫と知り合う。彼は、マイさんの親が過干渉であることを早々に見抜き、「嫁入り前の娘がひとり暮らしするのはダメと親からいわれている」と伝えると、「じゃあ結婚しよう」と話はとんとん拍子に進んだ。出会ってから結婚を決めるまで半年もかからなかった。新居に移ったマイさんにとって、毎日が驚きの連続だった。
「夜になっても、友だちと遊んでいいんですよ! 朝までカラオケをしても怒られない、というのが何より新鮮でした。親からはしょっちゅう電話がかかってきましたが、それを無視したり、小さな嘘をついてごまかしたりといったことも覚えていきました」