※写真はイメージです。本文とは関係ありません(写真:Solovyova / iStock / Getty Images Plus)
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 婚活アプリをとおして出会った架(かける)と真実(まみ)。挙式を目前に控え、すでに生活をともにしている。しかし真実は婚約指輪を残して突然、消えた――辻村深月著『傲慢と善良』(朝日文庫)は、多くの謎とともに幕を開ける。

 架は真実を探す。なぜ失踪したのか、いまどこにいるのか、ストーカーに狙われていたというがそれは誰なのか。そして、真実とはどんな女性で、これまでどのように生きてきて、何を思って架と結婚しようとしていたのか。過去の真実を知るたびに明らかになる衝撃の事実とは……。

 真実を“いい子”だと思っていた架。本人にそう伝えたこともあるし、友人に会わせても「いい子じゃないか」といわれた。婚活アプリで知り合ったこともあり、ふたりの生い立ちに共通点は少なく、架は真実の過去を詳しく知っているわけではない。

 親きょうだい、元同僚、そして真実が婚活で出会った男性たちにまで話を聞きにいき、架は自分と出会う前の真実を知っていく。そこには、“いい子”として生きてきたからこその善良さがあり、同じく“いい子”として生きてきたからこその傲慢さがあった。

 真実と同じく“親にとっての”いい子として育ってきた女性たちに、これまで行き当たってきた壁について話を聞いた。親も年をとり、自分も社会的には“いい大人”になってもなかなか解けないのが“いい子の呪縛”のようだ。

 両親ともに中学校の教師で、母親からの抑圧を強く感じながら育ったミフユさんは、「物理的な距離を取るしかないと思うんです」と語る。親元を離れるきっかけとして多いのは、まず進学や就職だろう。

「私は大学進学を機に、実家を出ました。ものすごい開放感でしたね。これでやっと自分をはじめられる、という気持ちでいっぱでした」

 日本では、30、40代になっても子どもが未婚のうちは親と同居する率が高い。作中の真実も、そうだった。社会人になっても実家から職場に通った。それが30歳を過ぎてから唐突に、仕事を辞め、地元を離れて東京でひとり暮らしをはじめ、架と出会う。

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人間関係でつまづく“いい子”は、恋愛でも苦戦する