「沿岸や川沿いではないところでも、下水の処理能力を超えれば浸水は起こる。『半地下』のある物件は要注意。想定以上の降雨を考え、浸水実績だけではなくハザードマップでチェックしたほうがいい」
例えば世田谷区。北部、中部は特に武蔵野台地の安定した地盤に支えられ、地震や水害に強いとされてきた。だが、世田谷区水害被害記録によると、台風や集中豪雨に伴い広範なエリアで床上浸水が発生している。
有名人も多く住む東急田園都市線沿いの高級住宅地でも、直近15年以内に14件の床上浸水が確認されている。付近はすり鉢状の地形で、傾斜を伝った雨が低地にたまりやすい。周辺には大手ディベロッパーが建設した瀟洒(しょうしゃ)な新築マンションも目立つが、そのうち少なくとも3物件は、1階部分が地面よりも低い「半地下」だった。
半地下は容積率が緩和され、建物全体の高さ制限にも資するため、低層住宅街の新築マンションに多く見られる。
確認した3物件は「低地」ではなかったが、前出の長嶋さんは今後、地震や洪水などのハザードマップが不動産価値を決めるようになる可能性があると指摘する。18年度から全国で本格的に「不動産総合データベース」の運用が始まる予定だからだ。
「不動産総合データベース」では、不動産に関する過去の取引履歴から住宅の情報、インフラ整備状況、用途地域などの法令制限データまで、これまで別々になっていた地域の情報が一元的に見られるようになる。国や各自治体が作るハザードマップもひもづけられる。
「一般公開されれば、ハザードマップで危険とされたところの不動産価値は上がりにくくなるでしょう。地盤が弱いと判断された場合は、地震保険の料率にも関わってくるかもしれません」(長嶋さん)
(編集部・福井洋平、作田裕史 編集協力/川越広慈、一ノ宮翔)
※AERA 2017年3月13日号より抜粋