足腰が弱く一人で逃げられない人をどう救うか。入り組んだ道をどう通り抜けて避難場所に向かうか。一部でいまも残る「余ったおかずが隣から回ってくる」関係性の維持が防災上の課題だと清水さん。実は「住民間のコミュニケーション」は、「危険度が高いのに値上がりしている人気の街」に共通の悩みだ。
●無電柱化のメリット
JR常磐線、東京メトロ日比谷線、千代田線、東武伊勢崎線、つくばエクスプレスが乗り入れる北千住駅はその利便性が再評価され、大学誘致も進んだことで若い世代が流入。洗練された町に変貌しつつある。地元の不動産関係者によれば、駅付近の家賃は年とともに上昇中で、
「築浅物件だと学生向けでも7万円以上。ファミリー世帯も新築マンションには手が出ないので、築30年くらいのリノベーション物件が人気です。それでも、60平方メートル台の3LDKで3千万円はします」
駅周辺の街には古くからの戸建て密集地も残り、高齢者が多く住む。親の代から千住中居町に暮らす75歳の男性は言う。
「防災はダメだね。一応、火事になったときは、足の不自由なお年寄りを若いもんがリヤカーに乗せて移動させることになってる。でも、若者たちは昼は家にいないし夜も遅い。実際は難しいだろうね」
千住仲町の町内会副会長の宇田川匡男さん(75)も、
「若い世代と年寄りは、ほぼ交流がない。300円の町内会費すら払ってくれないんだから(笑)。マンション価格が上がったと言われても、恩恵を感じることはありません」
手をこまねいてはいられない。
やはり新住民が増えているという新宿区神楽坂6丁目では阪神・淡路大震災後、地元商店街を中心に年に1回、「神楽坂防災ふれあい広場」を開催している。地元の消防署と連携し区の助成金を得て、消火体験コーナーや商店街のスタンプラリー、防災食品の炊き出しなど、メニューはさまざまだ。商店街は03年ごろまでに、資金を出し合って無電柱化も実現した。商店街理事長の勝村忠三さん(74)は、
「道路が広くなって明るい雰囲気。消防車が通りやすくなって、交通事故も減った。防災面で大きなメリットがありました」
●地震以外のリスクも
表に名前のない街が「安心」だというわけではない。不動産コンサルティング会社さくら事務所の長嶋修さんによれば、昨今怖いのは「ゲリラ豪雨」だ。