「マンションが建ち始め、新しい住民が増えています」
表の上位には、ここ数年の街歩きブームで人気の台東区谷中や根岸、豊島区雑司が谷、新宿区神楽坂、足立区千住など、須賀町と同様に「交通の便がいい下町」が多く並ぶ。
東京カンテイの上席主任研究員、井出武さんの分析はこうだ。
「これまであまり注目されてこなかった『価格上昇の余地があるエリア』の価格が、実際に上昇してきている」
少子高齢化が進み日本全体の人口が減少に転じる中、東京都では16年まで20年連続で、転入する人が転出する人を上回る「転入超過」の状態が続いている。12年の政権交代以降、株高、円安の流れを受けて東京の新築マンションは2割以上値上がりし、一般消費者の手の届かない存在になった。だが、11年の東日本大震災で帰宅困難者があふれ、職場のある都心から遠いところに暮らすことへの不安は残る。結果、地盤が弱かったり木造住宅密集地域だったりしてハザードマップでは「危険」とされても、都心にあって交通の便がいい、いわゆる下町地区の需要が高まった──というわけだ。
東京都の地域危険度は「相対評価」。全体の防災力は調査開始時点に比べれば高まっているが、他のエリアに比べれば「危険」とされる土地で物件を売ろうとするディベロッパーの中には、「ハザードマップを強調しないようにしているところもあるそうです」とある不動産業者は打ち明けた。「住まいサーフィン」の澤邦夫さんは言う。
「外国人も増加しています。彼らは土地勘がないので、あまり安全ではないと思われる土地に知らずに住んでいることも多い」
●町内会に入らない住民
冒頭に登場した新宿区須賀町を歩くと、町内の道は細く入り組んでいて、車がすれ違いにくいところがある。街を一躍有名にした大きな階段があることからもわかるように高低差が大きく、目の前は崖という場所も存在した。地元住民は、「火事が燃え広がったりすると、場所によっては逃げ場が少ない」と自覚している。
危険度を下げるには耐火建造物への建て替えや道路の拡幅が必要だが、一朝一夕で済む話ではない。町会長の清水さんは、増え続ける新住民とのコミュニケーションが防災のカギになると考えている。
「新住民で町内会に入る人は少なく、いまは回覧板すら回せない状態。でも、ひとたび災害が起これば、町内の人の心を一つにしないと命は守れない。防災訓練が何よりも大事だと思うようになりました」