あっという間に労働時間が長くなった。何より耐えられなかったのは、準備もなく障害児を受け入れたことだ。補助金欲しさとしか思えなかった。
「子どものことをちゃんと考えれば受け入れ態勢を整えるべきです。経験者もいないのに研修も設けず、きれいごとばかり」
大好きだった子どもを見るのもつらくなり、退職を決意した。その年、彼女のほかに2人がその園を辞めた。
「小さな職場は、経営者や一人の上司の資質に左右されてしまう。苦しんでいる人は多いのではないかと思います」
11月は過労死等防止啓発月間だ。高橋まつりさんの件などで強制捜査を受けた電通は「22時消灯」を続けている。だが、仕事量や働き方を見直さなければ意味がない。
●今度こそ変わらなきゃ
長時間労働が常態化していた前職を辞め、香港の会社に転職したSEの男性(37)は言う。
「現職と前職では仕事量がまるで違う。いまの上司から渡されるのは、週40時間の労働に見合う量。残業はしないのが普通で、残業する人は仕事ができないという風潮にもなります」
ドイツでコンサルティングの仕事をする女性(33)は日本で働いていた当時、上司に社則の暗唱や夜の会食を強要された経験がある。日独では、管理職の意識と役割が違うと感じる。
「ドイツでは管理職に部下の仕事をコントロールする責任があって、終わらなかった仕事も抱え込む必要はありません」
日本は、国際労働機関(ILO)の常任理事国だが、1日もしくは1週間の最大労働時間を定めた条約を批准していない、長時間労働大国だ。過労死や労災問題に詳しい玉木一成弁護士は、多くの日本企業に労務管理の意識が欠落していることを問題視する。
「労務管理は経営者と管理職の最も重要な職務であり責任。業務量が多いなら、人を増やすか業務を取捨選択する。本来、長時間労働にはコストがかかるが、サービス残業、裁量労働制やみなし残業制を乱用し、『残業させても対価を支払わなくていい』という発想が染みついている」
今度こそ、変わらなければ。
(編集部:熊澤志保、深澤友紀、野村昌二)
※AERA 2016年11月21日号