日本中で仕事が人々を破壊している。仕事のために心身の健康も家族や恋人も失い、命さえも落としてしまう人たちがいる。

 例えば工事費の積算や査定を行う会社に勤めていた男性(26)は、「下請け」として取引先に振り回され続けた。急な仕事で土日はつぶれ、デートもキャンセル。それなのに、手にした残業代は「技術手当」2万円のみで手取りの16万円では生活できず、知り合いの飲食店でアルバイトまでした。

 昨夏、とある金曜日の夕方に、取引先から連絡があった。

「計画の変更があったので、週明けまでに図面をチェックして積算をお願いします」

 送られてきたのは500ページもの資料。土日に徹夜で作業して間に合わせたが、さらに、

「変更があるので、明朝までに直してください」

 期限延長を上司に頼んだが聞き入れられず、男性は「もう知りません」と投げ出して帰宅。泥のように眠った。

 翌朝、出勤途中でうずくまり、駅のトイレで吐いた。昼近くに会社に着いたが、職場のドアが開けられない。近くのコンビニのトイレで泣いた。受診した精神科で、うつ病と診断された。

「楽観的な自分が、まさかうつ病になるとは思わなかった」

 有給休暇を使って休んだが回復せず、1カ月半後に退職。あと半年で退職後に受給していた傷病手当が切れる。仕事を探しているが、建築業界が怖い。他の業界で一から働くのも怖い。

「友人たちは結婚したり家を買ったりしているのに」

 そう思うと、心はどこまでも落ちていく。

●私は能力がないのだ

 マスコミで働く女性(30)は職場でひとり、思いつめた。4年前のクリスマスの夜のことだ。

「私、この仕事には向いてない。転職しようかな。死んだら楽になれるのかな」

 あこがれて入った会社だ。大きな企画が通って全国を飛び回り、直近の2カ月は休みなし。月の残業は150~160時間に及んだ。それでも残業は、1日8時間、週40時間を超えて労働者を働かせる場合に労働基準法36条に基づいて労使が締結する「36(サブロク)協定」で定めた上限時間以内で申告するのが職場の慣習。おかしいと思っても、希望の部署に行けなくなる不安から声をあげる人はいなかったという。

 能力がないのだと自分を責めるようになり、女性は思わず電話口の向こうの友人に叫んだ。

「会社なんか辞めてやる」

 友人は言ってくれた。

「今は正常な判断ができていないから、休んでから考えよう」

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