そしてそのしわ寄せは、経験の浅い若者たちに向かう。

●目標設定が高すぎる

 都内に住む30代の男性は、2年前まで広告会社でウェブ広告を担当。「目標」に苦しめられた。

 会社はこの分野に力を入れていた。前年同期比140%という目標が設定され、達成できないと朝礼で徹底的にダメ出し。明け方まで働き、また午前7時には出社する毎日。休日出勤も多く、企画書の出来が悪いと責められるので、常に仕事のことが頭から離れなくなった。

「何をしても楽しくない。生きている意味がわからなくなった」

 140%を達成すると、目標は150%に。次は180%に。絶望し、転職を決意した。

 前出の調査では、パワハラを訴えた人も多かった。

 日本精神科産業医協会共同代表理事の渡辺洋一郎医師は、仕事による負荷は仕事の量だけでは測れないと話す。

「仕事量と裁量の有無に加え、同僚や上司のサポートの有無も、人が受けるストレスに大きく影響しています」

 行き過ぎた指導や人格攻撃が自尊心を蝕(むしば)み人を壊す、と。

●もう行かなくていい

 医療事務として働いていた女性(37)は20歳当時、パワハラにあった。先輩女性に一人では無理な業務量を言い渡され、生産性のない説教が毎日3時間続いた。先輩と仲のいい上長は彼女の報告をうのみにし、面談でこう言い放った。

「人とコミュニケーションできないのは、親にちゃんと愛されてこなかったからでしょう」

 確かに両親は厳しかったし、忙しかった。私は愛されてこなかったの? 次第に自信を失い、いじめ抜かれた末に異動になったが、立ち直れずにめまいを発症。ある夜、実家に電話をかけて泣きじゃくった。

「今すぐ、帰ってきなさい。もう職場には行かなくていい」

 翌日、荷物をまとめて実家へ。父は職場からの電話も取り次がず、対応してくれた。

「あのとき逃げなかったら、私もどうなっていたか。父が助けてくれたんです。つらい時もただ黙って抱きしめてくれた」

 現在は人間関係にも恵まれ、情報サービス関連会社で働く。

 過重労働の原因は、職場の機能不全や上司のスキル不足にあるという声も多く寄せられた。 園長が代わった途端に職場がブラック化したというのは、元幼稚園教諭の女性(47)だ。

「思いつきで指示を出す。お遊戯会の前日に、衣装や大道具を作り直せと言うんです」

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