納豆、味噌、粕漬け、麹(こうじ)漬け……。日本は世界一の「発酵食品大国」だ。世界にも、その地域の風土から生まれた独特の一品がある。
麹菌、乳酸菌、納豆菌、酵母菌、酢酸菌……。「菌活」など発酵食品を取り入れた“健康食”が昨今、注目を集めている。その効能はさておき、微生物を利用した発酵食品が人類の食生活を豊かにしてきたのは紛れもない事実だ。パンや酒類も含め、世界中でありとあらゆる食品が発酵の力を借りて作り出されており、なかでも麹菌を「国菌」とする日本は伝統的にもバリエーションの豊かさからも、世界に冠たる発酵食品大国なのだ。
「発酵食品の4大特徴は、(1)保存が利くこと、(2)栄養価が高まること、(3)独特の味と匂いがつくこと、そして(4)究極の自然食品だということ。他の食品ではまず出来得ない、奥の深い神秘的な生命現象を人類は上手に利用してきた」
東京農業大学名誉教授で発酵学・醸造学・食文化論が専門の小泉武夫さんは言う。福島県の酒造家に生まれ、世界じゅうの辺境を旅して食べられるモノはおよそ全て食べてきた食の冒険家であり、発酵の魅力に取りつかれた研究者だ。
●奈良時代に最古の記録
発酵食品の歴史は古い。ワインは中東で5千年前には造られていたという説や、木桶や革袋に入れた牛やヤギの乳に乳酸菌が入り込んでできたというヨーグルトの起源も紀元前数千年前にさかのぼる。
日本では奈良時代の天平年間(729~749年)の木簡に残されている瓜の塩漬けが文献上は最古の記録で、平安時代(794~1185年ごろ)中期の法令集『延喜式』には酢漬けや粕漬けなど様々な漬物についての記述があるという。
「日本でなぜ発酵食品が発展したかといえば、周りを海で囲まれていて塩と魚がとれるから。魚も塩に入れておけば腐らないし、細胞からにじみ出た水を濾したら魚醤になる。ですから有史以前に魚の漬物はあり、縄文時代には原始的な発酵は行われていたとみられます」(小泉さん)