イラスト/阿部結
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 SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さんの『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「個人情報」。

*  *  *

 大センセイがお住まいの町の八百屋に、口の達者なオヤジがいる。

「来週は嵐がきて北海道のものが入らなくなるから、今日買っとかないとねー」

 オヤジの言う通り玉ねぎ、ジャガイモ、ニンジンをカゴに入れてレジに並ぶと、自分で買えと言ったクセに、

「あー今夜はカレーだ、カレー作るんだねー」

 などと余計なことを言う。

 昨今は個人情報の取り扱いにうるさいから、このオヤジみたいにひと様の買い物カゴの中身を云々したら訴えられかねないと思うが、憚りながら、妻太郎も大センセイもレジで前に並んでいる人のカゴの中身を論評するのが大好きなのである。

「昨日さ、ビシッとスーツを着た中年のサラリーマンが前に並んでたわけ。お豆腐とか納豆とか、ありふれた食材を買ってるんだけど、カゴにひとつだけプッチンプリンが入ってるのよ」

 妻太郎の見立てによれば、おそらくこのサラリーマン氏は単身赴任中であり、毎晩ちゃんと自炊をする真面目な人である。しかしいくら真面目でも、ひとりで晩ご飯を食べるのはやっぱり寂しい。だから、慰めに、食後にプッチンプリンをひとつだけ食べるのだ。

「そう考えると、なんか愛しい感じがしない?」

 大センセイが先日目撃したユニークなカゴは、30代半ばくらいの知的な風貌の女性のものであった。

 中身は透明パック入りのほぐし明太子、明太子マヨネーズ、スライスチーズの三点のみ。見られたくないのか、女性は三点の上に「レジ袋はいりません」カードを乗せていたが、いかんせんカードが小さ過ぎた。

 さて、この三点で彼女はいったい何をしようというのか。大センセイの見立ては、こうだ。

 たぶん家には、すでに食パンが買ってあるのだ。そのうちの一枚を取り出すと、おもむろにバター代わりの明太子マヨネーズをたっぷりと塗りたくる。そこに、スライスチーズをペタリと貼りつけ、さらにその上にほぐし明太子をびっしりと敷き詰めるのである。

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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