この明太子づくしの食パンにかぶりつく彼女の姿を思い浮かべると、この人情紙のごとき都会の片隅でいきなり“人間の営み”に出くわしたような、しみじみとした気分になるのだった。
しかし、世の中には不可解なカゴも存在するのである。
大センセイ、夕方になると近所の「まいばすけっと」という小型のスーパーに出かけて缶酎ハイを1本買うことを日課としている。
その日もいつも通り、近所のまいばすに出かけて缶酎ハイを手にレジに並んだのだった。前には、ショートカットで上から下まで黒ずくめの服を着込み、角ばった黒いリュックを背負った女性が立っている。関西風に言えば、いかにもイキッた感じの女性である。
彼女のカゴには、ビニール袋入りのロックアイスばかりが五袋。まいばすには品物を詰める台がなく、普通はレジの人が袋に入れてくれるのだが、彼女は会計が終わるとやおらリュックを降ろし、ぞんざいな態度でロックアイスを直接リュックの中に放り込み始めたのである。それはいかにも、慣れた手つきであった。
「大量のロックアイス、黒ずくめの服、慣れた手つき、イキッた態度……」
大センセイのハードディスクは高速回転したが、何の映像も浮かんでこない。
やがて女性はやはり慣れた手つきでリュックをバンバンと叩いて中の空気を抜くと、夕闇の中に消えていった。
※週刊朝日 2019年3月29日号