「この薬でせきが軽くなったという患者さんもいますが、自覚症状の改善よりも病態の進行を抑制するのがこの薬の目的。ですので、しっかり飲み続けてもらうことが大切です」(同)
ピルフェニドンは月20万円、ニンテダニブは月40万円と高額。健康保険を適用しても月10万円前後かかるが、難病医療費助成制度や高額療養費制度を使うことで負担を減らせる。
もう一つ、特発性肺線維症の予後を改善させるカギとなるのが、「急性増悪」の予防だ。急性増悪とは風邪などの感染症や手術、過労、誤嚥(ごえん)などをきっかけに、症状が急に悪化すること。死因の4割を占めている。特に冬は急性増悪を起こしやすいので注意が必要だ。
「ただ、以前は急性増悪になったら救命率が低かったのですが、今は早期の対応で治療ができる例が格段に増えました」(小倉さん)
急性増悪の予防は、患者自らが取り組める。インフルエンザや肺炎球菌の予防接種をし、外出時にはマスク、帰宅したら手洗い・うがいをする。インフルエンザシーズンはできるだけ人混みを避けたほうがいい。
痩せないことも大事だ。食事はカロリーが高めのものをとるように心がける。一度にたくさんの量を食べると息苦しくなるため、回数を分けてとる。
「リハビリの専門家の指導のもと、可能な範囲で体を動かしたり、筋トレをしたりすることも有効です。実際、よく体を動かす人のほうが元気で過ごせていると言われています」(同)
治療の進め方だが、日本では症状がないときには治療を始めず、症状が出てきたら投薬治療を行うパターンが多い。薬の効き具合や進行程度をみるため、定期的に診察や肺活量測定、CT検査を実施する。
診察や検査で大事なのは、「病気の進行もさることながら、肺がんの確認」と吾妻さんは言う。
「特発性肺線維症の人は肺がんになりやすく、発症して10年経った人の約半数にがんが見つかるといわれています。肺の線維化でがんの発見が遅れ、治療が難しくなることもあります」
一般の肺がん治療のように、体力や病気の進行度によって治療方針が変わるが、肺に線維化がみられると抗がん剤治療や手術ができないこともある。
特発性肺線維症は予防できず、初期は無症状なので早期発見が難しいが、最近は肺がんのCT検査で見つかる例も増えている。
「この病気の発病の原因は不明ですが、加齢や喫煙などがリスクファクター(危険因子)になっています。治療薬も出てきており、早期発見が予後の改善につながる可能性があります。気になる人は一度、CTを撮ってもいいかもしれません」(小倉さん)
冒頭のアキオさんは現在、ピルフェニドンを服用中。肺がんが見つかったが、早期で体力も十分にあったこともあり、胸腔鏡手術で切除できた。予後が悪い病気だとされているが、アキオさんは前向きだ。
「病気については成り行きまかせというところはありますが、春になったら趣味の家庭菜園を再開させたいですね」
命に関わる病気だけに、早期発見、早期治療を心がけたい。(本誌・山内リカ)
※週刊朝日 2019年1月25日号