中世になると、ヨーロッパでは修道院で修道士がワイン造りをするようになる。有名な「ドン・ペリニヨン」は、シャンパーニュ地方の修道士がワインをブレンドしておいしいシャンパーニュを造る技法を開発したことで誕生した(アッサンブラージュ)。この人物の名前をとったドン・ペリニヨンは、現在も高級シャンパンの名前としても有名だ。
フランスのボルドーは、質の高いワインの産地として知られている。海沿いにある街であり、ドーバー海峡の対岸にはイングランドがある。イングランドとフランスは愛憎の関係にあり、長い歴史の中で仲良くなったり戦争をしたりしてきた。 そのイングランドにボルドー産のワインが輸出されるようになり、ボルドーは大儲けをした。ちなみにイングランドではボルドー産のワインを「クラレット」と呼ぶ。
ちょっとネタバレになるけれども、ここでちょっと小話を。
ぼくは007、ジェームズ・ボンドの大ファンでDVDも全部そろえている。初代ボンドのショーン・コネリー主演「ダイヤモンドは永遠に」(1971年公開)で、ボルドーワインが物語に登場している。ボンドが1955年のボルドー1級ワイン、シャトー・ムートン・ロートシルトを出したソムリエ(実は敵が化けている)に「この料理にはクラレットのほうが合う」と言うのだ。(ニセ)ソムリエは、クラレットはないと答えて、正体がバレてしまった、という話。もっとも、前述のように、映画公開年の1971年にはシャトー・ムートン・ロートシルトは2級格付けだった(1973年に1級に昇格)。まあ、それはいいんだけど。
ジェームズ・ボンドの閑話はもう少し続く。
◯岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著に『もやしもんと感染症屋の気になる菌辞典』など