感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説する。
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キリスト教においてワインは、キリストの「血」であり、パンはその「肉」ということになっている。「わたしの肉を食べ、わたしの血を飲む者は、いつもわたしの内におり、わたしもまたいつもその人の内にいる」(ヨハネ福音書)というのだ。
■フランスが世界最大のワインの産地になった理由に、シーザーあり
さて、時代は下がってローマ帝国の時代。ローマの国で本格的なブドウ栽培とワイン造りをするようになったのは、ギリシャ人とエトルリア人の影響だという。紀元前8世紀くらいのことで、ちょうどロムルスによるローマ建国の頃だ。
ローマ帝国時代の終身独裁官ジュリアス・シーザー(ユリウス・カエサル、紀元前100~44年)が紀元前58~51年に「ガリア」の地で戦争をし、現在のフランスにあたる土地はローマ領になった。そのため、この地はローマの影響を強く受けた。ローヌで、プロバンスで、ボルドーで、ブルゴーニュで、そしてシャンパーニュでブドウ栽培とワイン造りが行われる。いずれも21世紀現在の高名なワインの名産地だ。この頃から、フランスは世界最大のワイン産地となったのだ。
ローマ時代から、ワインの輸送はアンフォラではなく樽が使われるようになった。樽というのはケルト人の発明なのだとか。このとき、樽熟成がワインの質を高めることが発見されたのだろう。また、割れやすい陶器のアンフォラではなく、木でできた樽になることで輸送はずっと容易に安全になったであろう。
ちなみに、ガラスは紀元前4000年にはすでにあったのだそうだ。紀元前1500年には人々は、ガラスのグラスでワインを飲んでいた。ガラスを「吹いて」グラスを作るようになったのは紀元前1世紀で、シリアで作られた。これがローマ帝国で普及し、ローマ時代の人たちはグラスでワインを飲んでいた。ただし、現代のようにガラスの瓶にワインを詰めるようになるのは、もっとあとの話だ。