9月下旬、横浜市内のホテルで笹本恒子さんのお誕生会が開かれた。お祝いに駆け付けた90代前半の女性に104歳の笹本さんはこう声をかけた。
「あなた、お若いんだもの。がんばってね」
一同から歓声が上がる。つかみはOK! 一瞬で場を明るく華やかにする。それが笹本さんの人間力だ。
「もう100と3歳生きてきたでしょう。自然に図々しくもなるのよね」
えっ、こんなところで1歳サバ読みます?
「あ、100と四つか。ま、細かいことは気にせずに。顔写真ね、なるべく美人に撮ってくださいね(笑)」
笹本さんは日本初の女性報道写真家として知られている。戦後はフリーのフォトジャーナリストとして多くの社会事件や著名人の撮影をしてきた人だ。が、40代後半から一時写真の世界からは遠ざかってしまった。
「家計を支えるために、致し方なかったのです」
オーダー服のサロンを経営したり、フラワーデザインを教えたり。紆余曲折を経て写真の世界に戻ってきたのは昭和60(1985)年。71歳の時のことだ。
「その前年に夫ががんで旅立ちました。お葬式を終えて精も根も尽きてしまっていたのですが、写真展を開催する話が来たのです。そこでもう一度、写真の世界で自分を奮い立たせようと」
同年代の人たちの多くがリタイアしている年齢での再出発。だが、そこに迷いはなかった。
「『自分は、どう生きたい』。それが明確になった時点で、年齢なんて関係なくなるのではないかしら」
平成2(90)年からは明治生まれの女性のポートレート撮影を開始した。作家の宇野千代さん、女優引退後もエッセイストとして活躍した沢村貞子さんほか、計98人の女性たちを笹本さんが撮影。明治・大正・昭和・平成と四つの時代を生き抜いてきた女性たちの「いま」が見事に切り取られた写真は写真家・笹本恒子の存在感を再び世に知らしめるのに十分だった。
そして92歳の時はパリ大学で「日本の昭和史」について講演。100歳の時はベストドレッサー賞特別賞を受賞。現在はエッセーの執筆、と笹本さんの快進撃は続いている。