ガンツ氏(左)とネタニヤフ氏(右)
ガンツ氏(左)とネタニヤフ氏(右)
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Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長
Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長

 イスラエルの総選挙はこの6カ月で2回実施されています。2回目からすでに1カ月が過ぎようとしていますが、原稿を書いている10月11日現在、誰が政府をつくっていくのか、いまだにはっきり決まっていません。

 イスラエルは一院制で定数120議席、完全比例代表制です。過去10年間はネタニヤフ首相が右派与党「リクード」を率いてきましたが、4月の選挙では元参謀総長のガンツ氏によって今年結成された中道の統一会派「青と白」が、「リクード」と同じ35議席で並びました。ネタニヤフ首相は過半数を取れる連立政権をつくろうとしましたが、失敗。

 この9月に仕切り直しの2回目の総選挙(投票率:69.8%)が行われ、ガンツ氏の「青と白」が33議席を取り、次いで「リクード」が32議席を獲得する結果となりました。2党それぞれの陣営で連立を組もうにもいずれも過半数に満たないため、再び大連立に向けた協議が行われているのですが、やはりうまくいきません。この二つの勢力はなぜ対立してしまうのでしょうか。

 ネタニヤフ首相は戦後の安倍首相と同じように、イスラエル史上最長在任の首相です。ネタニヤフ氏が率いる右派連合は、ユダヤ教の超正統派の宗教政党を含んでいます。この構造は日本の自公政権と似ています。宗教団体を母体とする政党が過半数に満たない第一党と連立を組むことで、政策決定において重要な役割を担っています。ネタニヤフ陣営のもう一つの党派は「ヤミーナ」で、パレスチナ人が住むヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地継続を支援する超右翼党派です。

 反対勢力の「青と白」を率いるガンツ氏は政治の新参者ですが、結党以来、数カ月で労働党と民主連合を含む中道左派連合を築き上げることに成功しました。支持者の多くはネタニヤフ氏と閣僚の汚職事件に反発する人です。

 ネタニヤフ氏が右派連合政権をつくることができれば、パレスチナ人に対して厳しい立場を続け、ユダヤ人の特色を強める宗教規制を前進させていくでしょう。また、ネタニヤフ氏に刑事訴追からの「免除」を与える法律の策定を前進させることも狙っています。ネタニヤフ氏は潜水艦建造業者への不透明な発注を含めたいくつかの深刻な贈収賄を疑われているため、議会によって救出されない限り刑務所に送られる可能性があります。

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