一方、ガンツ氏率いる中道左派連合は、パレスチナ人との和平交渉の再開、ユダヤ人入植地拡大の凍結を目指しています。また、政府の補助金が支給されているため職に就いていないユダヤ教超正統派の雇用市場への参加を奨励することも考えています。さらに選挙キャンペーン中は、イスラエル経済の政府管理の方策に新たな風を吹き込むことを公約として掲げていました。
ネタニヤフ氏とガンツ氏率いる勢力の他に、イスラエルの政治状況を左右しかねない「ジョーカー」が2枚存在しています。リーベルマン氏が率いる「イスラエル我が家」、四つのアラブ政党が結びついている「共同アラブ戦線」です。
リーベルマン氏はネタニヤフ氏に近い関係にあります。旧ソ連のモルドバ生まれで、若い時にイスラエルに移住しました。彼の支援者は基本的には旧ソ連からの移民たちです。ユダヤ人口の約20%、約100万人は1990年代の旧ソ連からの移住者で占められています。
彼は右翼的な思想の持ち主ですが、ネタニヤフ氏は個人的には嫌っているようです。ネタニヤフ氏とガンツ氏の間に入り、説得してイスラエル政治で宗教団体の支配力を弱める統一政府をつくろうとしています。
「共同アラブ戦線」はイスラエルのパレスチナ市民によって支えられています。意外かもしれませんが、880万のイスラエル人口の約20%を占めています。「青と白」、「リクード」に次いで3番目の政党なのですが、政権参加は期待されていません。議会ではガンツ支持を選択するかもしれません。また、アラブ人の投票率はユダヤ人よりも低いので、この政党は今後、これまでより小さくなっていくでしょう。
外国メディアではあまり語られていないのですが、ユダヤ人社会には一つの「分断」があります。「アシュケナージ」と「ミズラヒ」です。「アシュケナージ」は主に欧州諸国で生まれたユダヤ人の子孫で、「ミズラヒ」は中東と北アフリカのイスラム教の国で生まれたユダヤ人の子孫です。イスラエルは大きく分けて二つの異なる社会的背景を持つユダヤ人で構成されており、歴史的な理由により、ミズラヒは右派の「リクード」、アシュケナージは中道左派連合に投票する傾向があります。
Nissim Otmazgin
イスラエル・ヘブライ大学教授が語る、戦時下の学部長の深い悩み