有名なのは山田錦とか美山錦だ。一般には食用に使われる「ササニシキ」などをつかった酒造りをするところもあるそうだ。山田錦は1923(大正12)年に兵庫県立農事試験場で山田穂と短稈渡船という米を人工交配させてつくられた品種だ(北本勝ひこ『和食とうま味のミステリー』から、河出書房新社)。36(昭和11)年に山田錦と命名され、戦後に全国で使われるようになり「酒米の王者」と呼ばれている。コシヒカリなどの食用米に比べると粒が大きく、たんぱく質、アミノ酸が少なくて心白が大きい。

 日本酒づくりのときは、まず、玄米を精米して、糠(ぬか)を取り除く。精米をガンガンやるとそれだけ吟醸香が出やすくなる。精米歩合が60%以下、つまり40%以上削ったものを吟醸酒、精米歩合が50%以下のものを大吟醸酒という。

 吟醸香はメロンとかりんごのようなフルーティーな香りだが、酢酸イソアミルやカプロン酸エチルがこの香りの正体だ。ちなみに純米酒とは米、米麹、水のみで造った日本酒のことだ。醸造アルコールを添加したものは「純米酒」と呼んではいけない。

 精米した白米は蒸す。これは日本酒の特徴だ。ほかにも米を原料とした酒はある。例えば、中国のお酒(白酒や老酒など)も米などが原料だが、この場合は米を生のままで使う。蒸したり、洗米したりするには水が必要だ。日本酒の原料で特に大事なのが米と水なわけだ。

 日本酒の生産では兵庫県の灘と京都の伏見が有名だが、灘の水はカルシウムやマグネシウムをより多く含んでいる硬水で、伏見の水は少なめの軟水だ。「灘の男酒、伏見の女酒」という言葉があるが、これは両者の水のミネラル分の違いを表現したものである。

■日本酒造りには水が必要だが、ワインは必要なし

 ワイン造りには水を足す必要がなかったことを思い出してほしい。ワイン造りには気候、テロワールといった要素が必要だったが、水はその要素に入っていなかった。対して、日本酒づくりに適した土地は、うまい米とうまい水が必須なのだ。ぼくの故郷の島根県もおいしい日本酒を造っている名醸地だが、やはり水のよさが貢献していると思う。

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「麹」のもともとの意味