※写真はイメージです(写真/getty images)
※写真はイメージです(写真/getty images)
この記事の写真をすべて見る

 フリージャーナリストの安田純平さんがシリアで武力勢力に拘束された事件で「自己責任」という言葉が注目を集めた。カップルカウンセラーの西澤寿樹さんは、本人が言う「自己責任」と論客が言う「自己責任」は似て非なるものと感じたという。夫婦間で起きがちな問題を紐解く本連載、今回は「夫婦にとっての自己責任」について取り上げる。

【年収を抜かれた妻に海外勤務と言われ、キレた40代夫が抱くコンプレックスの深層心理】

*  *  *

 安田純平さんが解放されました。国際政治について何か語るほどの知見はありませんが、この件で話題になった「自己責任」という言葉は、カウンセリングでも重要な概念なのです。安田さん自身も会見で「自己責任だ」とおっしゃっていたようですが、「自己責任論」を唱える方たちにとっての「自己責任」とは少々意味合いが違って感じられました。

 安田さんが言う「自己責任」は、自分が主体的に行動した結果、拘束されたのも、仮に誰も助けてくれなくて殺されてしまったとしても、自分の身に起こったことは自分の人生として引き受ける、という意味のように思えます。自分の人生を否認も責任転嫁もしない。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、意外に難しいことです。

 たとえば、四年制大学を卒業して就職したものの、寿退社し、専業主婦として40年を過ごした久美子さん(仮名、60代)は、不満そうな表情でこうおっしゃいました。

「親に、ただでさえあなたは大学に行って婚期が遅れたんだから、とにかく早く結婚しなさいと言われ、まだ働き始めたばっかりだったのですが、親が選んだ人とお見合いで結婚しました。夫は転勤族のモーレツ社員で、生活に不自由はありませんでしたけど、夫は家庭を顧みてくれませんでした。私は本当は働きたかったし、お金を貯めて留学したかったのに、40年間ずっと家庭に縛り付けられてきたんです」

 自分のしたいことができなかったのは、とても辛いことだったと思います。自分は思い通りに生きられなかったのに、夫は自分のおかげで思う存分仕事に打ちこんで実績を残し、社会的評価も得られました。久美子さんは子どもが小さいうちは「○○ちゃんのお母さん」と呼ばれ、社宅では隣近所の夫の同僚の奥さん方に「○○さんの奥さん」、家庭では夫と子どもたちに「ママ」と呼ばれ、自分の名前を呼んでくれる人さえいませんでした。

次のページ
残りの人生、夫を恨み続けるのも自由