入国前に新型コロナウイルスの検査の受け付けをする乗客(右)。変異株の流入防止には水際対策が不可欠だ/5月23日、成田空港で (c)朝日新聞社
入国前に新型コロナウイルスの検査の受け付けをする乗客(右)。変異株の流入防止には水際対策が不可欠だ/5月23日、成田空港で (c)朝日新聞社
佐藤佳(さとう・けい)/山形県出身。京都大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。日本ウイルス学会杉浦奨励賞、文部科学大臣表彰若手科学者賞など。「システムウイルス学」研究を展開中(写真:本人提供)
佐藤佳(さとう・けい)/山形県出身。京都大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。日本ウイルス学会杉浦奨励賞、文部科学大臣表彰若手科学者賞など。「システムウイルス学」研究を展開中(写真:本人提供)

 新型コロナウイルスのインド型変異株(デルタ株)に対し、日本人の6割は免疫効果が弱くなる可能性があるという。我々はどう対処すべきなのか。AERA 2021年6月14日号では、懸念される変異株の研究結果を関係者に取材した。

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 この成果は東京大学医科学研究所の佐藤佳准教授(39)がリーダーを務める「G2P-Japan」が4月に公表した。インド型には「L452R」と「E484Q」という二つの特徴的な変異がある。佐藤さんらは研究を通じて、L452R変異は「HLA(ヒト白血球抗原)-A24」というタイプの白血球がつくる免疫細胞から逃れる能力があることを実証した。

 HLAは白血球の血液型として発見された。実際には白血球の中だけでなく、ほぼすべての細胞に分布し、免疫に関わる重要な働きをしている。HLAにはいくつもの種類があり、日本人の6割は「A24」というタイプのHLAを持つという。

 つまり、日本人の6割がインド型に対する免疫反応を十分に起こすことができない可能性があるのだ。さらにL452R変異は、ヒトの細胞と結合しやすく、増殖能力を高めることも分かった。インド型は人種を問わず感染力が強いうえ、日本人にはより危険である可能性がある、というわけだ。

 この世界初の成果を研究チームはわずか3カ月で実証した。メンバーは東大本大、宮崎大、東海大の30代の研究者5人。今年1月に変異株に関する日本医療研究開発機構の研究費を得た佐藤さんが、研究を加速するために4人に共同研究を持ち掛けた。いずれも過去にエイズウイルス研究でつながりがあり、意思疎通も容易だという。

「変異株の研究はスピード感がすごく大事。エイズウイルス研究で培った実験やスキルを生かすことができる、気心の知れた実動部隊で手を組む必要があると考えました」(佐藤さん)

■「優等生」の感染増

 4月にプレプリント(査読前論文)を公表したのも、研究成果の社会的影響が大きいことを踏まえたためだ。この後、チームに加わる研究者は膨らみ、現在約10人の共同研究態勢でインド型の解明に取り組んでいる。

 気になるのは日本や東南アジアの感染拡大だ。台湾やベトナムなど感染抑止の「優等生」とされた国や地域も今年に入って増加に転じ、ロックダウン(都市封鎖)などの対策強化に乗り出した。英国型アルファ株やインド型など変異株の流行が主因との報道もあるが、データが十分ではなく、不明な点も多い。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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