病室に向かう川浪大治講師(左から4人目)、内山敬太さん(左から2人目)と4年生。チームの一員となり、診療に参加する(撮影/岡田晃奈)
病室に向かう川浪大治講師(左から4人目)、内山敬太さん(左から2人目)と4年生。チームの一員となり、診療に参加する(撮影/岡田晃奈)
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東京慈恵会医科大学の診療参加型臨床実習の診察風景。患者も教育に協力し、医学生を確かな技量を持つ、人間性豊かな医師に育てる(撮影/岡田晃奈)
東京慈恵会医科大学の診療参加型臨床実習の診察風景。患者も教育に協力し、医学生を確かな技量を持つ、人間性豊かな医師に育てる(撮影/岡田晃奈)
「診療参加型臨床実習の充実」を推進している10大学
「診療参加型臨床実習の充実」を推進している10大学

 知識偏重型の医学教育では、もはやグローバルスタンダードには合致しない。現場体験を重視した新しいカリキュラムが日本でも定着し始めている。

「体調はいかがですか? 困っていることはありませんか?」

 東京慈恵会医科大学医学部5年生の内山敬太さんが、同大附属病院の入院患者のベッドサイドで、少し緊張した様子で話しかける。傍らには病棟長の川浪大治講師が立ち、患者との会話や触診の様子などを見て、フォローやアドバイスを行う。

 従来の日本の臨床実習は、医師の診療の見学が中心だったが、ここ数年、診療参加型の臨床実習を実施する医学部が増え始めている。その背景にあるのが、黒船来航とも言われる、日本の医学部が直面する「2023年問題」だ。

 10年9月、米国、カナダ以外の医学部卒業生に対して米国医師国家試験の受験資格を審査するECFMGは、全世界に向け次のように通告した。

「23年から、米国医科大学協会か世界医学教育連盟(WFME)の基準による認証を受けていない医学部の卒業生には米国の医師国家試験受験を認めない」

●世界に通用しなくなる

 現在、WFMEのグローバルスタンダードで認証された日本の医学部はひとつもない。今のままでは、日本の医学部を卒業しても米国の医師国家試験を受験することはできなくなる。同試験の受験者数は国内で年間数十人ほどだから、あまり関係ないと考える人もいるようだが、今後、世界で活躍できる医師養成のためには、日本の医学教育が国際基準を満たしているという評価を受けることが必要になってくる。

 文部科学省高等教育局医学教育課の担当者は、こう話す。

「日本の医学教育は優れていますが、諸外国と比べると実習時間が短く、診療参加型の度合いが低い。このため診療参加型臨床実習のさらなる充実や体系的な教育の実施、国際標準を満たす医学教育分野における評価の確立を進めています」

 12年から取り組む二つの事業がある。「グローバルな医学教育認証に対応した診療参加型臨床実習の充実」事業には、当時医学部を持つ79大学中49大学から申請があり、10大学が採択された。また、「医学教育認証制度等の実施」事業は、東京医科歯科大学を中心に、千葉、東京、新潟、東京慈恵会医科、東京女子医科の計6大学が連携する。

 両方に取り組む東京慈恵会医科大学の医学科長、宇都宮一典教授は2023年問題を「日本の医学教育を見直すいいチャンスになった」と捉える。

「日本の医学教育は、『見学』とペーパーテストを重視してきました。しかし、英米の医学教育は『参加』を重視しており、日本の医学教育は“ガラパゴス化”してしまった。本学では、昨年度から『参加型臨床実習のための系統的教育』を行う新カリキュラムをスタートさせました」

●知識と診療が結びつく

 新カリキュラムでは、1~3年次に福祉体験実習、在宅ケア実習などを7週間実施する。4年後期から5年前期まで、従来の臨床実習を28週間実施し、全診療科を回る。5年後期から6年前期はスチューデントドクターとしてチーム医療の一員に加わり、診療参加型臨床実習を40週間行う。これによって臨床実習は65週から75週に増えた。

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