「臨床を半年前倒しする一方、学生に知識が定着するように、実習の後に演習・講義を行い、その後また実習に戻る。交互に行うことで、知識と実際の診療が結びつきます」(宇都宮教授)

 冒頭の内山さんは、新カリの1期生。感想をこう語る。

「講義では『甲状腺が腫れる』と教えられてもイメージするだけでしたが、臨床実習では実際にどういう状態なのかがわかります。患者さんを目の前にすると、『しっかり勉強しよう』という意欲が強くなりましたね」

 指導する川浪講師も、新カリのメリットをこう強調する。

「糖尿病などの生活習慣病は、早く臨床現場に出て患者さんの生活を知ることが特に大切です。学生が実習で学んだことをしっかり覚えているとうれしく、教員のモチベーションも上がります。十分な臨床力を身につけた医師の育成を目指しています」

 学生が診療参加型の実習をすることは、医師側にもメリットがある。医師は忙しいため、患者の話を何十分も聞く余裕がないことが多い。学生が患者から聞き取った情報をカンファレンスで報告し、よりよい治療につながることもあるという。

●世界基準の評価を作成

 臨床実習を見学していた4年生にも感想を聞いた。

「座学では症状から病名を考えることが多くて、糖尿病になると合併症でさまざまな神経障害が出ると学びました。だからといって、患者さんに『神経障害がありますか』と聞いても、答えにくい。『最近、よく足がつるんですよ』というのが、神経障害の始まりだったというケースもあり、さりげない会話も判断材料にしていることを実感しました」(黒崎元博さん)

「座学では病気を原因、検査、診断、治療と縦に学びましたが、臨床現場では、全体像として見なくてはならないことを痛感しました」(光岡浩一郎さん)

 一方、文科省の「医学教育認証制度等の実施」事業に力を入れるのは東京女子医科大学。大久保由美子同大教授は話す。

「本学では07年から診療参加型の臨床実習を重視した教育を行う準備を始め、11年から始まった新カリキュラムが、WFME西太平洋地区支部の国際外部評価を受けました」

 教育目標としてのアウトカム(学修成果)・ロードマップ、プロフェッショナリズム教育、テュートリアル教育などが高く評価された一方で、さらなる学生の自主的学習時間の確保と臨床実習の拡充が課題とされた。

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