大腸憩室を持つことを大腸憩室症と呼ぶ。30代では5%前後だが、70代だと20~30%と、年を取るにつれて増加する。日本人全体の約20%を占めるとされるが、大腸憩室があるだけでは、特に治療は必要ない。週刊朝日 「憩室に圧力がかかり、破れて出血することを大腸憩室出血といいます。出血量は多く、500~700ccにもなる。放置すれば、貧血や、出血性ショックで重篤な状態に陥る可能性もあります」(山内医師)

 大腸憩室出血のリスクは、高血圧や糖尿病のほか、血液をサラサラにする抗血小板薬の服用で高まるといわれる。吉本さんにも軽度の糖尿病と高血圧があり、数カ月前の人間ドックで小さな脳梗塞を指摘されてから、抗血小板薬を飲んでいた。

 大腸からの出血で医療機関を受診する人の約4割を大腸憩室症が占めるという。

「腹痛を伴わず、出血が多いなら、大腸憩室出血の可能性が高い。すぐに病院に行くことをお勧めします」(同)

 大腸憩室出血が疑われる場合、採血して貧血の度合いを確かめ、造影剤を使って造影CTを撮る。ここで憩室の出血箇所がわかれば、下剤を処方して便を出し、大腸内視鏡を入れる。

 憩室出血は自然に止血することも多いため、大腸内視鏡を入れるころには、人によっては20~30もある大腸憩室のどこから出血したか判別が難しいこともある。

 吉本さんの場合、出血が続いており、出血箇所がわかったため、止血をする手術をおこなった。「内視鏡的バンド結紮(けっさつ)術」といい、スコープの先端にバンドをつけ、出血した憩室部分を内側に吸引し、患部をバンドで縛るという術式だ。留めたバンドはおよそ1週間程度で脱落し、患部は最初イボのように隆起するが、やがてポロッと落ち、憩室そのものがなくなる。

 内視鏡的バンド結紮術は、03年に米国で開発された手術だ。だが、内視鏡が盛んではない欧米では、憩室出血の自然な止血を待つケースが多く、普及しなかった。一方、内視鏡が盛んな日本には、積極的に止血するケースが多いという背景があった。聖路加国際病院の石井直樹医師らが、09年からこの術式を積極的におこない、論文を発表。現在は世界的に効果の高い方法として認められている。

週刊朝日  2016年2月5日号より抜粋