
57歳・貯金700万円の男性、1年後に早期退職したら夫婦で旅行や新車は楽しめる?
※写真はイメージです(GettyImages)
1年後に早期退職し妻と老後を楽しみたい
今回は、2023年3月に58歳で選択定年を考えている男性、Nさんからのご相談です。退職後、年金受給の65歳までは月12万円程度の仕事に就きたいと検討していますが、老後の生活はどうなるのかお悩みです。
【家族構成とそれぞれの年齢】Nさん57歳妻54歳長女28歳次女22歳(大学4年)
【世帯収入(月額または年額)】Nさん1300万円/年・額面、賞与年間249万円妻80万円/年・手取り
【月間支出】合計:47万円(年間で564万円)Nさん小遣い:6万円住宅ローン:12万5000円夫婦保険:5万円家族携帯利用料:3万円ネット&TV&電話:1万円電気・ガス:2万円エネファーム:1万3000円食費:10万円ガソリン代:2万円新聞代:5000円ショッピング費用:3万円日用品:7000円
・その他支出(年間、ボーナスより支払い):129万円住宅ローン:70万円固定資産税:8万円自動車税:4万円自動車維持費:24万円自動車任意保険:6万円犬維持費:10万円中元・歳暮:7万円
【貯蓄】120万円/年間
【資産】現金:700万円
【投資額】なし
【具体的なお悩み】仕事上のプレッシャーで心身共に疲弊しており、、2023年3月の58歳で選択定年をし、年金受給の65歳までは12万円程度/月の仕事につきたいと検討しています。妻もパートで6万円/月を60歳までと考えています。選択定年58歳で退職すると、退職金は4000万円程度となります。年金は、私と妻でどのくらい受給できるかは不明です。
可能ならば車をあと1回400万円程度で買い替え予定で、海外旅行も何年かに1回は行きたと考えています。また、次女は来年4月より社会人になりますので教育費は必要ありません。貯金は今まで子供の教育費用などでできませんでしたが、これからは貯めたいと考えています。住宅ローン残額が58歳退職時に650万円ありますが、退職金で一括返済を予定しています。
Nさん一家の収支でわかる使途不明金の恐ろしさ
早速、Nさん一家のキャッシュフローを確認しながら、老後の収支を試算していくことにしましょう。
Nさんの現在の世帯収入はNさん1300万円、妻80万円を合計した1380万円です。妻の収入は扶養の範囲内の金額なので手取額と思われますが、Nさんの収入は額面金額と思われます。そのため、Nさんの収入を手取り1000万円、世帯収入を1080万円として家計収支の試算を行います。
一方、支出は記載の項目を合計すると月47万円、年間564万円。ボーナスからの支出は129万円です。以上を合計すると、693万円になります。
キャッシュフローをまとめると、年間の手取収入が1080万円、支出が693万円ですから差額は387万円です。387万円のうち120万円は貯蓄しているので、267万円が使途不明金になっていると思われます。
2人の子どものうち長女は既に社会に出ており、次女も教育費は必要ないと書かれているので、267万円もの使途不明金は看過できない金額です。早期退職に向けてしっかり貯金をできるようにしましょう。
Nさんが早期退職した場合老後資金はいくらになる?
次に、Nさんの早期退職以降の、夫婦の老後資金を試算してみましょう。
Nさんの早期退職は1年後です。先ほどの使途不明金も含めて年間収支の差額387万円が貯蓄に回るとします。Nさんが現在保有している金融資産は、現金700万円だけなので、退職時の金融資産額は1087万円になります。
相談文によると、選択定年58歳の退職金は4000万円程度あるそうですが、退職金で住宅ローンの残額650万円を一括で支払う予定とのこと。退職金の4000万円も額面金額と想定して手取額を3600万円とします。すると、住宅ローン返済後の退職金の残額は2950万円です。早期退職の58歳時点の金融資産額(1087万円)に住宅ローン返済後の退職金を加えると、4037万円です。これが、Nさん夫婦の老後資金になります。
Nさん夫婦の老後、このままでは危険!早期退職はオススメできない
では早期退職時の58歳から、年金受給が始まる65歳までの収支を試算してみましょう。
収入はNさんが月12万円、妻が6万円の合計18万円、年間216万円です。額面で月12万円の収入の場合、社会保険や厚生年金を引いた手取額は、月9万5000円ほどでしょう。Nさんの手取り収入を月9万5000円とすれば、夫婦合計の月収は手取りで15万5000円、年間で186万円になります。
これに対して支出はどうなるでしょうか。早期退職後、住宅ローン(月12万5000円とボーナス払いの70万円)の支払いが無くなります。年間では220万円の減額、つまり年間支出は、693万円−220万円=473万円となります。
世帯収入が186万円、支出が473万円ですから、年間の赤字額は287万円です。
仮に赤字額287万円が65歳までの7年間続いた場合、287万円×7年間=2009万円が金融資産から取り崩されることになります。58歳時点の金融資産額である4037万円から2009万円を取り崩すと、残りは2028万円です。
さらに、Nさんは上記以外に一時的な支出も予定しています。相談文によると、車の買い替え400万円と、何年かに1回の海外旅行を希望しているとのこと。海外旅行は65歳までに2回行くと仮定しましょう。1回当り50万円の費用とすれば2回で100万円です。車の買い替え費用と合わせると、65歳までに500万円が追加で取り崩されることになります。
先ほど試算した通り生活費を取崩した後の金融資産額は2028万円ですから、2028万円−500万円=1528万円が65歳時点の金融資産額です。
次に、Nさんの65歳以降の収支の試算を行いましょう。まずは、受給できる年金について試算します。推測になりますが、妻が扶養範囲の収入なので夫婦の受給額は、2022年度の新規裁定金額に少し上乗せした月24万円とします。年間では288万円となりますが、手取額を255万とします。
65歳以降も支出額が変わらないと仮定すると、Nさん夫婦の年間収入は255万円、支出473万円です。つまり、218万円の赤字になります。
65歳時点の金融資産額1509万円から毎年218万円ずつ取り崩して行くと7年、72歳になる前に蓄えは底を尽きます。もし、希望している海外旅行へ65歳以降も行くとすれば、金融資産が底を尽く時期はさらに前倒しになるでしょう。
このような状況では、早期退職を後押しすることはとてもできません。
早期退職しても老後を楽しむための具体的な支出見直し方法
ここからは、具体的な支出の見直し方法をお話ししながら、試算も行っていきましょう。
相談文には「仕事のプレッシャーで心身ともに疲弊している」と書かれているので「58歳以降の収入を増やしましょう」とは言いにくい状況です。なので、支出を大幅に見直すことにします。
まずNさんの小遣いは6万円から3万円へ減額。次に家族の携帯利用料は格安プランなどに見直し、子どもの通信費用は子どもに負担させるとして3万円から1万円にしましょう。最後に食費は夫婦2人になるので10万円から6万円にします。この3つの見直しで月9万円の減額になります。
また、夫婦の保険が月5万円と書かれていますが、保障を得る目的なら子どもの教育費負担はないので不要です。解約返戻金を老後資金に回すために加入しているのかもしれませんが、保障は不要なので保険は払い済みにした方が良いでしょう。払い済みにすれば保険料の5万円も削減できます。
小遣いの減額、通信量の削減、保険の解約を合計すると、月14万円、年間で168万円も支出額を減額できます。
支出削減をした場合のNさんの58歳以降の収支を試算しましょう。
収入は186万円、支出は473万円−168万円=305万円。つまり、赤字額は119万円です。65歳までの7年間では833万円の赤字になります。
次に、65歳時点の金融資産額を試算しましょう。まずは、58歳時点の金融資産額から58~65歳の間の赤字額を差し引きます。4037万円−833万円=3204万円です。ここから、その他支出(車の買い替え、2回の海外旅行費用)を差し引きます。3202万円−500万円=2702万円が、65歳時点の金融資産額です。
65歳以降の収支を確認しましょう。収入は年金のみで255万円、支出は変わらず305万円とします。赤字額は50万円です。
金融資産額は2702万円あるので、海外旅行費用などの一時的な費用を考えなければ、毎年50万円ずつ取り崩す場合54年間もちます。年齢で言うと119歳まで蓄えはもつことになります。仮に、65歳以降に1回当り50万円の海外旅行を3~5回行ったとしても110歳までは金融資産が底を尽くことはないでしょう。
子細な家計データの記載がないため推測を交えた試算になりましたが、58歳以降の支出を大幅に見直しすれば、老後に過度な不安を持つ必要はないと思います。試算ではNさんが65歳のときに奥様もパートを辞める形としました。しかし、収入を減らしたとしても65歳以降も社会とのつながりを考えて働けば、支出の削減は少なくて済みます。その上で支出を大幅に削減すれば、収入増分はNさん夫婦の余裕資金になるため、老後の楽しみ費用として使うことができます。
簡単な試算になりますが、こちらをベースにして支出の削減や働き方、あるいは海外旅行などを楽しむ費用をどう考えればよいのかの参考にしてください。あと1年間は短いようで長いですから、体調面、特にプレッシャーやストレスなどでメンタル的なダメージを被らないように注意してください。
(ファイナンシャルプランナー 深野康彦)
深野康彦ファイナンシャルプランナーAFP、1級ファイナンシャルプランニング技能士。クレジット会社勤務を3年間経て1989年4月に独立系FP会社に入社。1996年1月に独立し、現在、有限会社ファイナンシャルリサーチ代表。テレビ・ラジオ番組などの出演、各種セミナーなどを通じて、投資の啓蒙や家計管理の重要性を説いている。あらゆるマネー商品に精通し、わかりやすい解説に定評がある。