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現代人が抱える「情報欲」の功罪 辛酸なめ子が流行を追う理由
現代人が抱える「情報欲」の功罪 辛酸なめ子が流行を追う理由 辛酸なめ子(しんさん・なめこ)/漫画家、コラムニスト。東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。『新・人間関係のルール』『女子校礼讃』『電車のおじさん』『無心セラピー』など著書多数 (撮影/中央公論新社写真部)  次々に生まれては過ぎていく流行を、いったん立ち止まって振り返ったら何が見えるのだろう。辛酸なめ子さんの新刊『辛酸なめ子の独断! 流行大全』(中公新書ラクレ、1320円・税込み)には、2014年から昨秋までに流行した250語がイラストと共に収録されている。読売新聞に連載中のコラムに寄稿したものだ。 「政治のような主要ニュース以外の、カルチャー、IT、宇宙などの話を、人間の歴史の一つとして書き残せてよかったと思います。誰かが懐かしいと思ってくれることを書き留められたような気がするんです」  自撮り棒やユーチューバーが2014年頃から流行していたことがわかるし、風邪でもないのにマスクをして出歩く「伊達マスク」はのどかだったコロナ以前の日々を思い出させてくれる。  他にも「ブラック女子会」「妻夫木夫妻」「ダサいセーター世界選手権」「天狗にさらわれた少年ブーム」「お尻日光浴」など、文も絵も辛酸さんならでは。 「流行を観察していると、時代の流れに取り残されないでいけそうな気がするんです。現代人には食欲、性欲、物欲などのほかに情報欲があると思います。情報を集めれば集めるほど快感や達成感が得られ、人に話せば承認欲求も満たされます」  自身も常に情報をインプットしていたいタイプだ。中学時代には原宿の歩行者天国にバンドを見に行き、大人になってからは海外セレブが来るというクラブを訪ねたり、「冬のソナタ」のヨン様が座ったカフェの椅子に座ろうとしたり……。 「パワースポットじゃないですけど、話題の場所に行くとすごくエネルギーがもらえるような気がするんです。新しくできたビルにはすぐ行くようにしていますし、上野動物園の双子のパンダの特別観覧も申し込みました。半分趣味なのかもしれません」  しかし、情報を詰め込みすぎるとインスピレーションが湧かなくなるので、コロナで時間ができた昨年はボーッとするために近所の公園に通った。それでも何かが気になってしまうのが辛酸さんだ。ハトの群れの中に一羽の白いハトを見つけ、公園に行くたびに追跡した。 「コロナの閉塞感で不安な中、平和で神秘的な感じがして、すごく癒やしてくれたんです。夢の中でシロちゃんという名前だとわかりました。最近は見かけないので、元気だといいのですが」  コロナで妖怪アマビエが注目され、海外では外出がままならない中、枕を体の前面にベルトで固定し、ミニドレス風に見せた写真をSNSに投稿する「ピローチャレンジ」という珍妙な遊びが流行した。 「コロナへのそれぞれの打開策が出てきて、明るい兆しもありました。人間のけなげさというか、こうやってみんな乗り越えていくんだなという、人類の一体感みたいなものを感じましたね。大変な時代だけど、この本でリラックスしていただければいいなと思っています」 (仲宇佐ゆり)※週刊朝日  2022年2月11日号
有罪判決でも返り咲いた37歳の美濃加茂市長が語る検察の矛盾「河井事件は不問。法は不平等」
有罪判決でも返り咲いた37歳の美濃加茂市長が語る検察の矛盾「河井事件は不問。法は不平等」 美濃加茂市長に返り咲いた藤井浩人氏 「有罪判決を受けて、また選ばれるという市長は私の他にいないでしょう。今も再審請求中で最後まで争うつもりです。せっかくなので稀有な経験を市政に反映させていきたいですね」  こう苦笑するのは、1月23日投開票の岐阜県美濃加茂市で4度目の当選を果たした、藤井浩人市長(37)だ。  藤井氏が28歳で美濃加茂市選挙に初当選したのは2013年。当時は、全国最年少市長だった。 だが、そのキャリアは1年あまりで暗転する。藤井氏が美濃加茂市議時代に愛知県の浄水設備会社の社長から、現金30万円を受け取ったとして2014年6月、受託収賄罪の容疑で愛知県警と岐阜県警に逮捕された。  藤井氏は一貫して無罪を主張し、市長職にとどまった。 そして、一審の名古屋地裁で無罪判決とされた。しかし、2016年11月の控訴審では一転して有罪判決が言い渡される。 そこで、同年12月に市長を辞職し、出直し選挙に出馬し、圧勝。 事件については最高裁に上告したが、2017年12月に棄却され確定、公民権も3年停止となり、辞職を余儀なくされた。  藤井氏は市長時代の幹部、伊藤誠一氏を「後継」として推し、後を託した。 2020年12月に執行猶予が満了、公民権停止も終わった藤井氏は21年末、市長選に出馬を表明する。  市長選は藤井氏が後継を託した現職の伊藤氏と一騎打ちとなった。藤井氏は出馬に至った心境をこう振り返る。 「伊藤氏に後をお願いしたのは私です。尊敬する方でもあり、出馬するのは複雑な心境でした。なぜ出馬したのか、それは選挙の最大の争点、市役所の移転、建設場所の問題です。市内のホテルを取り壊しそこに建てると伊藤氏は説明したが、市民からは反対意見も多かった。私には事件の経験がある。被告という立場でしたが、徹底的に情報公開して、警察や検察、裁判所のおかしいところなど問題をどんどん発信してきた」  藤井氏はそのおかげで地裁では無罪判決を勝ち取り、最高裁まで戦い、再審請求もできた、という。 「2016年の出直し選挙で勝てたのも、自身の情報公開で事件が冤罪だと市民に理解していただけたからです。市役所の移転計画は、4か所の候補地があるのに、なぜホテルを取り壊して建て替えが必要なのか。そのプロセス、過程が判然としない。一部の意見、偏った情報で進んでいるのではないかと市民が不信感を抱いていたので、出馬を決意した」  名古屋高裁への再審請求を公表したのは、昨年11月30日と選挙が差し迫っていた。 「再審請求をすれば、また裁判があって、市政に支障をきたさないか」との声が市民から寄せられた。藤井氏はこう話す。 「これも市長時代から、自分の事件についても積極的に情報公開してきたことで、市民にも事件の概要はご理解いただいていた。多くの方が無罪をとも言ってくださった。再審請求についても、司法制度を詳しく説明することで、不安が払しょくされ、私の思いが通じたと思います」  藤井氏のホームページには、有罪判決を隠すどころか、<前科者と呼ばれても政治家として闘うワケ 私は誰に嵌められたのか>と堂々と書いている。  その姿勢が評価されたのか、選挙の結果はダブルスコアに近い大差での圧勝だった。 「市役所は新しくしなければならないと思うが、建設場所や規模、予算などは白紙にして市民に意見を聞いて、考えたい」  最近、藤井氏が気になったというのが2019年の参院選で2900万円をばらまいて、公職選挙法違反(買収)に問われ、有罪が確定している河井克行、案里夫妻の事件だ。  河井夫妻からカネを受け取った被買収の広島県議ら地方議員ら99人を検察が不起訴としていた。しかし、後に検察審査会では99人の地方議員のうち35人を起訴相当と議決した。  藤井氏と同じ市長という立場で、河井夫妻から150万円を受け取り辞職に追い込まれた、元三原市長の天満祥典氏も起訴相当だった。藤井氏は河井事件と自身の事件とで、矛盾した対応をする検察にこう怒る。 「私の支援者の中には『藤井君より桁違いのカネもらって、罪に問われない、不起訴はおかしい』と言ってきた方もいらっしゃる。その通りです。国民から選ばれた検察審査会こそ正義がある。検察の不起訴って、法の下の平等ってなんでしょうか」  市長に返り咲いても、事件は再審請求で徹底的に争うと公言する。 「私が冤罪に陥れられた事件の事実を警察、検察、裁判所が正面から受け入れようとしない。警察には長時間、過酷な取り調べで真実を言っても聞く耳を持たなかった。私を有罪にするストーリーに沿った都合のいい話だけをしろ、という傲慢さだった。私が容疑を認めないと検察は贈賄側と連日、打合せを繰り返し、でっち上げを法廷で証言させる。私は名古屋地裁で無罪となったが、有罪とした名古屋高裁は一度も私の被告人質問を認めなかった。つまり、話を聞かないまま、判決を出した。このまま引き下がることはできません。警察、検察、裁判所はある意味、国民の最後の砦ですから、正義がないと困ります。市長としてのこの経験をもとにしっかりと地方行政が腐敗しないよう取り組みたい」 (AERAdot.編集部 今西憲之)
『漢字のナンプレ』などパズル5000問考案の第一人者・馬場雄二 漢字の授業が「大嫌い」だった過去
『漢字のナンプレ』などパズル5000問考案の第一人者・馬場雄二 漢字の授業が「大嫌い」だった過去 制作した漢字パズルを手にする馬場雄二さん。中央の「島」の中に白い道のように見えるのがすべて漢字。この道のような模様の中から、全学年で学習した漢字を一つ一つ探していくパズル(写真/写真部・高野楓菜)  いま、脳トレや物忘れ防止として漢字パズルがシニアに人気だ。そんなパズルを、御年84歳にして“解く”のではなく“考案”し続けている人がいる。ビジュアルデザイナーの馬場雄二さんだ。 *   * *  デザイナーとして長野オリンピックのデザイン検討委員長をつとめ、さらに「目玉マーク」でおなじみのフジサンケイグループの統一ロゴタイプをディレクションした経歴を持つ馬場さんは、パズル考案の第一人者でもある。これまで新聞やテレビ、雑誌で5000問以上のパズルを発表し、テレビ番組「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)などにも漢字パズルの第一人者として出演している。  2021年11月にも、新作『漢字のナンプレ』(朝日新聞出版)を上梓。そんな馬場さんのアイデアの源、パズル制作への思いなどについて聞いた。 ■100作品以上のパズルやゲームを制作  これまで漢字を使ったパズルの本やボードゲームを100作品以上、半世紀に渡り世に送り出してきました。中でも、漢字の「偏」と「つくり」を組み合わせて遊ぶゲーム『漢字博士』は、ミリオンセラーとなり、多くの人に楽しんでいただきました。 「漢字などの文字やデザインを遊びの視点から創作・研究すること」これは私が子どもの頃から一貫して取り組んできたテーマです。  1938(昭和13)年、長野県上田市で生まれ、子どもの頃から野球が大好きでした。とはいえ、当時は野球の道具など簡単に手に入る時代ではありませんでしたから、ボールからすべて自分で手作り。ボールは真ん中に丸い石を入れて布でぐるぐる巻いて縫うんですが、石が中心からズレてしまうと、投げたときに変な回転をしたりゆらゆらと揺れるなど予想外の動きをしてしまう。野球の道具としては完全に失敗作なんですが、私は「これは面白い!」と思いましてね。このボール作りが、私がデザインというものに興味を持つきっかけになりました。  一方、漢字はどうかといえば、実は学校の漢字の授業は大嫌いだったんです。書き順からはじまり、「木偏は跳ねちゃいけない」とか、「手偏は跳ねなきゃバツ」とか。学校で習う漢字の勉強は記憶の強制でしたから、ちっとも面白くなかった。授業中は先生の話は聞かずにじっと漢字を眺めていたんですが、おかげで漢字の持つデザインの面白さに気づくことができたんです。だから、漢字に興味を持ったのは退屈な授業のおかげ(笑い)。 昔、「3年B組金八先生」というテレビドラマのなかで、武田鉄矢さん(金八先生)が「『人』という字は、人と人とが支え合っている」という話をしたじゃないですか。最近、ご自身で「あれは間違いでした。単に立っている人間を横から見たものでした」と否定されていたようですけど、私は最初の武田さんの説のほうがずっと面白いと思います。  諸説の中のどれが正解というのではなく、そういう面白みを感じられたほうがいいですし、漢字が楽しくなると思いませんか。 ■アイデアは「面白いもの」の組み合わせで生まれることが多い  こうして、漢字とデザインの世界にどっぷりと浸かっていくわけですが、漢字の面白さを多くの人に知ってもらいたいとの思いで、本やゲームを出したり、新聞や雑誌の連載などをしてきました。漢字パズルを作るときに一番大切にしているのは、自分が面白いと思って作った漢字のパズルを同じように他の人にも面白いと感じてもらえるかという点です。  以前、朝日新聞の日曜版で「馬場雄二のデザインQ」という連載をしていたんですが、休刊で私の連載も終了してしまうと、たくさんの読者の方々から「やめないでほしい」というハガキをいただきました。編集部に3000通もハガキが来たそうで、これほど多くの人が、「面白い」と思ってくれていたんだなと逆に自信になりましたね。読者ハガキは今でも大切に保管しています。  漢字パズルなど、「どうすれば発想が生まれるんですか?」と聞かれることがあります。私は面白いと思うものを“組み合わせる”ことが多いですね。たとえば、今回の『漢字のナンプレ』もそうですが、パズルの中でも常に人気のある代表的な2つともいえる「ナンプレ」と「漢字」の組み合わせです。ナンプレとは、数字を使ったパズルゲームの一種ですが、『漢字のナンプレ』は、マスにその画数の漢字を配置して熟語を見つけ出すパズルです。語彙力をアップし、楽しく脳活することが期待できます。 馬場さんが考案した新しい漢字パズル、『漢字のナンプレ』。(解き方)(1)空いている枠に、選択リストから該当する画数の漢字を書き込みます。(2)1つの三字熟語と3つの二字熟語になるように、4部屋に区分けしましょう。  他にも漢字と地図やジグソーパズル、カルタなどと組み合わせるなど、「これを組み合わせたら面白いだろうな」と、今でもよく考えています。大切なのは「面白そうだ」「楽しそうだ」と思える野次馬精神。普段から移動中でも街なかでも、面白そうなものに出合ったらスマホで写真を撮って記録するようにしています。 ■私の最高傑作は「次作です」  高齢になっても、元気に活動を続けていく源となるのは、体力と気力(意欲)です。私の場合、パソコンに向かって仕事をすることが多いので、足の筋肉の衰えはあります。シニア向けの筋トレのジムには通っていますが、80歳を過ぎても、年齢には関係ないというものの、なかなか筋肉をつけるのは難しいですね。  食事は、あまりグルメじゃないので美味しいものへのこだわりはないんです。お腹が空いていれば何でも美味しいですからね。だから食事は体力を維持するための薬みたいなもんだと思って食べています。  あと、脳トレに妻と一緒にやっているのが、トランプゲームの神経衰弱。ただし、52枚全部使うのは夫婦2人では大変なので、20枚だけにして毎晩やっています。記憶力のレベルに合わせて、枚数を変えることもできるので脳の衰えが心配な方におすすめですよ。  体力的な衰えはあっても、気力はまだまだ衰えてはいません。80歳を過ぎても「次はどんな新作をつくろうか?」と、いつも考えていますよ。特に何歳まで続けたいとか、目標があるわけではないんですが、この気力が衰えてきたら、自分で仕事を制御するんじゃないかと、自然にまかせるようにしています。  これまで、たくさんのパズルを作ってきて「ご自身の最高傑作はなんですか?」とよく聞かれるんですが、「次の作品です」とお答えします。次作こそが私の代表作になる。そんな意欲を持って、今でも仕事に取り組んでいます。 (取材・文/山下隆) 馬場雄二さん ばば・ゆうじ/東京藝術大学大学院修了(第1期生)。ビジュアルデザイナー・東北芸術工科大学名誉教授。文字やデザインを遊びの視点から創作・研究するとともに、フジサンケイグループ、NEC、西武百貨店、学研などのCIディレクション、グラフィック、商品開発などを手掛ける。世界カレンダー賞(USA)金賞、ザ・トリック展優秀賞、東京発明展特別賞、おもちゃ大賞、グッドデザイン賞、白川静漢字教育賞特別賞受賞。「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)などテレビ出演多数。長野冬季五輪デザイン検討委員長を務めた。近著に『パズルの達人が新しく考案 語彙力を鍛えて楽しく脳活! 漢字のナンプレ』(朝日新聞出版)など。
車両が川面すれすれ? 江戸川区にあった「専用橋」をゴトゴトと走る57年前の都電
車両が川面すれすれ? 江戸川区にあった「専用橋」をゴトゴトと走る57年前の都電 「0メートル地帯を行く都電」のフレーズに相応しい旧中川を専用橋で渡る25系統須田町行きの都電。小松川三丁目~浅間前 (撮影/諸河久:1964年12月19日)  1960年代、都民の足であった「都電」を撮り続けた鉄道写真家の諸河久さんに、貴重な写真とともに当時を振り返ってもらう連載「路面電車がみつめた50年前のTOKYO」。今回は城東電気軌道(以下城東電軌)から引継いだ小松川線の中川専用橋と、その周辺の情景を紹介しよう。 *  *  *  川面に映る電車を見るだけで、どこかゆったりとした時間が流れているように見えるかもしれない。もちろん現在では見ることができない東京の光景の一つだが、その静謐な印象と異なって、写真からは当時の「音」と「臭い」を呼び起こす。  25系統が走る小松川線(錦糸堀~西荒川 3600m)の歴史は、2019年10月5日の本コラムで既報している。前回は終点の西荒川停留所の新旧対比を紹介したが、今回は西荒川の手前、旧中川に架かる中川専用橋を渡る都電と亀戸九丁目から続く専用軌道区間の浅間前(せんげんまえ)停留所や小松川三丁目停留所周辺の話題を綴ろう。 旧中川に架橋された中川専用橋の風景  冒頭の写真は旧中川に架かる中川専用橋を渡る25系統須田町行きの都電。都電の専用橋はこの他に、荒川線の高戸橋橋梁、砂町線の竪川橋梁、信濃町線の中央線跨線橋があるが、約80mの川幅に6橋梁、5橋脚を擁する中川専用橋が図抜けた規模の橋梁だった。  埼玉県の幸手や杉戸を流れる古利根川を上流とする旧中川は、最下流のこの辺りでは天井川となり、橋桁すれすれまでに川面が迫る「江東0メートル地帯」を象徴する景観だった。筆者が旧中川畔を訪れた1964年当時、河川の汚染は深刻で、上流の古利根の清流とは対極的な異臭を放つ汚水の流れに閉口した覚えがある。 望遠レンズが描写する勾配と曲線軌道のパースペクティブ。往時の小松川線は路面電車ファンを魅了するフォトジェニックな路線だった。小松川三丁目~浅間前 (撮影/諸河久:1964年12月19日)  次のカットを見てほしい。旧中川の西岸にあたる浅間前方向から専用橋を渡り終えて、水面より低い地平に勾配を下る25系統日比谷公園行の都電を捉えた一コマだ。アサヒペンタックスSVにタクマー200mmF3.5レンズを装着し、軌道のパースペクティブを強調した望遠レンズならではの描写となった。 「亀戸浅間神社」のご参詣最寄り下車駅だったのが浅間前停留所で、写真の右端画面外の踏切に連なる道が参道だった。亀戸浅間神社は霊峰富士山の守護神・木花咲那比売が祭神で、現在の社殿は震災復興後の1934年に再建され、1945年3月の東京大空襲からも延焼を免れたことから、火伏の神として信仰を集めている。  境内には城東電軌の遺物として1999年に亀戸九丁目町会から寄贈された「大正時代に作られたイギリス製のレールです」と掲示されたレールを展示しているが、当該レールには「37A 1962」の鋳造印があり、戦後の国産レールではないかとの疑問が残る。  画面左端には錦糸堀方面への折返し分岐が写っている。終点の西荒川まで900mに満たない浅間前に折返し分岐が設置されたのは、この先の旧中川が増水して西荒川までの運行が不能になった時の折返し運転に備えたもの、と推察した。 流線形時代に生まれた1200型の車体を延伸改造したのが1500型で、乗車定員が64名から96名に増加した。錦糸堀車庫に全車46両が配置され、25・29・38系統で1971年まで使用された。浅間前(撮影/諸河久:1964年6月21日) 戦火に消えた幻の小松川車庫  浅間前から西荒川に向かう都電で旧中川を渡ると、行政区画が江東から江戸川に変わる。下り坂を左に緩くカーブして1952年まで新町と呼称された小松川三丁目停留所に到着する。周囲は工場地帯の真っただ中で、写真のように都電の踏切に相対する停留所が設置され、多くの乗客で賑わった。  小松川三丁目から小松川四丁目(旧称小松川)の間には城東電軌から引継いだ小松川車庫があり、1942年に東京市編入後は城東車庫となった。この城東車庫は1945年3月10日の東京大空襲で在庫した34両の都電と共に焼失している。戦後も復旧されることなく、車庫機能を錦糸堀車庫に移管して廃止された。 周辺を工場に囲まれた生活感溢れる小松川三丁目停留所は、都電の踏切を挟んで相対に設置されていた。(撮影/諸河久:1964年6月21日)  小松川線をモチーフにした都電関連の記事を読むと、車庫は西荒川に向かって右側にあったらしい、という曖昧な記述が散見される。今回、幻となった小松川車庫の正確な所在地を解明するために検証を始めた。その結果、以下のような事実が得られ、車庫は左側に所在したことを確信した。  糸口となったのが、大先輩の宮松金次郎氏が1932年に寄稿された雑誌「鐡道」36・37号「城東電車」の記事だ。閲覧可能な最古の調査報告資料で、下記に抜粋すると、 『全線中割合に数多い橋梁の中で一寸渡り答えのある橋を渡りますと間もなく「小松川」、左手に車庫と変電所があります。』(原文のママ)とあり、宮松氏は車庫と変電所の所在位置を小松川停留所の手前左側と記述されている。  もう一つの手がかりとして、城東電軌時代の地図を調査した。「江戸川区立図書館/デジタルアーカイブ」にアクセスしたところ、戦前の「江戸川区全図」がヒットした。 「荒川区全図(1932年)」から抜粋した小松川周辺図。城東電軌小松川車庫の位置と線形が判読できる。(出典/江戸川区立図書館 デジタルアーカイブ)  この図が「江戸川区全図(1932年)」から小松川付近の抜粋で、懸案になっていた小松川車庫の正確な位置と線形が判明した。これによると、車庫は西荒川に向かう小松川線の左側(地図では北側)に位置し、入出庫線は西荒川方面に接続されていた。 方向幕に小松川車庫前と掲示した城東電気軌道の70型。1929年の汽車製造製で、市電編入後30型37となったが、東京大空襲時に城東車庫に改称されたこの地で焼失した。小松川車庫(撮影/宮松金次郎:1932年頃)  次の写真が、前掲の江戸川区全図と同じ1932年頃の小松川車庫の全景で、宮松金次郎氏の作品を拝借した。このカットは西荒川側から新町方向を写しており、画面左側に小松川線が写っている。画面右奥には木造の矩形検修庫があり、妻部には「城」をデザインした城東電気軌道の社紋が貼付されていた。  最後の写真が1964年の訪問時に撮影した旧小松川(城東)車庫跡と旧城東電軌の変電所と思しき建物を左手に見て、終点西荒川に走る25系統の都電。かなり傷んだコンクリート製の建造物で、戦火にも耐えた城東電軌の遺構の一つと推定したが、いかがだろう。 破損して傾いたビューゲルで西荒川に向かう25系統の都電。画面右側が旧城東車庫の跡地と思われ、コンクリートの建物は旧変電所ではないかと推察する。小松川三丁目~小松川四丁目(撮影/諸河久:1964年6月21日)  小松川線の水神森~西荒川は1972年の全廃に先立ち、1968年9月に廃止された。 「この界隈から乗り換えなしで、神田や日比谷の繁華街に出掛ける格好の乗り物だった」と、都電は沿線の人々の伝説として今に語り継がれている。 ■撮影:1964年12月19日 ※AERAオンライン限定記事
トッド氏「女性解放の進展は、人種・同性愛への差別の後退につながっている」
トッド氏「女性解放の進展は、人種・同性愛への差別の後退につながっている」 アフガニスタンから米軍が撤退し、20年ぶりにタリバンが政権を掌握。アフガンの女性たちの解放はどうなるか(写真:Anadolu Agency via gettyimages  歴史家、人類学者のエマニュエル・トッド氏は、最新作のテーマに「女性の解放の歴史」を取り上げた。女性解放が進んだことで、現代社会にどんな影響を与えてきたのだろうか。ジャーナリストの大野博人氏がオンラインでトッド氏に聞いた。AERA 2022年1月31日号から。 *  *  * ──本では、農耕・牧畜以前の野生の動植物を食料としていた狩猟採集民だったころの人類の家族の形を出発点として論を展開していますね。それは夫婦と子どもからなる核家族で、男女の分業はあったが平等だったと。  西欧の家族の進化を理解するには、狩猟採集民の家族と比べる必要があります。その当時の形態に比較的近いまま残ってきたからです。  世界各地の狩猟採集民の家族で、狩猟は男性の仕事でした。例外はごく限られています。そして採集は主に女性の仕事でした。男女の分業があったのです。  狩猟と採集には大きな違いがあります。女性が採集した野菜や木の実などは、彼女とその家族の中にとどまりました。他方、夫たちの狩猟の獲物の肉は常にその地域の集団の中で分配されました。  そこに注目すると、家族中心の個人主義的考え方の担い手は女性で、男性は自分が属する集団の組織を担う側となります。  また、その家庭内の夫と妻の関係は平等でした。当時の人間にとっての一番の問題は、きびしい自然環境を生きのびること。だから男女は協力しなければならなかった。家族を支えたのは男女の連帯だったのです。  今も、社会的、経済的に特権的ではない階層の人たちの男女関係は連帯的です。近年は、中流の階層の人も経済的に困難が増しています。  フェミニズムの論客たちは男性支配を激しく批判し、女性殺しという言葉まで使います。でも、女性が殺害されるケースはフランスでは減り続けています。そして実際の中流の家族や夫婦の安定度は増しているのです。  だって、今は中流でも生きていくには2人分の給料が必要ですから。男と女を敵対的に見るイデオロギーと裏腹に、経済的困難の中で、中流階級の男女は連帯する関係に進んでいます。  たとえば英米メディアは、性について人類の新しい地平が開けつつあるかのように書きます。けれど読者たちは夫婦の収入で家庭を安定させ、子どもをいい学校に行かせようなどと考える。イデオロギーではなく現実を見なければ。 Emmanuel Todd/1951年生まれ。家族構造や人口動態などのデータで社会を分析し、ソ連崩壊などを予見してきた ──本では、女性の解放は人種差別の後退につながっているとも指摘していますね。  そのとおりです。狩猟の獲物を分配するという意味で男性は集団の担い手でした。  集団で助け合うのはいいことですが、それは同時に戦争にもつながります。なぜなら集団を組織するというのは、他の集団への対抗でもあるからです。男性の役割は、自分の集団を守るとともに他の集団を攻撃することです。人種差別も同じです。これは集団的な帰属意識のヒステリックな表れですから。  女性はそういうことにかかわらない。で、集団への帰属意識が弱まれば軍事活動、集団と集団との間の戦争は成り立たなくなるし、人種差別も後退する。 おおの・ひろひと/1955年生まれ。朝日新聞でパリなどの特派員やコラム「日曜に想う」を担当。退社後、長野県安曇野市に移住 ■集団活動はより困難に  本では、女性の解放が進んだことで、宗教的信仰の衰退や同性愛嫌いの終わりも説明できることを示しました。反同性愛感情は男性的なことなのです。トランスジェンダーも含め性をめぐる変化は女性解放の副産物です。  女性は、政治や経済でまだ中心的な地位は得ていないとしても、文化的には歴史をつくってきたのです。「すべての人の結婚」への進展にも背後には女性の解放がありました。  他方、集団への帰属意識の崩壊は、破滅的な状況につながることもあります。人々が助け合う意識が薄れ、ブレーキのない新自由主義的な経済社会をつくりだす。人々から社会的な権利を奪い、労組も崩壊する。  女性の解放は本質的に人種差別や同性愛への差別を終わらせるとてもよい結果をもたらしています。しかし、否定的な面もありそうです。みんなでいっしょに行動するということがむずかしくなったかもしれない。  新自由主義的な革命は女性の解放と同時に起きています。まだ決定的な答えを出していませんが、個人主義が高まり、集団的な活動が不可能になりつつあることは、女性の解放と関係ないのだろうか、と問わないわけにはいかないと思います。 (構成/ジャーナリスト・大野博人)※AERA 2022年1月31日号より抜粋
3つで268円のソース焼きそばが冷蔵庫のスタメンになる理由 鈴木おさむがハマったお取り寄せ
3つで268円のソース焼きそばが冷蔵庫のスタメンになる理由 鈴木おさむがハマったお取り寄せ 放送作家の鈴木おさむさん  放送作家・鈴木おさむさんが、今を生きる同世代の方々におくる連載『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は、コロナ禍で見つけた何度も頼みたくなるお取り寄せについて。 *    *  * コロナ禍になり、わが家で一番の変化は、かなりお取り寄せを頼むようになったこと。もともと好きでしたが、コロナ禍になり拍車がかかった。しかも、僕がハマってしまった。  高いお取り寄せはおいしいに決まってるんだけど、なんだろう、そのあと何回も頼む気にならない。一度食べて「おいしかったね」で終わってしまう。  何度も頼みたくなるものって、生活に馴染むお取り寄せなんですよね。  というわけで、オミクロンにより、また家から出なくなっている方も多いと思うので、今日は文字だけでお伝えする、「安くて体にフィットするマジうまお取り寄せ」、教えましょう。  まずは焼きそば。僕はしょっちゅう、スーパーで蒸し焼きそばを買って、小腹がすいたら食べます。息子も大好きです。だけど、本当に理想の焼きそばってなかなか出会うことが出来ない。  だけど出会ったんです。理想の焼きそばに。出会った瞬間、頭の中では小田和正の「ラブストーリーは突然に」がかかったくらい。  その商品は、妻の知人がフードフェアみたいなところで買ってきてくれたのです。良く売ってる蒸し焼きそばとあまり変わらない。「那須のソースやきそば」と書かれている。  早速家で焼いて食べてみると。うまーーーーーーーーい!!麺のほどよき太さと、もっちりした歯ごたえ。そしてなんといってもソースの濃さ加減。これがすごい。理想の濃さ。焼きそばのソースって薄いとパンチないし、濃すぎるとまとわりつく。でも、このソース加減がもっちり麺と絡み合っている理想の焼きそば。なんだ?この焼きそば。調べてみると、那須塩原の「菊地市郎商店」さんというところの商品。  ネットで見てみると、那須連山の麓という地の利を生かし、那須の美味しい水を使い生産しているとのこと。水か!水のこだわりでこの麺になるのか!?  オンラインショップがあったので、早速入ってみる。水にこだわった麺。まあまあお値段するかと覚悟して見てみると、那須のやきそば、3つ入りで268円(税込み)。やすーーーーーい!スピードワゴンの「あまーーーい」なノリで叫びたくなるほどのお値段。  なんと40年のベストセラーだとか。これを知ってから、もううちの冷蔵庫のスタメンになってしまいました。ちなみにこのお店の「那須のあつあつ鍋焼きうどん」も超うまい。  何がいいって、そのままキッチンの火にかけるだけ。上の天ぷらがいい感じの柔らかさになる。こんなにうまい鍋焼きうどん、さぞや高いだろうと値段を見ると、一個220円(内税)。やすーーーーーい!!!  そして、二つ目に紹介するのは、餃子です。餃子のお取り寄せってめちゃくちゃ買いましたが、正直、これは本当にうまい。  東京千代田区で1日1300個の餃子を包み続けて67年。「おけ以」さんの餃子です。様々なメディアで紹介されているから知ってる人も多いと思いますが、名店の餃子をと取り寄せして家で焼いて、まあ、おいしいんだけど、めちゃくちゃおいしい!となることって少ない。  だけど、この「おけ以」さんの餃子のお取り寄せはめちゃくちゃうまい。  なんでそんなにおいしくなるのか?僕が思うことは、焼くのがめちゃくちゃ簡単なのだ。意外とお取り寄せの餃子って家で焼いて食べると、お店のそれには程遠かったりするのだが。  この「おけ以」の餃子は、家のフライパンで簡単に焼ける。そして、パリッパリの羽根がつく。僕でもこんなにうまく焼けるんだから、全国の奥様方はもっとうまく焼けるはず。  そして、食べてみると、皮の歯ごたえが、もう、マルチバースの扉を開ける。  もちもち餃子ってたくさんありますが、もちもちしすぎるものって僕は好みじゃない。程よきもちもち感と、家で簡単に再現できるパリパリ感が手を組んでいる。  とにかく家で簡単に上手に焼けるのが、この「おけ以」のすごさ。いや、家族3人取り合いになりました。  で、この餃子。さぞやかなりお高いでしょうと思って見てみると・・・おけ以位餃子 20個 1620円(税込み)。リーズナブーーーールー!!!  これも早速、うちの冷凍庫のスタメン入りしました。  ここにきて本当に激増するコロナで、気持ちも滅入りますが、そんな時は家で安く楽しみましょう!  やすーーーーーい、うまーーーい、最高! ■鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。パパ目線の育児記録「ママにはなれないパパ」(マガジンハウス)が好評発売中。毎週金曜更新のバブル期入社の50代の部長の悲哀を描く16コマ漫画「ティラノ部長」と毎週水曜更新のラブホラー漫画「お化けと風鈴」の原作を担当し、自身のインスタグラムで公開中。コミック「ティラノ部長」(マガジンマウス)は発売中。「お化けと風鈴」はLINE漫画でも連載スタート。YOASOBI「ハルカ」の原作「月王子」を書籍化したイラスト小説「ハルカと月の王子様」が好評発売中。長編小説『僕の種がない』(幻冬舎)が発売中。作演出を手掛ける舞台「怖い絵」が2022年3月に東京・大阪にて上演。
在宅ワークやスマホで“痔主”が増加 出血から貧血になることも
在宅ワークやスマホで“痔主”が増加 出血から貧血になることも ※イラストはイメージです  病気には、環境や生活習慣によって引き起こされるものがある。「痔」は、その代表例だ。逆に言えば、日々の生活を見直すことで、これらの症状は抑えることができる。有効な対策法を専門家に取材した。 *  *  * 「ふと便器を見たら、血で真っ赤に染まっていてギョッとしました」  こう話すのは、都内に住む会社員の40代男性だ。男性が痔になったのは、昨年8月。新型コロナウイルスの影響で、在宅ワークになって半年が過ぎたころだった。 「排便時にチクッとした痛みがあって、ペーパーでお尻を拭くと血がついていました。さすがに最初はびっくりしましたね」  在宅ワークになってから、男性は外を歩く機会がかなり減った一方で、デスクワークの時間が大幅に増えた。お酒を飲む量が増えたことも、痔になった原因かもしれないと話す。 「ただ、排便するとき以外は血も出ないし、痛みもなかったので、そのうち治るだろうと思って放っておいたんです。そのうち血を見ても何とも思わなくなりました」  ところが数カ月後、浴室で体を洗っているときに、男性はお尻に何かが挟まっているような異物感を覚えた。 「何だろうと思って触ってみたら、黒豆大のいぼがお尻の穴から出ていたんです。それから太ももに伝うくらい血が出てきたので、急いで病院に行きました」  男性のようにデスクワークが増えたことで、痔に悩む人は多い。そもそも、なぜ痔になるのだろうか。  東京・秋葉原で、50年以上にわたり直腸・肛門疾患の治療に力を注いできた林医院の林久太佳院長によると、「痔の症状には大きく『いぼ痔』『切れ痔』『痔瘻』の三つがあり、それぞれ原因が異なる」という。 「いぼ痔は、肛門にある糸くずのような静脈の塊が、うっ血してこぶのようになった状態です。長時間の座り仕事や便秘による力みなどが原因で、腹圧がかかり続けると血液が滞留して腫れがひかなくなってしまいます」  昔から高齢男性に多い症状だが、今は若い男女でもなりやすいという。原因はスマホだ。 ※イラストはイメージです (GettyImages) 「最近は、トイレにスマホを持ち込んでYouTubeなどの動画を見る人が増えています。ずっと前かがみになった状態で見ているので、長時間腹圧がかかってしまい、いぼ痔になる人が増えている印象がありますね」  一方、切れ痔は、特に女性に多いそうだ。原因は、ダイエットにある。 「便が硬くなることで、排泄時に肛門が裂けて起こることが多い。治癒するためには、便を軟らかくする必要がありますが、ダイエットを続けていると食事量の減少にともなって排便回数が減り、ずっと便が硬いままになってしまいます」  対照的に、痔瘻は、下痢が原因で起こりやすいという。 「痔瘻というのは、肛門の周囲に小さな穴が開いて、そこから膿が漏れ出てくる状態のことです。肛門の入り口から2センチほど奥に『肛門小窩(しょうか)』という米粒大の小さなくぼみがあるのですが、下痢が続くと、そのくぼみに頻繁に便が入ってしまう。さらに風邪などで抵抗力が弱まったのをきっかけに、中で細菌感染を引き起こし、膿がたまって穴が開いてしまいます」  林医院の場合、痔の患者の2~3割が高齢者で、「かなり重度化してから来院される方も少なくない」という。痛みがないと、自然に治るだろうと安易に考えがちだが、楽観視はできない。 ◆大腸がんの出血 痔だと勘違い 「いぼ痔がひどくなると、水道の栓をひねったように大量に出血することもあります。それが原因で貧血になって、階段や駅のホームから転落してしまった人も実際にいる。切れ痔の場合、大量に出血することはありませんが、症状を繰り返すと肛門括約筋が硬くなり、肛門が狭くなってしまう。そうなると便を出すたびに出血するようになり、手術が必要になることもあります。また、痔瘻が10年以上続くと、肛門がんになるリスクも出てくるため注意が必要です」  危険なのは、痔の悪化だけではない。大腸がんによる出血を、痔だと勘違いして放置してしまうケースもある。 ※イラストはイメージです 「痔による出血に慣れてしまうと、健康診断で便潜血を指摘されても、精密検査を受けない人がけっこういます。そのせいで、大腸がんが進んでから発見されることが多いのです。出血がある場合は、軽視せずに早めに治療してください」  軽症であれば、塗り薬の塗布と、飲み薬で便通をコントロールすることできれいに治る。重症のいぼ痔や切れ痔、痔瘻の場合は手術となるが、日帰りで入院は必要なく、料金は5万~6万円ほどだそうだ。 「痔の予防や悪化を防ぐためには、生活習慣を見直すことが重要です。特に最近は在宅ワークが増えていますが、ずっと座りっぱなしで仕事をせず、こまめに立ったり歩いたりしてください。それからトイレの時間は極力短く、入浴時はできるだけ湯船に浸かる。血の巡りをよくしたほうが、痔になりにくく、治りも早くなります」  便通をコントロールするためには、食事も重要だ。  松島病院大腸肛門病センター栄養科科長補佐で管理栄養士の新妻京子さんは、「普段から食物繊維を多くとることを心掛けてほしい」と話す。 「食物繊維には、便のかさを増やして、便通を促してくれる働きがあります。十分に摂取できていれば、つるんと排便できて痛みがなく、お尻もほとんど汚れません。逆に不足すると、便が形作られず、半液状になってしまいます」  痔になると、排泄時の痛みや出血を防ぐため、便は軟らかいほどいいと考えがちだ。しかし、それは逆効果だと言う。 「下痢便になると、患部に便が付着し、細菌がついてしまう。また、紙で拭き取る回数も増えるため、負担も大きくなります。硬すぎず軟らかすぎず、軽くいきんですぐに排便できるくらいの量と硬さをコントロールすることが大切です」  食物繊維の摂取目標量は、1日あたり約20グラム。水に溶けない「不溶性」と水に溶ける「水溶性」の食物繊維をバランスよく摂取したい。不溶性の食物繊維は、体内で水分を吸収して膨らみ、便の量を増やしてくれる。一方、水溶性は、体内でゼリー状になり、便を軟らかく、排便しやすくしてくれる。 「不溶性は大豆や雑穀、ゴボウなどの根菜類、水溶性は海藻やオクラ、山芋や里芋などに多く含まれています。あとは、バナナやリンゴといった果物を食べるのもお勧めです。バナナは食物繊維のほか、腸内の善玉菌の餌となるオリゴ糖を多く含んでおり、腸の働きを活発にしてくれます」  食事の内容だけでなく、食べ方や量も意識したい。 「できるだけ、よく噛んで食べてください。噛むほど唾液と食物繊維がよく絡んで、お通じがよくなります。それから便通は、便の重さが腸に刺激を与えることで促されます。食事量が少なくなると、排便回数が減って便が硬くなってしまう。朝昼晩と、1日3食きちんととりましょう。さらに1日あたり1.5リットルの水分をこまめにとるようにすると、便を軟らかく保つことができます。飲み物は緑茶よりも、水か、麦茶などノンカフェインの飲み物のほうがいいですね」 (ライター・澤田憲)※週刊朝日  2022年2月4日号より抜粋
トッド氏が語る「女性の解放」の現在地 #MeToo運動にショックを受けた
トッド氏が語る「女性の解放」の現在地 #MeToo運動にショックを受けた エッフェル塔近くのトロカデロ広場を行き交う人びと/2021年12月31日、パリ(写真:Antonio Borga/Anadolu Agency via gettyimages)  フランスの知性である歴史家、人類学者のエマニュエル・トッド氏。トッド氏が最新作で取り上げたテーマは「女性の解放の歴史」だった。人間の長い歴史の中で女性の解放は今どんな地点にたどり着いているのか。ジャーナリストの大野博人氏がオンラインでトッド氏に聞いた。AERA 2022年1月31日号は「性と社会」特集。 *  *  * ──この本を書くきっかけは?  1951年生まれの私がバカロレア(大学入学資格試験)を受けたのは68年。この年はじめて、女性の合格者が男性を上回りました。私は、男女の平等は当然だと考える世代に属しているのです。  しかし、#MeToo運動にショックを受けました。男女間を対決的に考える運動はフランスにはなじまないと思ったからです。でも、歴史家、人類学者としてはこのテーマに興味がわきました。 ──本では、今のフェミニズムの動きを逆説的と指摘していますね。女性解放の目的がほぼ達成されつつあるときに激しい異議申し立て運動が起きていると。目的達成とはどういう点で?  本で主に研究対象としているのは狭義の西欧(英米、フランス、北欧)ですが、たとえばフランスの政界を見ても女性議員の数は急速に増えています。閣僚もそう。次の大統領選挙では、ヴァレリ・ペクレス氏が初の女性大統領になる可能性だって出てきています。あらゆる職業に女性は進出しています。  もちろん、男性が抵抗している領域はまだあります。民間企業の幹部、資本主義の担い手たち……。まだしぶとく残る男性支配の薄皮はあります。  けれども、男女平等への動きはかなり前から進んでいます。バカロレアの例でわかるように、高等教育の領域で女性が男性を追い越したのが私の世代。もう50年以上前です。今、女性は男性よりさらに多い。 Emmanuel Todd/1951年生まれ。家族構造や人口動態などのデータで社会を分析し、ソ連崩壊などを予見してきた ■女性生きる環境は複雑  この結果、妻の方が夫より社会的に上位に立つカップルが増えています。女性が自分より年上で学歴があり金持ちの相手と結婚するハイパガミー(上昇婚)は今や過去のモデルで、今は逆にハイポガミー(下降婚)があちこちで見られます。私の友人の政治家もそれは自分のことだと言っていましたよ。 おおの・ひろひと/1955年生まれ。朝日新聞でパリなどの特派員やコラム「日曜に想う」を担当。退社後、長野県安曇野市に移住  たしかに社会上層部の男性はまだ優位性を維持しようとしています。しかし、西欧ではそれは男性全体の意思ではない。高等教育を受ける女性が多いのは、娘の教育をだいじだと考える父親がいるからでもあります。  女性のいらだちは、女性が置かれた社会的な条件も原因になっています。女性の生きる環境はとても複雑になりました。高等教育を受けたり、興味深い仕事に就いたりする機会は増えました。その一方で、子どもを産む機会も変わらずにある。  加えて、女性解放が進む今は、経済が傾き、生活水準が落ちている時代です。  このいらだちがすべての女性に見られるわけでもありません。知的な環境で生活している人、大学人といった立場にある女性によく見られます。それは古典的なプチブルジョアに特有の満たされない思いでもあるのです。今やプチブルジョアとは男性だけではありません。  もちろんまだ残っている男性優位についてのいらだちもある。けれど、社会階層がはらむ問題と混同している部分もあるのです。  フランスや米国などで、対決的なフェミニズムを担っているのは、経済界などの上層にまだ残る支配的な男性に怒っていて教育水準が高いプチブルジョアの女性たちなのです。 ──今のフェミニズム運動とともに広がった「ジェンダー」という用語に批判的ですね。 「ジェンダー」は「性」という言葉と置き換わったけれど、意味が流動的で現実をうまく捉えられない。ピューリタン革命みたい。この言葉は、性的なことを連想させませんからね。(構成/ジャーナリスト・大野博人)※AERA 2022年1月31日号より抜粋
「モラハラ離婚」報道の内村航平の母が反論で泥沼化…「本人は口を開くつもりない」
「モラハラ離婚」報道の内村航平の母が反論で泥沼化…「本人は口を開くつもりない」 14日の引退会見で花束を手にする内村航平選手  現役引退を発表した男子体操の第一人者・内村航平の「モラハラ離婚報道」について、内村の実母・周子さんが猛反論していることが報じられた。  内村のモラハラ離婚トラブルが「文春オンライン」で報じられたのは19日。引退会見を14日に行ったばかりで、晴れやかな表情で現役に別れを告げただけに衝撃が大きかった。同誌によると、妻の千穂さんが手料理を作っても『ウーバー頼んだから』と告げて、内村が自分の分だけピザや牛丼を頼むことも。食事以外でも色々な悩みを抱えた千穂さんは精神的に追い込まれ、体重が一時33キロ台にまで激減。昨年11月に内村から離婚の意思とともに「別居します」というLINEが送られてきたという。  この一報が報じられると、女性週刊誌「女性自身」(2022年2月8日号)が内村の母・周子さんへの電話取材を報じた。周子さんは「(週刊文春で)報じられていることは、どうもあちらさんのご両親などがお話ししたことのようですね」と推測した上で、「私たち、あちらのご両親とは、ちゃんとお話ししたことが今までもないし。きっと、自分のお嬢さんに都合のいいことをお話ししたんじゃないかと思うんですよ」と複雑な人間関係を明かした。  さらに「航平本人に直接お聞きになるのが正しいのだと思いますよ。ごめんなさいね、そういうことですから」と話したという。  内村と日本体育大学大体操部の1学年後輩だった千穂さんは結婚したのは、9年以上前の12年11月。その後2人の娘が誕生したが、両家の親同士は疎遠だということになる。 「色々事情があるだろうし、決して珍しいことではないと思います。仮に離婚に向けて話が進んでいるとしても、内村と奥さんで互いの主張は違ってくるでしょう。週刊文春の『モラハラ離婚』という報道だけで内村を一方的に攻めるのは違うかなと。純粋に体操が好きで頂点を目指してストイックにトレーニングを積んでいたことは間違いない。そのために食事などで家族にも迷惑を掛けたことはあるかもしれません。内村はこの件について口を開くつもりはないと思います。自分の知っている限り相手を傷つけるようなことを言わない性格なので…」(テレビ局スポーツ部関係者) 内村周子さん  最近は五輪メダリストが指導者ではなく、タレントに転身するケースが目立つが、内村は違う。目指すのは「体操の伝道師」だ。  引退会見では今後について、「日本代表の選手、後輩たちに自分が今まで経験してきたことを伝え、小さい子どもたちに『体操って楽しいんだよ』って普及活動したり、体操に関わるすべてのことをやっていけたら。僕自身も完全に体を動かすことをストップしないと思うので、自分が動いてみせてやるっていうのも1つあると思うので、体操に関わるすべてのことにチャレンジしていきたいという気持ちです」と熱弁している。 「体操以外のことで取り上げられるのは本意でないし、こういった報道が出ることに責任を感じているでしょう。夫婦が話し合えばいい問題で、第3者が口をはさむことではない。もうこの一件は騒がずに幕を閉じる形で良いのではないでしょうか」(体操団体関係者)  思いがけない形で注目されることになった内村だが、指導者として今後の活躍が注目される。(安西憲春)
100歳時代、お金が足りない! 老後破綻を逃れる“4つの手順”
100歳時代、お金が足りない! 老後破綻を逃れる“4つの手順” ※写真はイメージです (GettyImages)  老後資金の世界が大きく変わりつつある。「100歳まで」と期間は延びても、給料は増えないまま。もはや定年までの準備では、お金が足りないことが明白になってきた。どうすれば老後破綻は防げるのか。新しい考え方と「自分シミュレーション術」を伝授しよう。 *  *  *  これまでのリタイア世代は、50歳ごろに子育てを終え、50代を「最後の貯め期」としてせっせと老後資金を蓄え、リタイア後は年金を中心に貯めた資金を取り崩していく──こんな姿が普通だった。つまり、「現役」と「老後」が混じることなくきっちり分かれていた。  ところが、これからは現役時代の準備だけでは足りないのだから、そんなことは言っていられなくなる。これまで「老後」とされていた時期でも、マネー対策を講じなければならなくなるからだ。  収入を増やしたいと思えば、手段として考えられるのは主に二つ。「働いて収入を得る」ことと、65歳受給開始が基本の年金を、もらう時期を遅らせて年金額を増やす「年金繰り下げを行う」ことだ。  それぞれ、さまざまな選択肢がある。働く場合は、フルタイムなのかアルバイト的なチョイ働きなのかで働く期間や収入額が変わってくる。年金繰り下げは1カ月もらうのを遅らせれば0.7%年金額が増える。現在は70歳まで最長5年遅らせることができるが、今年4月からはそれが75歳までに拡大される。  あまりやりたくないが、どうしても支出を減らす必要が出てくれば、もう一段の「家計のダウンサイジング(節約)」が必要になる。家計の見直しのポイントは、金額の大きな固定費を減らすことだ。必要のない生命保険に入っていないか、さして動画も見ないのに携帯電話に月1万円も払っていないか、などを自問自答する。  そして、自分が持っているお金に働いてもらう「運用」も、これまで以上に重要さを増す。かといって高年齢になってから、リスクの高い個別株などに投資するのは、よほどの余裕資金がある人以外はやめておいたほうがいい。  それよりは近年、国が「自助努力」を促すために整備した資産形成のための制度を検討したい。代表格は、利用できる人が大幅に増えた「iDeCo(個人型確定拠出年金)」と18年に制度ができたばかりの「つみたてNISA」だ。 ◆マネーパーツを自分で組み立て  現役と老後を分けるのではなく、こうした「働く」「年金繰り下げ」「ダウンサイジング」「運用」などをマネーのパーツとして使いながら高齢期の人生を自分で組み立てていく、そんな時代に入ったとみていい。これまでのような「お金を使うだけの老後」から、「稼いで増やして使う老後」に変わりつつあるのだ。  しかし、各パーツをいつ、どのように使うかは、それこそ人それぞれだ。何より、自分の現状がどのような状態にあるかを把握していないと、先に進めない。ファイナンシャルプランナー(FP)の澤木明氏が言う。 「50歳になったら、100歳を見据えた老後のお金のことを考えるべきなんです」  まずは、自らの老後生活を予想し、家計の現状を総点検したうえで、FPの世界で「キャッシュフロー表」と呼ばれる「家計の長期予想表」の自分版を作ろう。そのために必要な作業の流れを示す。 (週刊朝日2022年1月28日号より)  ステップ1はリタイア後の支出の予想だ。この作業をするには、もちろん現状の把握が欠かせない。家計簿をつけている家計は「全体の1割程度」(澤木氏)というから、数カ月かけて月々の平均的な支出を洗い出してほしい。そして老後の生活レベルを夫婦で話し合って、大体の生活費を決めればよい。一つの目安は現役時の約7割だ。 ◆長期予定表作り百歳まで安心に  ステップ2はリタイア後の収入の予想である。年金は毎年誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」で金額を確かめる。もちろん夫婦2人分だ。50歳以上になると、実際にもらえるのに近い金額がわかるので便利だ。また、企業年金をもらえる人は、会社でもらえる期間と受給金額を確認しよう。  そしてステップ3は、現在の資産状況を把握することだ。これができれば現時点での自らの準備状況がわかるから、その意味でとても大切な作業だ。  複数の銀行に預けている預貯金は合算する。株式などの有価証券や持ち家などの不動産は、その時々の「時価評価」が基本だ。貯蓄性のある保険は「解約返戻金」が資産となる。住宅ローンや自動車ローンなど負債も合わせて記録する。 (週刊朝日2022年1月28日号より)  ここまですれば「家計の長期予想表」に落とし込める(ステップ4)。最初はごく大ざっぱなものでよい。終点は当然「100歳」だ。  パソコンを使える人はエクセルで比較的、簡単に作成できる。ポイントは、退職金などの一時的な収入を忘れずに記入し、自動車購入や海外旅行などの一時的な支出の頻度を自分で決めて記入することだ。  表ができたら「資産残高」が途中でマイナスに転じていることを確認し、同時に100歳まで生きたときのマイナス金額を記録しよう。そのマイナスの金額こそ、先に挙げた、さまざまなパーツを使って生み出していかなければならない部分になる。  あとはパーツを使って自分なりの対策を考え、それを数値化して長期予想表を作り直していく。生活費を切り詰めたり、潤いの費用をなくしたりするのは、みじめになるので極力避けたい。それよりは、長く働いて収入を増やし、その間は生活費が稼げるので年金繰り下げで年金額を増やすなど、使えるお金を増やすポジティブな方策を考えよう。  100歳でプラスになれば対策は成功だ。後は、その対策を実行に移せばよい。  1回作って終わりではなく、定期的に点検することも大切だ。マネーのことを考えるようになると、日々の生活でさまざまな「気づき」を得られるはずだ。それをどんどん長期予想表に反映していくのだ。  こうした作業の先にこそ、豊かな老後が待っている。 ◆「家計の長期予想表」、慣れてくれば「本格バージョン」に挑戦を!  ここまでは、「家計の長期予想表」の簡易版を扱ってきた。支出を「生活費」と「一時支出」の2項目に絞り、一時支出も「3年に1回、100万円」とするなど、家計を大ざっぱにとらえてきた。  しかし現実の生活は、やはりもう少し「リアル」だ。支出は項目を増やし、「何に」「どれくらい」使っているのかを「見える化」したい。そうすれば、知らない間に使いすぎになっている項目に気づきやすくなる。家計を腑分けすることが「生活改善」につながるのだ。 (週刊朝日2022年1月28日号より)  参考になるのが総務省の家計調査である。平均的な日本の家計が何にいくら使っているのかを毎月調査しているもので、標準を示すものとして「目安」にも使える。  この家計調査が支出項目として使っているのが、「食料」「住居」「光熱・水道」「家具・家事用品」「被服及び履物」「保健医療」「交通・通信」「教育」「教養娯楽」「その他の消費支出(交際費含む)」の10項目だ。ただし、リタイア世代は子供はすでに独立していることが多いから「教育」は省ける。「家具~」と「被服~」は統合してもいいだろう。  そこで、実際に書き込んで「わが家のリタイア後の生活費」として使えるように、この8項目を表にしてみた。家計調査では、「夫65歳以上、妻60歳以上の高齢夫婦無職世帯」のそれぞれの項目の毎月の支出額も発表されているので、それを右欄に示した。全国の標準額を目安にしながら、リタイア後の家計に思いをはせて表を完成させてほしい。  支出面では日々の生活費以外に、数年ごとや10年に1回、残りの人生で1回など大きなお金が必要になるイベント費用についても、できるだけ詳しいプランを作っておきたい。  一番大きいのは自宅のリフォームだろう。規模をどれぐらいにするかで価格はピンキリだからだ。しかし、リタイア後の長い年数を考えると、必ず1回は行わなければならない。最低でも数百万円は見積もる必要があるだろう。  地方や都市部でも郊外に住む人は自動車が日常の必需品になるが、これも結構な金額になる。10年に1回買い替えるとしても、リタイア後に1~2台は必要だろう。現役時代の暮らしぶりが良かった人ほど車には見えを張りたくなるものだが、こだわるとお金はすぐになくなってしまう。  そのほか、海外旅行や趣味などお金がかかるイベントは多いが、ポイントはまず「やりたいこと」を夫婦で話し合って、とりあえずすべてを盛り込むところからスタートするのがいい。リタイア後のプランを立てて、それを「家計の長期予想表」に落とし込めば結果がすぐにわかる。マイナスになれば希望どおりにはいかないわけで、そこから何を削るのかを考えていくのである。  自分で納得しながら、「実現可能で、かつ、希望に沿ったリタイア後の生活」を創っていく。「本格バージョン」に挑戦すれば、そんなことが可能になる。(本誌・首藤由之)※週刊朝日  2022年1月28日号より抜粋
20年後に家計破綻が続出 晩婚がとどめ「老後資金まで手が回らない」
20年後に家計破綻が続出 晩婚がとどめ「老後資金まで手が回らない」 ※写真はイメージです 「このままでは今から20年後、30年後に老後破綻する家計が続出するのではないでしょうか」  こんな物騒な予想をするのは、ファイナンシャルプランナー(FP)の澤木明氏だ。数多くの企業で、50代以上の社員に定年後の生き方を考えさせる「ライフプラン研修」を行ってきた。 「研修に合わせて家計相談も行っていますが、老後に備えた貯蓄は成り行き任せの人がほとんどです。今、自分がどれぐらい準備できているかも整理できていません。皆さん、危機感だけはお持ちなのですが……。まるで真実を知るのが怖いと思っていらっしゃるようにも見えます」  澤木氏の見立ては、おそらく正しい。60歳を前に、「もし準備不足がわかってしまったら……」と思うと怖くなるのだろう。  ただし、「危機感」を持つこと自体は正解だ。近年、老後資金をめぐる考え方は大きく変わり、準備しなければならないお金は増える一方だからだ。  言うまでもないことだが、長寿が進んで「老後」の期間が大きく延びた。日本人の平均寿命は現在、男性で81.64歳、女性は87.74歳。65歳の人があと何年生きるかを示す平均余命で見ると男性20.05年、女性24.91年で、男性は「85歳」、女性は「90歳」が視野に入ってきている。  このためライフプランを考えるさいも、つい4~5年前までは「90歳、心配なら95歳まで見ておけば十分」だったのが、今ではそれが「100歳まで」が常識になってしまった。  ところが、老後資金を準備するお金の原資となる賃金は増えない。経済協力開発機構(OECD)によると、2020年の日本の平均賃金は約424万円。驚くべきことに、この30年で米国が47.7%、英国が44.2%も賃金が増えているのに、日本は同じ30年でわずか4.4%増。ほぼ横ばいなのだ。賃金額ではすでに韓国にも抜かれてしまっている。  準備すべき期間が延びているのに、資金の原資となるお金は増えない。これでは必要な老後資金が準備できなくなる。  加えて日本人のライフスタイルの変化が、この流れに「とどめ」をさしつつある。現在の50歳代以下にみられる「晩婚・晩産」だ。  内閣府の「少子化社会対策白書」によると、19年の平均初婚年齢は夫が31.2歳、妻が29.6歳。1985年と比較すると夫は3.0歳、妻は4.1歳上昇している。また、赤ちゃん出生時の母親の平均年齢を見ると、19年は第1子が30.7歳、第2子が32.7歳で、同じく85年との比較では、第1子で4.0歳、第2子で3.6歳上昇する結果となった。  老後資金に詳しいFPの長尾義弘氏が言う。 「かつてのように20歳代での結婚・出産パターンですと、住宅資金→教育資金→老後資金と大きな支出は順番にクリアしていけました。ところが、結婚が30歳前後となれば、出産は30代前半、住宅購入は40代前半にずれ込んでしまいます。子供の大学は50代になってからですから、50代は教育資金と住宅ローンで手いっぱいで、老後資金まで手が回らなくなってしまいます」 ◆教育費ずれ込み80歳で家計破綻  最近では出産が30代後半のこともあり、なおさら50代で老後資金は貯められなくなる。こうした傾向から、長尾さんがこのほど上梓した本のタイトルは『60歳貯蓄ゼロでも間に合う老後資金のつくり方』だ。すでに、老後資金は60歳までにまったく準備できないことが前提になっている。  さすがに「貯蓄ゼロ」の家計は多くはないだろうが、それでも教育費が50代半ばまで食い込んでくると、80歳前後で力がつきてしまう家計は容易に想像がつく。  例えば、50歳代前半は収入が年700万円、55歳の役職定年で50代後半は3割減の同500万円、60歳以降は65歳まで再雇用で同240万円の会社員がいたとしよう。家族は妻と子供2人で、下の子が大学を卒業するのは56歳とする。50歳で貯蓄は1千万円、60歳で退職金1500万円が入ってくる。年金は夫婦2人で標準的な年280万円だ(65歳以降)。  一方、支出は生活費が50歳代前半は年400万円で同後半は同360万円、60歳代前半は同330万円とダウンサイズしていき、年金生活に入ると同300万円に抑えるとする。問題の2人の子供の教育費が50歳代前半に年100万~200万円かかり、住宅ローンは年100万円で60歳で完済とする。また、60歳で500万円かけて自宅をリフォーム、生活の潤いのために3年に1回、海外旅行などの資金として「100万円」の一時支出もできるとしよう。  教育費がやや後ずれすることを除くと、何の変哲もない一般的な家計、いや収入面では平均よりやや高めのプチリッチな家計のように見える。ところがこれを「家計の長期予想表」(FPの世界では「キャッシュフロー表」と呼んでいる)に落とし込むと、80歳で資産残高がマイナスに転じてしまう。 (週刊朝日2022年1月28日号より)  家計破綻である。「家計の長期予想表」とは、将来の家計の収入と支出を予想し、それを続けていくと「資産残高」(資産の合計)がどう推移するかを見るものだ。資産残高がマイナスになれば「アウト」である。この世の中、そんな家計にお金を貸してくれる人は誰もいない。マイナスになることがわかれば、収入や支出を見直してマイナスにならないような家計を作っていく。「家計の長期予想表」は、そうした家計見直しをするためのツールだ。  話を破綻した先の家計に戻そう。プチリッチな家計でさえ80歳で破綻するのだから、ほかの家計は推して知るべしである。 「これからの世代は、自分の親世代などこれまでの世代と同じような老後生活を送ることはできないと思ったほうがいい。過去のロールモデルはまったく参考にならなくなりました」(先の長尾氏)  ここが、これからの老後資金の新しいところだ。現役時代の準備だけではすべてのお金を用意できない時代に入ったのだ。(本誌・首藤由之)※週刊朝日  2022年1月28日号より抜粋
2400人に聞いた『呪術廻戦』『鬼滅の刃』で好きな声優 1位は「女心をくすぐる」イケボ!
2400人に聞いた『呪術廻戦』『鬼滅の刃』で好きな声優 1位は「女心をくすぐる」イケボ! 映画館に設置されている『劇場版 呪術廻戦 0』のポスター(撮影/飯塚大和)  2020年10月に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、興行収入400億円を突破し日本映画の記録を塗り替えた。また、昨年12月24日から公開されている『劇場版 呪術廻戦 0』もすでに興収85億円を突破(1月18日時点)し、大ヒットを続けている。両映画では、人気キャラクターの声優たちにも注目が集まり、その巧みな演技は多くの観客を魅了した。  そこでAERA dot.では、人気アニメ『鬼滅の刃』と『呪術廻戦』に出演する声優陣のなかで、「最も好きな声優」を聞くアンケートを実施。どの声優の、どんな所が好きかを調査した。計2414の回答から選ばれた1位は……。 *  *  * アンケートは2021年12月9日~12月23日にインターネットで行い、計2414の回答が集まった。回答者の性別は、女性93%、男性4.9%、どちらでもない2.1%。年齢層は40代が29%と最も多く、20代=23%、30代=22%、10代=17%と続いた(回答者を無作為抽出する方法ではなく、インターネット上で広く回答を集める方法で実施し、期間中は何度でも回答できる形式)。なお、今回のランキングはAERAdot.編集部が一定期間に集めたアンケートの結果であり、声優の人気や実力を序列化したものではないことを付記しておく。  回答者の9割以上を女性が占めたことも影響してか、上位トップ10に入ったのはすべて男性声優だった。最近の人気声優の傾向について、アニメウオッチャーの小新井涼さんはこう話す。 「特に男性声優さんの場合、女性ファンが声優さんきっかけでアニメ作品を見始め、その声優さんの作品を追いかけることもあります。あと、最近はアニメとは別にソシャゲ(ソーシャルゲーム)や音楽原作キャラクターラッププロジェクト『ヒプノシスマイク』のような音楽プロジェクトなど、アニメ以外の分野で活動する場合も多い。そうした作品では、まずキャストを発表して、女性ファンの興味を集めるようなプロモーションも展開されます。そうなると、必然的に声優さんきっかけでそのコンテンツに触れる機会が多くなる。ランキングに入っている声優さんをみるだけでも、皆さんアニメ以外の露出や活躍も多い方々です」 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は日本映画の記録を塗り替える大ヒットとなった  では、人気トップ5に入った声優を、回答者が「推し」に選んだ理由と合わせてみていこう。 ■5位 津田健次郎 147票  津田健次郎さんは、『呪術廻戦』の七海健人役や『極主夫道』の元極道専業主夫・龍役など、数多くの人気作に出演。声優業だけでなく、NHK連続テレビ小説「エール」などに出演する俳優でもある。特に、30代、40代の女性からの支持が高かった。回答者からは「好きな理由」としてこんな声が寄せられた。 「本当に恐ろしくなるようなヴィラン(悪役)から、冷静でありながら温かい七海健人のような役まで幅広く演じられるのが魅力。Twitterで毎週月曜日に『今週も頑張っちゃう?』とファンに向けてツイートしてくれたり、ファンが元気になれる企画を考えてくれたりする人柄も惹かれるポイントです」(30代女性、専業主婦)「演技力がとても高く、極端に声を変えなくても各キャラクターを演じ分けることができる。声がすごく魅力的なのにルックスもすごく良くて、声も顔も大人の色気がダダ漏れ」(40代女性、会社員) ■4位 松岡禎丞 173票  松岡禎丞(よしつぐ)さんは、『鬼滅の刃』の嘴平伊之助のほか、『呪術廻戦』の究極メカ丸などを演じている。4月から放送のアニメ『ヒロインたるもの!~嫌われヒロインと内緒のお仕事~』の追加キャストにも選ばれた。松岡さんは20代女性からの支持が3割以上を占めた。 「最近の人気作に軒並み出ていて、いつもキャラクターの魅力を引き出すお芝居をする。キャラクターの一番の理解者であることが、インタビューでも伝わってきます。近年の話題作には中低音あたりの強め太めな声が多いけれど、はかなげな演技やかわいらしい演技も抜群!」(20代女性、学生)「お芝居の素晴らしさはもちろん、役に向き合う誠実な姿勢、ピュアなお人柄。口数は少ないけれど、涙もろく感性がとても豊かなのがトークイベントなどで漏れていて、作品にのめり込みながら演じているのがよく分かる。個性的なダミ声も、ピュアキャラが多いのにセクシーさが出て好きです」(30代女性、自営業) ■3位 櫻井孝宏 352票  櫻井孝宏さんは『鬼滅の刃』で冨岡義勇、『呪術廻戦』で夏油傑を演じているほか、『おそ松さん』の松野おそ松役など、多数の作品に出演するベテラン声優。昨年10月、声優デビュー25周年に初エッセー『47歳、まだまだボウヤ』を出版した。支持は10代~50代まで幅広い。 「かれこれ20年以上、主演級を演じてきており、そのどれもがハマリ役。かっこいい役からかわいい系、情けなくカッコ悪い敵役から、果てはおばあさん役まで幅広いのに、どれも櫻井さんだって声でわかる」(30代女性、公務員)「気がつけば私の推しは、櫻井さんが演じているキャラばかりだった。今では櫻井さんのお声を求めて、いろんな作品を探すほど。あの、息を吐きながらしゃべるのがたまらなく好き」(40代女性、主婦)「ラジオで話すことはあっても、地上波やネット番組など公の場には出ず、自分のことはあまり話さないイメージ。(キャラクターの)中の人が透けないので演技に没頭できる」(10代女性、学生)  5位から3位にランクインした声優について、前出の小新井さんはこう話す。 「津田さんは、声がかっこいいと男女問わず人気です。声だけでなく、『顔出しのお仕事もいけるよね』というのは、ファンの間でも常々言われていて、実写ドラマでのご活躍が増えたことに加え、朝ドラ『エール』のナレーションによって、一般的な知名度も上昇しました。松岡さんも女性だけでなく男性人気も高い声優さんという印象です。『鬼滅の刃』の伊之助役の印象も強いですが、『ソードアート・オンライン』の主人公役で知名度が上がった頃から、男性からの支持も厚い。『ソードアート・オンライン』は海外での知名度も高いので、海外のアニメファンからの人気も高い方ですね。櫻井さんは、歌を出す声優さんが多い中で『めったに歌わない』ことで有名だったり、ツイッターなどで発信される方が多い中でSNSもやっていないなど、少しミステリアスなところも魅力のひとつかもしれません。それなのに多くの人気キャラを演じられている。極端にいえば、アニメ好きの女性で、櫻井さんのキャラを通ってない人はいないのでは?と思えるくらい、好きなキャラクターを櫻井さんが演じていたという経験を持つ女性ファンは多いはずです」 ■2位 中村悠一 406票  中村悠一さんは、『呪術廻戦』の五条悟や『ハイキュー!!』の黒尾鉄朗など数々の人気キャラクターを演じるかたわら、YouTubeチャンネル『わしゃがなTV』でさまざまな企画を配信しており、ゲストに星野源を迎えたこともある。アンケートで「推し」と答えたのは30代、40代の女性が多かった。 「声を聞いただけで、一瞬で振り向いてしまう最推し。『ハイキュー!!』の黒尾鉄朗で中村さんを知って以来、他のアニメを見ても中村さんがやるキャラばかり自然と好きになってしまっている。漫画を読みながら、これは中村さんしか合わないと思っていたキャラを中村さんが実際にアニメで演じることが結構ある」(10代女性、高校生)「YouTubeチャンネルに出演されている中村さんは、クールかと思いきや少年のように笑ったり、学生時代の懐かしいコンテンツの話をしていたりと、同世代の視聴者としてとてつもなく親近感を覚えています。ぶっきらぼうにみえて優しいところもある、すてきなお人柄なのも大好きなところです」(40代女性、パート)「ボイスはもちろんすてきですが、声で演技されている。特に五条先生は、抱えているものが複雑で最強なのに子どもっぽい、なのに生徒の前では大人。ヘラヘラした声なんかを自然に感じられるのは、やっぱり中村さんじゃなきゃできないと思います!!好き!!」(30代女性、パート)  小新井さんは中村さんの魅力をこう語る。 「中村さんは、女性人気はもちろん『ジョジョの奇妙な冒険』のブチャラティなど男性人気も高いキャラを演じていたりと、男女問わず支持されているイメージです。ご本人もゲームやアニメがお好きで、そうしたオタク文化に関するツイートや、YouTube動画等も発信しているので、アニメファンやゲームファンからは『同じものが好きな同志』のように慕われてもいます。昨年は話題の『ウマ娘』もプレイされていて、関連の投稿も増えて話題になっていました。自分と同じ趣味を持っているとファンはうれしいもので、そうした親しみやすさも人気の理由でしょう」 ランキング上位トップ10に入った声優たち(表作成/岩下明日香) ■1位 下野紘 642票  堂々の1位に輝いたのは、下野紘(ひろ)さん。下野さんは『鬼滅の刃』で我妻善逸、『進撃の巨人』シリーズではコニー・スプリンガーなど、数々のヒット作で活躍してきた。さらに、昨年7月には「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」(TBS系)にゲスト出演し、唐揚げ愛を熱弁するなど、アニメ以外でも知名度を上げている。10代~60代まで幅広い層から支持を受け、200票以上の差をつけて圧倒的1位となった。 「声優“沼堕ち”のきっかけとなった人物。アニメや漫画に縁のなかった自分がこんなにハマるなんて。小学生から声フェチだったのを思い出させてくれて、見事に深い沼に引きずり落としてくれた恩人。この人から発せられる音全てが女心と子宮をくすぐるツボ。吐息、せき払い、ブレス、何でもあり。下野紘のおかげでこの先の人生楽しくなるのが確定しました。ありがとうございます」(40代女性、会社員)「アニメはもちろん、絵のない朗読劇などでは、情景がそこに浮かぶような演技、表現力が素晴らしいです。アーティスト下野紘としてのかっこよさ、『うたの☆プリンスさまっ♪』のキャラに扮し歌って踊る姿のかわいさは最高です」(40代女性、医療事務)「テレビにラジオにと忙しい下野さんですが、職業は声優であるという芯はぶれない。我妻善逸の幼い声から、コミカル、シリアス、絶叫まで、多くの声を使い分けながらも一人の役としてこなせるのは下野さんしかいません。どんなに人気が出ても、一つ一つを丁寧にする姿勢、ファンの気持ちや喜ぶことを常に考えてくれる優しさ。すべてが大好きなので最も好きな声優さんです」(30代女性、会社員)  小新井さんも、下野さんの声優の枠を超えた活躍ぶりが人気の裾野を広げたと話す。 「下野さんは『鬼滅の刃』ブーム以降、バラエティー番組への露出が一気に増えました。もともと、ラジオで先輩声優にいじられたりする愛されキャラだったのですが、バラエティーに出ても同じようなキャラで浸透したことから、アニメファン以外からも愛されキャラとして人気が出ているんだと思います。下野さんの活躍が、今の声優人気の背景にも関係してくるのですが、昨年から声優さんがバラエティーやドラマ、映画、ナレーションなどで露出が増えたのは、それらに対応可能なスキルを声優の方々が持っていることにメディアが気付いたことも大きい。仕事を振られれば対応できる素地が声優側にもあり、各方面からニーズが高まった。そのニーズが増えた根本には『鬼滅の刃』と『呪術廻戦』の大ヒットがあったわけです。セルフプロデュースにたけている声優さんも多いので、そういう人はまだまだ人気が続くと思います」  空前の「声優ブーム」の火はしばらく消えることはなさそうだ。(AERAdot.編集部・岩下明日香)
【独自】天皇家の和歌御用掛が明かす歌会始の儀の後、両陛下から届いたメモの中身と愛子さまの歌の意味
【独自】天皇家の和歌御用掛が明かす歌会始の儀の後、両陛下から届いたメモの中身と愛子さまの歌の意味 2022年のえとにちなんだ「虎張子(とら・はり・こ)」について話す天皇ご一家  愛子さまのデビューとなった歌会始の儀は、久々に皇室の明るいニュースとして人びとを笑顔にした。和歌の御用掛を務める篠弘さんが、両陛下と愛子さまの和歌に隠された意味を解説した。  英国の学び舎に立つ時迎へ開かれそむる世界への窓  今年の歌会始のお題は、「窓」。  愛子さまは、初めて「歌会始の儀」で披講した詠進歌(詩歌を作って宮中や神社などに奉ること)となった。  学習院女子高等科二年生の夏休みに、英国のイートン校の寮に滞在する「イートン・サマースクール」での体験を詠んだ和歌だ。  歴史の重みを感じる建物を前に今、ご自身の体験から世界が開かれようとしている。弾むような気持ちが詠まれている。  イートン校といえば、英国のウィリアム王子やハリー王子も学ぶなど世界の王族が学ぶ名門校だ。 「和歌は個人的な体験だけを詠むと、歌が小さくなってしまいます。愛子さまが選んだ『世界の窓』は、ご自身の垣根を越えて、同世代の若者の前に開かれる可能性や期待感を表現なさったものです」(篠さん)  篠さんが宮内庁御用掛を拝命したのは、平成から令和への代替わりが近づく2018年のことだ。  本来は、天皇陛下や皇族方に直にお会いして和歌の相談を受けること多い。  しかしコロナ禍のいまは、おもにFAXが連絡手段だ。天皇や皇族方より送られてきた和歌に丁重に目を通す。より重みを増すよう、歌の調べが滑らかになるよう、お立場に相応しいお歌に添削をすることもある。  天皇陛下と皇后雅子さまは、どのように和歌を詠むのだろうか。 「天皇陛下と雅子さまは、おふたりで同じ日に、仲睦まじく作っておられるようです」(同)  というのも、いつも同じタイミングで篠さんに和歌を出すのだという。   こんなことがあった。  令和に入って迎えた雅子さまのお誕生日。お祝いに際して行われる月次(つきなみ)歌会のお題を、陛下は篠さんと相談していた。 ところが、なかなか決まらない。篠さんも困っていると、陛下がこう口を開いた。 「歌会始の儀」に臨む天皇、皇后両陛下 「雅子に希望を聞いてから決めようと思います」   陛下はお優しくていらっしゃるーー。雅子さまへの愛情がにじむ言葉に、篠さんはこう思った。  歌会始のお題を決めるのは、天皇陛下だ。  まずは、歌会始の5人の選者が過去のお題を参考に、二つにしぼる。  一般の人びとが歌にしやすいか、理解しやすいかといった視点が大切だ。  最終的に決定するのは、天皇の役目だ。  今回、「窓」という題に対して、天皇陛下は次のように歌を詠んだ。天皇陛下が公表した和歌は、御製と呼ばれる。 世界との往き来難(がた)かる世はつづき窓開く日を偏(ひとへ)に願ふ  コロナ禍が収束したその先に、いま大きく落ち込んでいる世界との人々の往来が再び盛んになる日の訪れを願って詠まれた和歌だ。 「結句の第5句目が説明的でなく、真実味が深い」  篠さんは今年の陛下の和歌をそう説明する。 「皇太子でいらしたころは、山の情景をお詠みになることも多くありました。天皇に即位してからは、歌を締めくくる用語として『望む』『祈る』『願う』など、人びとと共にある言葉をお選びになっています」  ことし陛下が詠んだのは1首。ご自身で痛感なさったことが主題であり、お人柄がにじむと感じたという。 「陛下が本格的な作歌活動に入るのはこれからでしょう。令和という時代をどう表現なさるのか、楽しみです」  続いて、皇后雅子さまの御歌。 新しき住まひとなれる吹上の窓から望む大樹のみどり  昨年9月に天皇ご一家は、改装された吹上御所に移った。上皇ご夫妻への感謝とともに、御所から皇居の木々の緑深さを詠まれた。宮内庁のホームページには、そう解説がなされている。  和歌をご指導した篠さんは、「もう少し内なる気持ちが込められた御歌である」と話す。篠さんが、「吹上御所の窓から、けやきの巨樹が見えます」と話したところ、皇后さまは、その光景をお気に召したのだという。しかし、ただ皇居の緑の情景を詠んだ和歌ではないと篠さんは解説する。 ビデオメッセージで新年のあいさつをする天皇、皇后両陛下(宮内庁提供) 「ようやく心身ともに落ち着いて国のために尽くすことが出来る。良い出発となったことへの感謝と、皇后陛下の自己認識が投影されています。和歌でお使いになった『望む』という表現は、単に見るという意味ではない。『しげしげと見渡す』といった実感をともなった言葉です」  結句は「大樹のみどり」と体言止めにした。それによっていっそう、瑞々しさが広がっている話す。  18日、歌会始の儀が終わると、召人や選者など関係者だけで小さな懇談の場が設けられた。  篠さんは他の歌人に、両陛下の今年の和歌は、特に良かったと発言していた。  この日の諸行事が終わったあと、侍従がそばに来た。手には、両陛下からのお言葉を記した紙が見える。  侍従は、書かれた文章を読み上げた。 「褒めていただいて嬉しかった」  記されていたのは、両陛下の素直なお気持ちだ。 「今上陛下として、和歌を詠進なさることに、すこしご緊張もあるのかもしれません。和歌の指南役や儀式に集う歌人から、今上天皇に相応しい一首として評価されたことを心から喜んでおられたのでしょう」  ざっくばらんで人間味あふれるお人柄。それが令和皇室の魅力なのかもしれない。(AERAdot.編集部 永井貴子)
中国の塾産業が“消滅”し大量失業 一方で「早く死んで早く生を得たほうがいい」と政策支持する声も
中国の塾産業が“消滅”し大量失業 一方で「早く死んで早く生を得たほうがいい」と政策支持する声も モニュメントは「北京五輪まで50日」を示すが、人々の日常に変化はない。北京市はコロナ対策のために、固く門を閉ざす(photo gettyimages)  中国で隆盛を極めた塾業界が、政府からの通達一つで事実上消滅した。塾産業に従事した人々は苦境にあえいでいるが、一方でこの政策を支持する人もいる。AERA 2022年1月24日号の記事を紹介する。 *  *  * 「まるで雪崩だよ。塾産業に関わっていた2千万人がゼロから仕事を探すことになったんだから」  そう話すのは、北京市内の大手学習塾「巨人教育」で5年間、講師をつとめていたという男性(31)だ。  担当は個別授業。夏休みや冬休み、そして週末には、朝8時から時には夜10時まで、1対1で子どもたちを教えた。平日の授業は学校が終わる午後4時以降だが、朝から準備に追われ、授業の後も保護者への対応に時間を割いた。激務と引き換えに、多い時は彼の地元の公立校教師の3倍以上に当たる1万5千元(約27万円)の月給を手にしていた。しかしその生活は、昨年7月に政府が突然公表した、いわゆる学習塾禁止令でひっくり返った。  2021年、中国ではITや芸能など、いくつかの業界を対象に大規模な締め付けや摘発が相次いだ。中国共産党と中国政府が連名で出した、小中学生向けの学習塾を一律非営利団体化し、週末と長期休暇の授業を禁止する通達「宿題と学習塾が義務教育段階の児童・生徒にもたらす負担のさらなる軽減について」は、その最たるものだ。格差解消を目指す習近平(シーチンピン)指導部が掲げたスローガン「共同富裕」の一環と見られているが、これほどの激変を、北京の人々はどう受け止めているのか。 ■1点の差で「1万順位の差」 熾烈な受験戦争で人口減  冒頭の男性が勤務していた巨人教育は、彼の2カ月分の給与を未払いにしたまま、北京市内に100カ所以上あったすべての教室を8月に閉鎖し、同月31日に破綻を宣言。男性は妻とともに、実家のある河北省の田舎町への引っ越しを余儀なくされた。講師を務める学生を勧誘するなど営業部門の社員なら転職先もある。しかし、教師たちは他の業界への転職も一筋縄ではいかない。「教えるのが好き」というこの男性は、地元の公立小学校の教員への道を考えたこともあったが、月給が4千元(約7万円)と低すぎて断念した。 「家族を養うにはとても無理」  目下、公務員試験の勉強中だという。  極端な「市場主義」でどんどん高級化する塾の人気ぶりは、格差やゆがみの象徴でもあった。冒頭の男性が担当していた個別授業の受講料は1カ月に6千元(約10万円)とも言われる。 「あんな塾は閉鎖されて当然」  と息巻くのは、中国版ウーバー「滴滴」の運転手として北京に出稼ぎにきている男性(48)だ。地元で妻と暮らす中学2年生の娘は、大学まで進学させたい。だが、毎月の稼ぎが約7千元(約12万6千円)の男性に、塾通いの費用を捻出することは難しい。  中国の受験戦争は、全国大学共通試験の1点の差が「1万順位の差」と言われる熾烈さだ。義務教育は、日本よりレベルの高い英語力などの「結果」を出している一方で、公立校への投資は少なく、地方都市の教師の給与は北京の警備員並みだ。  塾産業は受験を有利に勝ち抜きたい親子にきめ細かいサービスを提供し、みるみる高級化した。懇切丁寧な1対1の個人指導サービスなら、2時間で1千元(約1万8千円)前後。「名門校の先生が教えてくれる」という口コミの中学生向け補習クラスは、12人のクラスで90分授業10回が6千元(約10万円)と日本以上だ。子どもたちの心身の負担も問題になっていた。  2歳の子どもを育てながらIT企業で働く女性(39)は、いらだちを隠さない。 「もし中国がこれまでやってきた『試験対策教育(応試教育)』をこの期に及んで変えないなら、人間への害は本当に大変なことになるわよ。国からすれば、それは想造力の欠如。ノーベル賞が取れないのはこの教育の土壌のせいだと思う」  2千万人とも言われる大量の失業者を出す一見乱暴なやり方について尋ねると、彼女はのみ込むように一拍置いて、こう答えた。 「改革は必要なの。今までのやり方はもう合っていないんだから淘汰される。だったら早く死んでそのぶん早く生を得たほうがいいわよ」 (AERA 2022年1月24日号より)  一部を犠牲にすることで大多数が「結果」を手にできるなら、バッサリと切り捨てる。大多数の合理性こそが、中国で優先される価値観だ。  人口問題との関係を指摘する声もある。過酷で均一的な競争社会の生きにくさに対する市民の意思は、人口の激減に表れた。中国の合計特殊出生率は、日本を下回る1.3。北京や上海などの大都市だけでなく、儒教的伝統が色濃く残る農村を含めた中国全土の数字としては、信じがたい低さだ。  学習塾禁止令の背後には、政府の産業戦略があると指摘する声もある。  世界各国で、国を凌駕する勢いで巨大化するIT企業。中国は、こうした企業の国営化や国有化を進めており、今回の塾禁止令もその一環ではないか、というのだ。実際、政府はこれまで塾が提供してきたインターネットを通じた家庭教師サービスと同様のサービスを、より安く提供しはじめている。米国で上場する「新東方」や「好未来」などの大手民営塾がとりわけ壊滅的な打撃を受けたことは、中国国内からのデータ流出を嫌い、米国上場企業を排除しようとする動きにも符合する。  数千年変わらぬ古い農村社会の基盤の上に、世界一「圧縮」して成し遂げられた経済成長を重ね、さらに高度のIT社会に向かう中国。積年のゆがみと矛盾を抱えギリギリで巨体を回す中で、民営塾をつぶして国営塾を設立するという前代未聞の荒行は起きた。(ライター・北野ずん(北京))※AERA 2022年1月24日号より抜粋
今や「梨園の妻」のNO.1? 藤原紀香がここまで“好かれる女優”になった理由
今や「梨園の妻」のNO.1? 藤原紀香がここまで“好かれる女優”になった理由 藤原紀香  女優の藤原紀香(50)が成人の日にインスタグラムに投稿した写真が反響を呼んだ。新成人への祝福の言葉とともに、自身の成人式の写真をアップ。これに対し、フォロワーからは「全然変わってない!」「二十歳でもう完成している」など美しさをたたえる声が相次いだ。  一方、最近では藤原のメディア露出が明らかに増えている。年末年始もバラエティー特番への出演が相次いだ。特に注目を浴びたのが「芸能人格付けチェック! 2022お正月スペシャル」(1月1日・テレビ朝日)、「ローカル路線バス乗り継ぎ対決旅 バスVS鉄道 第10弾」(1月3日・テレビ東京)の2番組。「格付け」では、女優の観月ありさとタッグを組み出演したのだが、50歳とは思えぬスタイルと美貌を見せつけた。また、視聴者は藤原が随所で発する英語でのリアクションに反応。SNSでは「紀香さんの英語のリアクションがおもしろい」「ちょいちょい英語なのイラッとする」と賛否両論ありながらも、「ルー大柴化してる」と面白がる声もあった。 「『格付け』では、ランクアップのための救済措置で土下座をするシーンもあったのですが、その所作がすごく美しかったですね。『さすが梨園の妻』という視聴者のコメントもありました。また、『バスの旅』では、足を痛めたにもかかわらず長時間歩き続け、弱音もグチも吐かずに歩き切っていました。こちらもSNS上では『周囲への気遣いがすごくてイメージが変わった』『ポジティブでステキ』など彼女に好感を抱いた視聴者が多かったようです。番組内では老眼の話などもざっくばらんに話していて、見た目の若さとのギャップに驚く声も多くありました」(テレビ情報誌の編集者)  その他にも12月には「帰れマンデー見っけ隊!!&10万円でできるかな合体3時間SP」(テレビ朝日系)、1月には人気番組「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」(テレビ東京系)の特番に出演し、存在感を見せつけているが、これまでの藤原はお世辞にも好感度は高いとはいえなかった。 「藤原といえば日本人離れした抜群のスタイルとギャップのある天真爛漫なキャラクターで人気を博し、2000年代前半は10本以上のCMに出演しました。初主演作となった『ナオミ』をはじめ、『ハッピーマニア』、『昔の男』など話題となったドラマへの出演が続きました。しかし、どこか高飛車にみえるイメージに加え、陣内智則との離婚、そして“略奪婚”とも報じられた片岡愛之助との再婚、さらに最近では効果が疑問視されている水素水を過剰に宣伝していたことなどもあり、世間の印象はお世辞にも良いとはいえなかった。恒例の『週刊文春』の『女が嫌いな女ランキング』では2017年ごろまでは上位に入っていました」(女性週刊誌の芸能担当記者) ■女性誌は「三田寛子を超えた」と絶賛  しかし、「梨園の妻」になって5年がたち、周囲の見る目も変わってきたようだ。『女性自身』(2021年7月13日号)は、「藤原紀香 贔屓筋も絶賛のすご腕接遇術“三田寛子超え”の声も」という記事を掲載。義理の父親で人間国宝にもなった片岡秀太郎(享年79歳)が生前、結婚に際し「3年しかもちませんわ」と周囲に漏らしていたそうだが、ここ2~3年は「できた奥さんだ」と認め、最期には感謝の言葉を口にしていたという。何百人もの贔屓筋の個別情報を藤原は頭の中にインプットしており、顔を見ただけで名前や情報を思い出し、会話しているとか。同記事によると、彼女が来場する愛之助の公演の入場者数は、来場しないときと比べ2割り増しになるというから驚きだ。 「正月にアップされた藤原さんのインスタグラムでは、白味噌の雑煮を作ったところ、愛之助さんが5杯もおかわりしたことを報告していました。また、以前出演したテレビ番組で、愛之助さんが自宅では服を部屋中に脱ぎ散らかしていることを明かしていたのですが、『楽屋のクセだと思うから、あまり(片付けてあげることが)嫌とは思わない』とあっけらかんと話していました。以前ならバッシングが起きそうなノロケネタですが、SNSでは『いい奥さん』と評判はうなぎのぼり。梨園の妻としてしっかり役割を果たす姿が知られるようになり、世間の評価が変わっているのを感じます。50歳になり、その貫禄ともともと彼女の持っていたキャラクターが違和感なくハマり、受け入れられたということでしょう」(同)  TVウオッチャーの中村裕一氏は、最近の藤原の魅力についてこのように分析する。 「たしかに今年に入ってから人気バラエティー特番に続けて出演したのには驚きました。『出川哲朗の充電~』特番では気さくな人柄に加え、過酷なロケに真剣に取り組む姿勢が印象的で、お茶の間の親近感が一気に増したと思います。さらに1月末からの舞台『サザエさん』ではサザエ役を演じますが、波平役はなんと松平健。これ以上ないゴージャスな顔合わせに今から期待が高まります。彼女の場合、俳優として等身大の女性を演じるより、キャラクターものや時代劇など、突き抜けた役の方が映えるのではないでしょうか。破格のゴージャスさとナチュラルな親近感が今の彼女の最大の魅力。このまま絶妙なバランスをキープしながら、他にはない存在として話題を振りまいてほしいですね」  コロナ禍で暗くなりつつある現代に、まさにサザエさんのように明るく前向きな藤原は貴重な存在だろう。2022年、50歳となった藤原紀香の新章がスタートしそうだ。(高梨歩)
たとえ離婚した相手でも…“死別”のつらさは想像以上に 「遺族外来」の医師が語る壮絶な精神状態
たとえ離婚した相手でも…“死別”のつらさは想像以上に 「遺族外来」の医師が語る壮絶な精神状態 パートナーとの死別は想像以上の精神的ダメージになっている。写真はイメージ。(画像/PIXTA)  死別は人生最大のストレスと言われる。特に配偶者やパートナーとの死別は重く、心身に大きな影響が出てしまう遺族は多い。生前に仲むつまじいほど悲しみは深くなる、と思う人がいるかもしれないが、「遺族外来」の専門医らによると会話のなかった夫婦や離婚した元夫婦でさえ、残された側がそうした状態に陥る例がある。「自分は大丈夫だろう、と思う方がいるとしたら、それは大いなる勘違いです」。専門医らが知ってほしいと願う死別の現実と、遺族外来の意義とは。 *  *  * 主にがん患者遺族の精神的ケアを目的として、2007年、臨床心理士の石田真弓氏と協力し、埼玉医科大学国際医療センターに全国初となる「遺族外来」を立ち上げた精神科医の大西秀樹氏。遺族外来には全国から泊まりがけで来る人もおり、これまでに石田氏とともに500人近くの診察に当たってきた。 「死別がこんなにきついとは思わなかった」「ヒリヒリするような痛みを感じる」  受診に来た人の大半は、こうした心境を打ち明ける。話を聞いてほしい、自分ではどうにもならない今の状態をどうにかしたいと、すがるような思いでやってくる。  問診では臨床心理士がていねいに話を聞き、精神科の診断基準に沿って質問をしていく。保険診療となるので、健康保険も適用される。  大西氏は死別のつらさをこう話す。 「死別とは、一緒に暮らしてきた配偶者やパートナーがこつぜんと『消えてしまう』ということ。2人がいた世界は二度と取り戻すことができません。経験したことのないつらさ、きつさで、まさに『人生最大のストレス』がかかるのです」  それは2人の仲がとても良かったからでは? と思う人もいるかもしれないが、大西氏も石田氏も、臨床経験からそれをきっぱりと否定する。 「仲の良しあしは、実はまったく関係ありません。もし仮に、『さして仲良くないから自分は大丈夫だ』と思っている方がいるとしたら、それは大いなる勘違いです。味わったことのないストレスにさらされ、どんな人でも心身に大きな影響が出る可能性があるという事実は、早いうちから知っておいてほしいと思います」(大西氏) 大西秀樹医師(左)と臨床心理士の石田真弓氏(写真=大西医師提供)  外来に来る患者には、もちろん仲良しだった相手を失った人もいるが、そうではない事例も多々ある。  夫が無口で、いつも愛想のない返事しかもらえず会話のなかった夫婦。夫を亡くすと、妻は嘆き悲しんで泣いた。「もう、うんともすんとも言ってくれない」  離婚した元夫ががんで亡くなった後、つらさに耐えきれず受診に来た女性もいた。  母以外の女性と交際し家を出ていき、お金の無心を続けてきた父ががんでやせ細って亡くなった。その父を恨んでいたはずの娘がやってきたこともあった。  はた目には良い関係だったようには映らないのだが、これが死別の現実なのだという。  患者の状態はさまざまで、一回の診察で安心感を得て終わる患者もいるが、心身に大きな影響が出てしまう例は少なくない。死別後1年目で、遺族の15パーセントがうつ病だという海外の研究データがあるそうだが、遺族外来の患者も30~40パーセントが初診時にうつ病と診断される。  不眠に悩まされたり、行動意欲が低下し家から出なくなった人。食欲がなくなったという患者を検査した結果、「かっけ」という栄養欠乏による病気がわかったケースも複数ある。  自殺願望を抱き、電車に飛び込む寸前で助けられた人もいた。  石田氏は、ある40代の女性患者の記憶を語る。その女性は夫ががんで亡くなった翌日、夫と面会したいと病院を訪れたのだ。 「お父さん(夫)から連絡がないから心配になって病院に来ました、という理由でした。『解離性障害』という症状で、ショックのあまり夫が亡くなったことを完全に忘れてしまったのです」  酒量が増え、日常生活に支障をきたす例も多い。国立がんセンター名誉総長の垣添忠生氏は、妻と死別後の数カ月間、つらさに耐えきれず酒浸りになったことを明かしている。人の死に多く接してきた医療者ですら、当事者になった途端、ストレスにつぶされかけてしまうのだ。  45歳の筆者も妻をがんで亡くしており、2020年の秋と昨秋の2回、近い年代の死別経験者とオンラインで話す会に参加した経験がある。  参加者の話で目立ったのが、「記念日や連休がつらい」「思い出の場所に行くのが耐えられない」「友人や周囲の言葉に傷ついた」というものだった。  一般的に考えれば、記念日や連休はうれしい日であり、思い出の場所は大切な空間であり、友人は自分を支えてくれる存在、のはずである。  だが、遺族の心情はそうはならない。外来でも同様の相談が多いという。  大西氏が解説する。 「例えば命日や結婚記念日が近づくと、亡くなった人を思い出して感情が大きく揺さぶられ、非常につらい状態になります。これを『記念日反応』と呼びますが、特に年末年始はつらさが増す傾向があります。記念日反応は日にちに限らず、さまざまな情景に接することでも現れます。買い物中に、ある楽しそうな家族連れを見て物陰に隠れてしまった女性。夫婦でよく利用したスーパーに行けなくなったり、2人でよく利用した駅で降りることができなくなってしまった人もいます。自分の意志でそうしているのではなく、身体が勝手に反応してしまうのです」  遺族外来の患者で、埼玉医科大で亡くなった人の遺族は極めて少ないという。勝手知ったる病院のはずだが、 「特にがんで亡くなった方の遺族は、がんの告知のシーンや、亡くなるまでのさまざまな光景を鮮明に覚えているケースが多いです。この病院に来ると、当時と同じ光景、同じ呼び出し機を手にしますので、亡くなった人を思い出してつらくなってしまう。病院の前の道路を通ることすら避けたいという方もいます」(石田氏)  友人や周囲の声かけやアドバイスも、逆効果になることが多いという。 「しっかりしなきゃ」「元気そうだね」「いつまでもくよくよしないで」「もっと大変な人がいるんだから」などが、遺族の多くが苦痛に感じた言葉だ。 「『役に立たない援助』と呼ばれるものです。友人たちは何か言ってあげなきゃと一生懸命なのですが、当事者の心情を推し量れないため、どうしても傷つけがちになってしまう。悲しみに浸りたい遺族に『しっかりしなきゃ』はつらすぎますし、無理に元気を装っているだけなのに、『元気そうだね』と言われるのはきつい。外来に通い良くなりつつある患者さんが、たったひと言が原因でもとの状態に戻ってしまうことも少なくありません」(大西氏)  死別者の会で気づいたことだが、参加者は誰一人として意見や強いアドバイス、励ましを口にしなかった。話す人の思いやつらさを、ただうなずきながら聞いている。「傾聴」が大切だということを、自身の経験で学んでいたのかもしれない。  こうした遺族心理は、配偶者やパートナーとの死別経験がない人には「?」の部分が多いだろう。だからこそ、遺族外来には意義がある。理解されづらい状態の自分を素直に出し、心身のケアを受ける場所が必要なのだ。  外来では記念日反応が起きることや、友人たちの言葉で傷ついてしまう可能性を患者に教えている。「事前に知っておくことで、心の準備ができます。『その時』のダメージをやわらげようという考え方です」(石田氏) 「~したほうがいい」「~すべきだ」などのアドバイスはしない。話に耳を傾け、患者が自分で考えるようになるのを待つ。 「状態が行きつ戻りつを繰り返す患者さんが多いですが、配偶者やパートナーを亡くされた方は3年ほどでよくなる方が多く、遺族外来を『卒業』していきます」(石田氏)  配偶者やパートナーとの死別を意識して生きている人はそうそういないだろう。大西氏も「1年に一度で良いから考えてほしいと思いますが、そう啓発をしても、砂漠に水をまくような現実があります」と認める。  ただ、別れの時はいつか来る。どちらかが旅立ち、どちらかは残される。  大西氏と石田氏は 「もし、つらさに押しつぶされそうになったとしても、焦らなくていいんです」と口をそろえる。 「私は患者さんに『1年目は、とにかく生きていればいいですよ』と伝えています。15年の外来経験で、遺族には、最初はつらくても少しずつ適応して成長する力が備わっていることを学びました。深い傷を負った後、より人に優しくなれたり、心が成長した自分と出会うことができるのだと感じています」(大西氏)  死別後の自分は、それ以前とは“違う自分”になってしまうかもしれない。ただ、遺族外来のように頼っていい場所が実はある。一人で苦しむ必要がないことだけは、知ってほしいと思う。(AERAdot.編集部・國府田英之)
タクシー運転手の神対応「見過ごせないんです」 スーツ姿の男に割り込まれた女性は涙ぐんだ
タクシー運転手の神対応「見過ごせないんです」 スーツ姿の男に割り込まれた女性は涙ぐんだ 写真はイメージです(Getty Images)  作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、真面目な人が損をしがちな社会で起きたある出来事について。 *   *  *  友人の話だ。雨の降る朝、いつもなら会社まで自転車で向かう道を、タクシーに乗ることにした。マンション前の交差点でタクシーを待っていると、ちょうど横断歩道の信号が青になり、対面からスーツ姿の男性がこちら側に渡ってきた。なんとなくイヤーな予感がしたが、案の定、その男性は、すーっと彼女の背後を回り、当然といった調子で彼女の右側に立ったのだった。  一瞬のことにあっけに取られながらも彼女は男の横顔を見つめた。30代半ばくらいのフツーの顔をしたフツーのサラリーマンは、彼女の視線も十分感じているはずだが、全く気がつかないかのように彼女に背を向けると、ちょうどやってきたタクシーに手を上げた。「私が先に待っていたんですけど」と言うべきかとも思ったし、または彼がしたように男の背後から回り込み右側に立つこともできただろうが、あまりに一瞬の出来事で「あ~」という思いのまま、彼女はその場に立ち尽くした。  すると、であった。向かってきたタクシーは男性の前を通り過ぎ、彼女の前に静かに止まった。さらに、スーッと開いた今どきのタクシーのドアの中から男性運転手が身を乗り出すように彼女に、「お待たせしました、どうぞ!」と声をかけてきたのだった。え? え? と戸惑いながらも言われるままに乗り込み行き先を告げ、車が走り出ししばらくすると、タクシー運転手が「見えてたんです」と、話しかけてきたという。 「お客さまが先にタクシーを待っていたのが、見えていたんです。信号を渡ってきた男性が、あえてあなたの手前に立つのも見えました。お客さまが、ただそれを見ていただけだったので……」  その一言で、彼女は思わず涙ぐんでしまったという。涙の理由は自分にもよく分からないが、見知らぬ男に当然のように存在を無視されたことの痛手はじわじわと心にきていたのかもしれない。それから運転手は「ご出勤ですか?」と尋ねてきて、なんとなく世間話になり、50代半ば頃の物腰の柔らかなその運転手さんも自分の話をはじめたという。  彼は以前、人材育成の会社に勤めていて、主に百貨店などの女性販売員の育成を手がけていたという。多くの女性たちを育ててきた経験から、真面目な女性が損をする姿をたくさん見てきたという。特に組織の中では、真面目で正直なあまりに「要領が悪い」と言われるような人が報われないことが多々ある。だから、と彼はこう言うのだった。 「真面目な女性がずるい人に損をさせられてしまう。目の前でそういうことが起きるのを見過ごすわけにはいかないんです」 「見過ごすわけにはいかないんです」と言われたとたん、彼女は車内で声をあげて泣きたいような気持ちにかられたという。というか、私にその話をしてくれているとき、彼女も私も涙がツーツーと、こぼれて、こぼれてしかたなかった。そんな優しい人が、いることに。その人が女性育成の仕事に就いていたということにも意味を感じ、深くうなずきたい思いにもなる。「利益」を考えたら、タクシー運転手としては手前の男性を乗せるだろう。たとえ男の「ずる」を見ていても、手前に立つスーツ姿の男性を合理的な判断で乗せるだろう。女性よりもスーツ姿の男性のほうが遠距離で高額になる可能性は高く、そもそも面倒くさいクレームをつけられる可能性も高いからだ。実際、女友だちにこの話をすると、乗車拒否される女性は少なくなく、また男性運転手と二人きりの車内で不快な思いをする女性は多いことが分かる。乱暴な口調で話しかけたり、プライバシーに踏み込むような質問を無遠慮にしてきたり、時には甘えるような口調で声をかけられたりすることもある。女性として生きているということはそういうこと、と半ば諦めるような思いになることが“私たち”にはある。そういう社会で、“ソレ”が見えている男性もいるということに、私たちは安堵するように泣いてしまう。聞けば、その運転手さん自身、コロナ禍で仕事が激減し転職せざるを得なかった身だという。彼自身がうまく立ち回ることのできない人なのかもしれない。 北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表  真面目な人が損をする社会。  運転手さんのその言葉が耳に残っている。  先週、米倉涼子主演ドラマ「新聞記者/The Journalist」の配信がNetflixで始まった。森友学園問題をベースにしたフィクションという体ではあるが、「関係していたら総理大臣辞めます」などという安倍晋三元首相の当時の発言はそのままドラマで使われ、亡くなった赤木俊夫さんが文書改竄を強いられ苦悩の上自死した状況、夫の最期を目にした妻の雅子さんの絶望や、その後の闘いはほぼ事実ベースで描かれている。ユースケ・サンタマリア演じる広告代理店の役員で内閣官房参与の男性は架空の存在だろうが、彼が東京五輪の誘致に深く関わり、「汚染水はアンダーコントロール(制御)されている」という首相発言について抗議した人物にパワハラをして声を奪っていく姿なども描かれている。「政治に必要なのはパフォーマンス力」と言ってはばからない「現政権」を支える人々が、真面目に自分の仕事に向き合う役人や新聞記者、就活中の大学生たちの人生を大きく壊していくドラマは、この数年間で私たちが体験してきた現実そのものである。  真面目な人が損をする。要領よく立ち回る人の不正義が力を持ち、真面目に生きようとする人々の人生が虐げられる。そのような社会で私たちは諦めることを強いられてきているのかもしれない。それでも諦めない人は、必死に生きようとする。ドラマは自死した役人の妻が国を相手に裁判を起こすところで終わる。その結果は、国の認諾という、あまりにも残酷で不誠実なものであったことをリアルに生きる私たちは知っている。でも、終わらせ方は、本当は選べたはずなのではないか。私たちは諦めるべきではないのではないか。もう、これ以上真面目な人が損をしないために。そんな空気を野放しにしないために。
男の「いつまでもペニスに振り回される」人生 “妻だけED”の理由は?
男の「いつまでもペニスに振り回される」人生 “妻だけED”の理由は? ※写真はイメージです 「妻に迫られても体力気力が追いつかない」「50代なのに、最近は“その気”になれなくなった」。そうお嘆きの男性諸氏の声をよく聞く。まだ若いつもりなのに心も体も思いどおりにならない。そんなときはまず、加齢男性性腺機能低下(LOH)症候群=いわゆる男性更年期を疑ってみる必要がありそうだ。フリーライターの亀山早苗さんがその実態を調べた。 *  *  * 「このままだと夫婦関係が危ないと感じています」  そう話すのはタカヒロさん(53)。最近、急に性欲がなくなり、10歳年下の妻の誘いに応えられないという。 「どうしてもできないんです。妻には疲れているからごめんと言っても、『どうせ私のことを女として見てないんでしょ』と言われ……」  タカヒロさんは性欲だけではなく、集中力ややる気も減少。「男の更年期もあるらしい」との話を聞き、病院へ行くことを考えているという。  女性の更年期はよく知られている。女性ホルモンのエストロゲンが急減し、頭痛や肩こりなどさまざまな症状が表れてくる。閉経前後の10年間、つまり45~55歳くらいまで、人によってはかなり苦しむ。しかもそのころはちょうど子育てが一段落し、我慢していた夫への忍耐も切れかける。だから夫が求めても妻は性的な関係を拒否しがちだ。  ところがその現象、女性ほど激しくはないが男性にも起こりうる。10代後半から20歳くらいをピークとして男性ホルモンであるテストステロンが減り、50~60代の男性がおかれている環境やストレスにともなって心身の不調が出てくるのだ。  LOH症候群の専門家である獨協医科大学埼玉医療センター・泌尿器科の井手久満教授が、特徴的な症状を話してくれた。 「加齢に伴うテストステロンの減少によって起こる症状は、性欲低下、勃起不全(ED)をはじめ、全身の倦怠(けんたい)感、不眠、イライラ、排尿障害、集中力低下など多岐にわたります。しかも50代の男性は、仕事、子どもの問題、住宅ローン、親の介護など多くのストレスを抱えており、それらが重なって抑うつ状態を引き起こすこともあります。総コレステロールや内臓脂肪の増加にも関連するので、心血管系疾患や糖尿病などの危険因子になったりもするのです」 (週刊朝日2022年1月21日号より)  LOH症候群の背景には、さまざまな病気の存在も否定できないのだ。本来、生き物としては20歳くらいまでに子どもを作って、あとは人生の終わりを待つのがベストなのかもしれないが、現代人はそうはいかない。テストステロンが減ってきている中で、仕事や子育てなどの活動をするのだから、無理がかかるのも当然だろう。  さらに、男性と「セックス」の関係は、女性とセックスの関係より複雑だ。つまり男性は「いくつになってもペニスに振り回されている」から。男性が自分の性器を「息子」とよく言うが、息子と言いながらも実際には支配されている。 「それはどうしようもないんですよ。実際、EDが治ると、男性は性に対して自信を持つようになる。自信を持つようになるとQOL(生活の質)が上がるんです。やる気が上がって仕事も充実する。性は生きる活力と同じなんでしょうね。個人差はありますから、60歳であきらめている人もいれば、90歳で性に執着している人もいる。でもやはり後者のほうが元気です」(井手教授)  こんなこともあったとか。 「80歳の男性が『60歳の彼女ができたけど5年以上、勃起していない。彼女に“ふにゃちん”は嫌だと言われた』と相談に来ました」  では、テストステロンを維持するためには、どうしたらいいのだろうか。  日々、ウォーキングなどの運動をして肥満を防ぎ、バランスのいい食事をして、たとえひとりでも勃起・射精をしたほうがいいという。スポーツ観戦なども競争意欲を盛り上げることでテストステロン増加に一役買うようだ。 「テストステロンを注射剤で補充することができます。最近、なんだか心身が不調だと感じたら、気軽に泌尿器科に来ていただきたいです。性欲はあるけどEDという場合には、バイアグラのような薬も処方できますから」(同) ◆性の充実勘違い 夫婦で楽しめず 「一般的に50代以降の男性は、地位が上がり、責任が重くなる一方で体力は落ちてくる。その中で、性に対するスタンスは、人によって3タイプくらいあると思いますね」 ※写真はイメージです  そう話すのは臨床心理士である大妻女子大学の福島哲夫教授だ。一つ目は、衰えて元気がなくなり、ますますセックスレスへの道をたどる人。二つ目は、手早くセックスだけしたがる人。三つ目は時間をかけてめいっぱいセックスを楽しみたい人だという。  衰えて元気がなくなった人は泌尿器科でまずはテストステロンの検査をしてもらおう。ただ、問題なのは、性欲も勃起力もあるのに手早くセックスを求める人だ。福島教授が説明する。 「こんなケースがありました。50代で、子育てが一段落した女性が寂しさから、夫に『したい』と言ってみた。夫は会社経営者で夜の街へも遊びに行くタイプ。妻の誘いに応じたものの、前戯も何もなく、いきなり挿入してきたそうなんです。妻はそれでますます傷ついてしまった。夫は妻を大事に思っていないわけではないけど、めんどうなことはしたくないんでしょうね。バリバリ仕事をしている人にありがちです」  女性から見れば、性の充実を勘違いしている男性。これでは夫婦の性を楽しむことはできない。  一方で「妻のときだけED」というタイプが出てくるのもこの年代。  ひとり息子が巣立ったというハヤトさん(56)は、「妻としているときに何度か萎えてしまい、妻に『できないのなら誘わないでよ』と言われました。それ以来、怖くて誘えないし、妻ではできなくなってしまった。でもこっそり風俗に行ったりはしているんです」。  ふたりきりになったら、妻とゆっくり性についても楽しみたいと思っていたが、妻への恐怖感が先立ってしまうという。  福島教授は言う。 「夫のDV(ドメスティックバイオレンス)が問題になっていますが、妻から夫へのDVや暴言も案外多いんです。男性たちは妻の言いなりで対等な関係が築けていない。いずれにしても50代からの性のすれ違い以前に、人間性のすれ違いを考えないと夫婦は破綻(はたん)します」  マンネリになるのを避ける工夫も必要だ。 ※写真はイメージです 「年齢を問わず、夫婦の寝室を別にすることを勧めています。特に年を重ねると、エアコンの温度が合わないとか、いびきで眠れないとかいろいろと問題が出てくる。ひとりでゆっくり熟睡したほうが健康にもいい。それでお互いの気持ちが一致したときに訪ねていく形にしたほうがちょっとエロチックじゃないですか」(福島教授)  EDで泌尿器科にかかり、バイアグラなどの薬を使って夫婦の性を回復したというショウタさん(55)は、「うちは以前、セックスレスで常に重い雰囲気が漂っていたんです。でも医師にバイアグラを処方してもらって2年ぶりにできたとき、妻が涙を流しました。僕もうれしかった。できるとわかると気持ちに余裕が出る。今は薬なしでいけることもあります」。  それでももちろん、年齢的に「もうしなくていい」と思う人もいるだろう。するかしないかは個人の自由。だが、相手がいることを忘れてはいけない。糖尿病もあってEDになり、自分はもういいと思っていたというのはヨシロウさん(62)だ。 「6歳年下の妻に聞いてみたら、彼女はしたいという。じゃあ、どうしようかと。抱き合うだけでは満足できない、中途半端なのは嫌だと妻は言う。だったら手も舌もあるのだから妻を感じさせようと思ったんです。今はそれだけではなくて、妻の要望があって通販で買った“プレジャーグッズ”を使っています。セックスってペニスの挿入だけじゃないし、グッズをうまく使いこなしてこそいい男と妻に叱咤激励されて。妻が喜ぶならとがんばっています」  というのもかつて浮気がバレて妻を悲しませたことがあるからだ。それ以来、贖罪(しょくざい)の気持ちから妻を幸せにすると決めた。たとえ自分が、もうしなくていいと思っても、妻が心身共に満足したいなら、その要望に寄り添っていくつもりだという。 ◆セックス卒業で相性のよさ発見  長年連れ添って、ふたりともセックスはいらないということになっても、夫婦関係は続いていく。セックスの関係から卒業すると、男女の生々しさがなくなるからだろうか、お互いの相性のよさを改めて発見できたという人もいる。 「うちは同い年なんですが、60代に入ってからはほとんどセックスをしていません。あるとき何かの話から、『今後のことはわからないけど、今はしなくてもいいね』となりました。そうしたらなんとなくすっきりして。それからはふたりでよく散歩に行ったり、映画を見に行ったり、一緒に出かけることが増えました」  そう話すのはヒデユキさん(66)。夫婦ともまだ仕事をしており、帰りに待ち合わせておしゃれなバーで一杯やることもあるという。 「今はいちばんの親友みたいな感じ。話していて飽きない。僕たち『夫婦っぽくない』とよく言われるんですが、それはお互いに相手を認めながら、適度な距離を保っているからかもしれません。外で待ち合わせると、妻は大人の素敵な女性だなと思います」  夫婦で残りの人生をどう豊かに歩んでいくか。そのためにセックスが必要かどうか。その距離感も含めて関係性を今こそ話し合い、すれ違いのまま人生を終えないようにしたいものだ。※週刊朝日  2022年1月21日号
90歳の靴磨き職人、中村幸子 「仕事はやめられない」と断言する理由
90歳の靴磨き職人、中村幸子 「仕事はやめられない」と断言する理由 「擦りすぎて指紋がなくなったわ(笑)」 中村幸子さん 「アラウンド90」でもなお現役である人に話を聞いた。今回は靴磨き職人の中村幸子さん。 *  *  *  サラリーマンの街、東京・新橋で、今日も靴磨きに精を出す女性がいる。中村幸子さん(90)。この仕事を始めて50年になる大ベテランだ。  記者が訪ねた日、30代半ばと20代後半とおぼしきサラリーマン2人組が、相次いで中村さんに靴を磨いてもらっていた。彼らに話を聞くと、「これから大事な取引があるので、上司からここで靴を磨いていけと言われたんです」。  その話を伝えると、中村さんはうれしそうに、 「私を当てにして来てくれるお客さんがいるのよ。大きな仕事の前とか、銀座の女の子に会いに行くからって(笑)。常連のお客さんが来てくれる間は、やめられない」。  これまでに仕事が嫌になったことは一度もないという。 「嫌な気持ちを持ったら、仕事にならない。嫌々やっていると、お客さんもわかるわよ。うれしい気持ちで働けば、お客さんも喜んでくれるでしょう」  靴を磨いてもらいながらの質問に、ハキハキとした口調で答える。 「浜松市の警察官の家に生まれて、いろいろあって19歳のときに家出同然で上京したの。それですぐ、妻子もちの男にだまされちゃって」  21歳でシングルマザーになった。行商をしながら子どもを育て、その間に知り合った男性と結婚。ただ、夫は足が不自由で、中村さんが一家を支え続けた。 「リヤカーを引っ張っているうちに腰を悪くしちゃってね。それで靴磨きの仕事を始めたの」  夫を肺がんで早くに失ったが、5人の子どもを育て上げた。いくら常連客がいるとはいえ、月曜から金曜までフルに働く必要はないと思うが、 「仕事帰りに総菜を買って、ご飯だけ炊いて夕食にするの。コンビニの総菜だけど、自分で働いたお金で買うんだから、おいしいのよ。自分が80歳だ、90歳だなんて思ったら駄目。ここに来たら30代の気持ちで働いている。手の動きは20代だよ(笑)」  中村さんはブラシで汚れを落とすと、自らの指に靴墨をつけ、指で墨を塗っていく。記者の靴のかかと部分に傷んだ箇所を見つけると、中村さんは丁寧に靴墨を塗り込み始めた。 「手で塗り込むと、靴が長持ちするんだよ。いい靴だから、長く丁寧にはきなさいね」  磨き終えると、「うん、これで大丈夫!」との発声で締めた。  常連客は「大丈夫!」の声を聞いて、元気よく勝負の場に臨むという。 (本誌・菊地武顕)※週刊朝日  2022年1月21日号
トンガ出身・元ラグビー日本代表ラトゥさん 「黒い雨が降ってきた」と現地の親族から写真届く
トンガ出身・元ラグビー日本代表ラトゥさん 「黒い雨が降ってきた」と現地の親族から写真届く ラトゥ・ウィリアム志南利さん  南太平洋のトンガ諸島で発生した海底火山の大噴火。現地当局などの観測によると、日本時間の15日午後1時頃、フンガトンガ・フンガハアパイ火山で噴火が発生し、火山から約65キロ離れたトンガの首都ヌクアロファのあるトンガタプ島でも、降灰や津波などの影響があったとみられている。日本にいるトンガ出身で元ラグビー日本代表のシナリ・ラトゥさん(56歳、日本に帰化した現在はラトゥ・ウィリアム志南利さん)は、15日の噴火発生直後に現地の親族と連絡を取っていた。その時の状況をAERA dot.に明かしてくれた。 *  *  * 「毎日、妻がインターネットでトンガのラジオを聞いているんですよ。15日の昼に突然、避難指示が流れてきたんです。『海の近くにいる人は逃げてください』と政府から指示が出て、これは大変なことが起きたと思ったんです」(ラトゥさん、以下同)  ラジオから流れる避難警報を聞いて、ラトゥさんはすぐにトンガにいる親族とフェイスブックを通じて連絡とっていた。噴火直後の様子を親族はこう話していたという。 「すごく大きな音が聞こえた後に、『黒い雨が降ってきた』と言っていました。黒い小さな石のようです」 親族から送られてきた噴火後の写真。噴石とみられる黒い石(ラトゥ・ウィリアム志南利さん提供) 親族から送られてきた噴火後の写真。黒く覆われた空(ラトゥ・ウィリアム志南利さん提供)  親族がその時の様子を撮影した写真をラトゥさんに送っていた。写真にはトンガ時間で午後6時過ぎ、噴火にともない黒い煙が空を覆い、辺り一面が暗くなった様子が写し出されていた。また、津波警報を聞いた人が避難しようと車が渋滞していた様子が遅れて届いた。その後、津波が沿岸部に押し寄せている状況の写真などがインターネット上で飛び交ったという。   そして、15日14時半ごろ、現地との通信が途絶えた。18日現在も連絡が取れない状況が続いており、噴火後に起きた津波の影響を心配している。 「私の親族は海から離れた高台に住んでいるので、津波からは逃れられたと思うんですが、沿岸部はどうなっているのかわかりません。トンガでは、地震とか大きな災害がこれまでなかったんです。だから、みんなパニックなっていると聞きました」 親族から送られてきた噴火後の写真。渋滞する様子(ラトゥ・ウィリアム志南利さん提供) 親族から送られてきた噴火後の写真(ラトゥ・ウィリアム志南利さん提供)  ラトゥさんによると、トンガには日本の富士山のような高い山がないといい、現地の人は噴火に対する警戒心がこれまで「ほとんどなかった」という。 「ここ数年、小さな噴火がトンガ周辺の島で起きたというのは何度かあったんです。昨年も小さい噴火があったんですが、誰も住んでいない島で起きたと聞いています。今回のような大規模な災害は経験したことがないので、驚いています」(ラトゥさん)  ラトゥさんは、1985年2月に来日し、大東文化大学に入学してラグビー部へ。在学中、大学選手権で同大の初優勝に貢献し、ラグビー日本代表に選ばれた功績の持ち主だ。その後も日本にとどまり、現在は同大学ラグビー部のアドバイザーをしている。ラトゥさんらのトンガ出身のラグビー選手の活躍により、いまでは多くの学生が日本に留学してきている。 「いま、トンガがどうなっているか、自分の家族がどうなっているのか、とにかく情報がほしいです。トンガから日本に来ている留学生も同じ気持ちだと思います」  ニュージーランドの放送局TVNZのパシフィック特派員であるバーバラ・ドリーブ氏は、16日にトンガの最新情報として「(首都の)ヌクアロファでは、地面が厚い灰におおわれ、ビルや店舗にも被害が広がっている」ことをフェイスブック上で報告。17日14時58分には、「国際電話やインターネットが復旧するのに少なくとも2週間はかかる」と投稿し、さらなる噴火があった場合はさらに遅れることをリポートした。  一刻も早い状況把握と住民の安否確認が待たれる。(AERA dot.編集部 岩下明日香)

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