
「お口ポカン」放置は危険!約3割の子どもが該当 インフルやコロナなど感染症のリスクを高める危険性
口が開いてしまう「お口ポカン」を軽視してはいけない
日常的に口がポカンと開いてしまう「口唇閉鎖不全症」という症状をご存じだろうか。口の機能が発達していない病気「口腔機能発達不全症」の症状の一つで、治療せずに放置すると、口呼吸になりやすく、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどの感染症、虫歯や歯周病のリスクが高まるという。「お口ポカン」は、軽視してはいけない病気なのだ。
新潟大学のホームページ(2021年2月17日付)によると、同大大学院医歯学総合研究科小児歯科学分野(現・朝日大学歯学部教授)の齊藤一誠准教授らと、大垣女子短期大学歯科衛生学科の海原康孝教授および鹿児島大学病院小児歯科の稲田絵美講師らの共同研究で、日本国内で初めて「お口ポカン」の有病率に関する全国大規模疫学調査を実施。2021年1月に国際学術雑誌に掲載された内容によると、30.7%の子供たちが日常的なお口ポカンを示していたという。口呼吸問題の第一人者で、NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長を務めるみらいクリニック院長の今井一彰氏に、話を聞いた。
――お口ポカンの子供たちは確かに多いように感じます。データでも数字が出ているのですが、どのような印象をお持ちでしょうか。
新潟大などの共同研究アンケートは保護者からの聞き取りという形で行っているので、医療者の感覚とは若干違ってきます。専門医の感覚では、日本全国で60%以上の子供たちがお口ポカンの症状に当てはまるという認識です。この症状が深刻なのは日本だけではありません。世界中の国々でお口ポカンの子供たちが増えていることが確認されており、専門家の論文も日本、ブラジルが多かったのが、近年は中国、インドなど諸外国で増えています。台湾で昨年、私が講演した際も、お口ポカンが深刻になっている現状を知らされました。専門家が増えていることで、警鐘を鳴らしていますが、残念ながらまだまだ一般的にこの症状は認知されていません。
――原因はなんなのでしょうか。
原因は一つではありません。噛み応えのある食べ物、噛む回数が多い食べ物が減ったことで、噛む力が弱くなっていることも一因ですし、低年齢で花粉症になり、鼻閉から口呼吸にいたる子供が増えていることも考えなければいけません。また、ライフスタイルの変化も大きく影響を及ぼしていると思います。昔に比べてYouTube動画を見たりゲームで遊んだりする時間が増え、外で遊ぶ時間が減りました。全身を使って遊ぶという行動は非常に重要です。呼吸は全身運動で、横隔膜と胸郭回りの筋肉が深い呼吸に重要な役割を果たします。全身運動をする機会が減ると、呼吸が浅くなってしまう。夜遅くまでゲームをすることで睡眠時間が削られ、成長発達、睡眠に重要なメラトニンや成長ホルモンなどの分泌が減り、睡眠障害を引き起こすケースが多く確認されています。
――ライフスタイルも大きく影響しているんですね。
そうです。言葉の平板化も一因ではないかと思います。例えば、「ギター」と発音するとき、昔は語尾が下がっていましたが、今は平板化してしまっています。発声していただければわかりますが、アクセントを使わない後者は腹に力を入れる必要がなく呼吸が浅い。「やばい」「ムズイ」という言葉も一例です。形容詞の最後に付く「い」は、舌位置を高くしてのどを締めて発音するのですが、現在は「やばっ」「ムズッ」と語尾が楽な形になっています。それほど舌を使わずに、浅い呼吸でも話せる言葉になっているのです。
――お口ポカンの予防、症状が出たときの対処法を教えてください。
おススメは「あいうべ体操」です。「あー」と口を大きく開き、「いー」と口を大きく横に広げます。「うー」と唇をとがらせて口を前に突き出し、「べー」と舌を思い切り突き出して、下に伸ばす。この体操を1セットで4秒くらいかけ、1日30回くらいを目安に行います。子供は声を出したほうがやりやすいでしょう。
また、口笛、シャボン玉遊び、ガムで風船をふくらませることなど口遊びもおススメです。口笛、シャボン玉遊びは唇や舌を複雑に使うので、口まわりや舌の筋肉を育てるのに役立ちます。また、風船ガムはふくらます際に口やほお、舌の細かい動きが必要なので、口まわりや舌の筋肉の発達には最適です。
――対処法を知ることで精神的にも楽になりますね。
ただ、これだけでは抜本的な対策になりません。食事、遊びを含めた運動、しっかり噛んで食べる習慣を身につけること、日常生活で口を閉じるように意識すること、すべてが重要です。食事の際にはテーブルにみそ汁、スープ以外の水分を出さないほうがいいと思います。食べ物が口にある状態で水を飲むと、そのまま流し込んで噛まなくなります。食事の際に水の摂取量を減らすだけで、噛む回数が増えます。
また、食材を大きく切って提供することもいいと思います。光熱費が上がり、料理も時短目的で野菜などを細かく切ったほうが火が通りやすいのは承知の上ですが、大きく切った食べ物のほうがしっかり噛みます。野菜は千切りより、ざく切りにするなどちょっとした工夫が効果的です。
――では、お口ポカンを放置することでどのようなリスクが伴うのでしょうか。
口呼吸により、中耳炎、副鼻腔炎、新型コロナウイルスを含めた感染症にかかる危険性が高くなり、歯並びが悪くなる、虫歯や歯周病、鼻炎や睡眠障害に伴う学力の低下なども確認されています。中・長期的には体の中に慢性の炎症が出ることで、統合失調症、うつ病、高血圧などの生活習慣病などにもかかりやすくなります。
お子さんが、お口ポカンの症状に当てはまるのか、心配な親御さんもいらっしゃるでしょう。誕生日のろうそくを吹き消せるかどうかがいい目安になると思います。唇を丸めたり、すぼめたりすることができないと吹き消せません。
――お口ポカンの認知度について、どのように感じていますか?
まだまだ低いと感じます。例えば、鉛筆やお箸の持ち方は大人がしっかり教えますが、鼻呼吸はいつの間にか身についているモノなので、子供に伝えないケースが多い。子供たちの花粉症の低年齢化や、スマホによるYouTube視聴時間の増加などで全身運動の機会が減り、呼吸が浅くなっていることをお伝えしましたが、私たちを取り巻く環境が時代とともに変化していることを理解する必要があります。
近年は新型コロナウイルスの影響で、子供たちは小さいときからマスクをつける生活になり口呼吸が定着しています。子供が輝ける未来になるかは、環境が重要です。親の無知で子供が苦しむのはかわいそうですし、病気を体の体質、遺伝と決めつけるのは危険です。お口ポカンは親が気づいて対策を講じれば、子供は年齢が早ければ早いほど対応力が高いので、改善のスピードも上がります。
――子供がお口ポカンに悩む親も多いと思います。最後にご助言があればお願いします。
いろいろな方法を試した上で、お口ポカンが治らないようでしたら、小児歯科で診察を受けたほうがいいでしょう。歯の治療だけでなく、食生活、日常生活で必要な取り組みなどを教えてくれる専門医の方が全国にたくさんいます。お子さんが症状から解放されることで、親も楽になります。親子で素敵な未来を築くためにも、お口ポカンを放置せずに治していきましょう。
(構成:今川秀悟)