岸田政権は価格高騰でも食料安保に「興味なし」? 北方領土交渉は棚上げに
岸田文雄首相
戦争が起これば、当事国以外にも影響が及ぶ。それは日本も例外ではない。ロシアによるウクライナ侵攻も、食料生産のコストを高める要因になっており、私たちの生活に直結する。農林水産省農産局の担当者は言う。
「化学肥料については、春の農作業の必要量は確保できましたが、秋の分はまだです。この数年でこれほどの事態になったことはありませんでした」
資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表によると、肥料の原料となるリン酸やカリウム鉱石を、日本はほぼ100%輸入に頼っているという。
「ロシア産の肥料原料が世界の生産量に占める割合は、リン酸が9%、カリウム鉱石が19%。カリウム鉱石はベラルーシの生産も多く、両国を合わせると、最大の生産国であるカナダを上回ります」
肥料だけではない。食料価格の上昇も続く。財務省が発表した2月分の貿易統計速報では、食料品の輸入額は前年同月比で29%増となる6千億円になった。特に小麦や大豆などで穀物価格の上昇が激しく、54%増の952億円。小麦輸出国であるロシアやウクライナの情勢不安を受けて代替国に需要が集まり、価格が引き上げられている。
東京大学の鈴木宣弘教授(農業経済学)が指摘する。
「大豆消費量の94%を外国産に頼っている日本は、19年に339万トンを輸入しています。一方、中国の輸入量は約1億トン(21年)。中国が買い増しすれば、日本に大豆を売ってくれなくなるかもしれません。これが20年度に過去最低となる37%の食料自給率を記録した日本の現実です」
岸田文雄政権では、経済安全保障を政策の柱の一つにしている。ところが、1月の施政方針演説では食料安全保障についての言及はなかった。鈴木氏は続ける。
「農業政策で触れられたのは、輸出の振興とロボット技術などを活用したスマート化だけ。米国では、新型コロナウイルスの影響で所得が減った農家に総額3.3兆円の直接給付をして、3300億円の食料を買い上げて困窮者に配りました。日本は、そういった政策はほとんどありません」
ロシア軍からの攻撃が続くウクライナの首都・キエフ (GettyImages)
食料だけではなく、日本はエネルギーも外国に依存している。これも後手の対応が続いている。
3月23日に日本の国会で演説したゼレンスキー氏は、日本の支援に対して感謝の言葉を述べ、戦後の復興支援の協力を訴えた。だが、実はゼレンスキー氏は日本に高いボールを投げていた。『プーチンの実像』の共著書がある朝日新聞の駒木明義・元モスクワ支局長(現論説委員)は、こう話す。
「ゼレンスキー氏は、日本に『ロシア市場から企業を引き揚げる必要がある』と迫りました。日本はロシアへの経済制裁に参加していますが、米国や英国が撤退した極東ロシアにある石油・天然ガス開発プロジェクト『サハリン1.2』は続けたままだからです」
ロシア側も、日本政府への対応を厳しくしている。21日には、日ロ平和条約の交渉の中断を発表。これで北方領土交渉も棚上げとなった。
「もともと、プーチン氏は北方領土交渉について、『北方四島の帰属はロシア』『在日米軍の撤退』『領土交渉は平和条約締結の後』という三つの条件を掲げていました。いずれも日本が受け入れられるものではなく、その意味では安倍政権の間も交渉はまったく進んでいませんでした」(駒木氏)
東京新聞によると、安倍政権時の16年度から6年間で支出したロシアとの経済協力費は約200億円。22年度当初予算にも21億円の関連経費が含まれている。日本企業に投資された予算もあるが「ほとんどが無駄になった」(野党議員)との見方が強い。
日本は地政学上からも、習近平氏とプーチン氏という二人の“エンペラー”と対峙(たいじ)しなければならない。第3次世界大戦が起これば、一気にジリ貧になりかねない。
日本は地政学上からも、プーチン氏と対峙(たいじ)しなければならず、今後の外交戦略に頭を悩ますことになりそうだ。※週刊朝日 2022年4月8日号より抜粋
週刊朝日
2022/04/01 08:00