太田裕子
ファンが選んだ沢田研二「究極の一曲」に“納得” 音楽評論家スージー鈴木氏が選んだのはキーを間違えて歌った「名曲」
76歳の誕生日を迎えた沢田研二
6月25日に76歳の誕生日を迎えた沢田研二。半世紀以上にわたる歌手活動で世に送り出してきた500を超える楽曲の中で「究極の一曲」はどれか、AERA dot.編集部がアンケートを実施。「時の過ぎゆくままに」「勝手にしやがれ」「カサブランカ・ダンディ」がトップ3に選ばれた。なぜ、それぞれの曲はファンの心をつかんだのか、人気音楽評論家のスージー鈴木氏が紐解いた。
* * *
AERA dot.編集部では「読者が選ぶ沢田研二の『後世に残したい一曲』」と題して、沢田研二の数ある名曲の中から「究極の一曲」をファンに聞いた。上位の3曲は以下の通りだ。
1位「時の過ぎゆくままに」
2位「勝手にしやがれ」
3位「カサブランカ・ダンディ」
回答数は1346人で、男女比は男性40.6%、女性58.5%。回答者の年代は60代が48.9%と最も多く、次いで50代が25.4%だった。
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この結果について、音楽評論家のスージー鈴木氏は「予想通りですよね」と話す。
「男女比は少し女性が多く、年齢層も50~60代が多く、沢田研二をよく知っていらっしゃる世代。沢田研二の全てのキャリアの中で最も売れた『時の過ぎゆくままに』が1位で、1977年の第19回日本レコード大賞を受賞した『勝手にしやがれ』が2位と続きます。まさに沢田研二が歌謡界を席巻した70年代後半をリアルタイムで知っている方たちが選んだらこうなるだろうと、とても納得できる結果だと思いました」
いま聴いても本当にカッコいい
上位3曲で過半数を占め、「やはりこの曲」という結果だったが、スージー鈴木氏はそれぞれの楽曲の魅力をこう話す。
まず、1位だった「時の過ぎゆくままに」は累計91.6万枚を記録し、沢田研二のシングルの中で最も売れた曲だ。
「そもそも一番売れた曲であるのと、歌謡曲とフォークの中間=“フォーク歌謡”というのでしょうか、作詞は阿久悠で作曲が大野克夫なのに、まるで、当時のフォークソングの旗手=吉田拓郎が作ったような曲。フォークブームにしっかり照準を合わせ、その波を逃さずに追い風とした、当時の渡辺プロダクションの勢いや時代性も感じます」
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「勝手にしやがれ」 撮影/写真映像部・高野楓菜 協力/歌謡曲BAR スポットライト 新橋
そして2位の「勝手にしやがれ」は、レコード大賞にも輝いた、誰もが認める曲。スージー鈴木氏は「いま聴いても本当に音がカッコいい」と声を弾ませる。
「当時、まだ20代の船山基紀が編曲して、日本レコード大賞では大賞以外に編曲賞も受賞しています。エコーが深い音像で、何しろ極めつけはイントロですよね。船山氏は派手なイントロを作るのがうまくて、聴いたら一発でこの曲だとわかる」
船山基紀は、中島みゆきの『悪女』(82年)、少年隊の『仮面舞踏会』(85年)、C-C-Bの『Romanticが止まらない』(85年)を手掛けた名編曲家だが、「勝手にしやがれ」は船山氏のキャリアの中で最初の成功事例となった。
「沢田研二の歌唱ももちろん素晴らしいのですが、この曲が愛され、また今回のアンケートでこうして2位に選ばれたのは、サウンドそのものも影響していると思います」(スージー鈴木氏)
3位の「カサブランカ・ダンディ」については、まず歌詞に関してスージー鈴木氏からひと言。
「女の頬を張り倒す、という歌詞が、昭和の“不適切歌謡”だと(笑)、最近しばしば説明されますが、阿久悠氏はそんな単純な歌詞を書いていないのです」
歌詞に出てくる“ボギー”とは、映画『カサブランカ』の主演俳優のハンフリー・ボガートの愛称であり、ボギーのいた時代を回顧した歌詞なのだという。
「決して沢田研二自身が女性を張り倒しているわけではない(笑)。最近、勘違いされがちですが、阿久悠氏はそんな粗暴な歌詞を書く人ではないとお伝えしたい」
昭和と令和をタイムスリップするテレビドラマ『不適切にもほどがある』(TBS系)のカラオケシーンで取り上げられたことから歌詞が再注目されたが、そういうことも含め、昭和、平成、令和と後世に長く残るものなのだろう。
声がひたすら素晴らしい!
では、沢田研二を聞き込んできたスージー鈴木氏が選ぶ究極の一曲とは。
「シングルバージョンではなくて、アルバム『S/T/R/I/P/P/E/R』に収録されているバージョンの『渚のラブレター』です」
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『渚のラブレター』は、今回の編集部のアンケートでは16位だった。現在行われている沢田研二の全国ツアーでも歌われたとX(旧ツイッター)などのSNSに投稿があり、それを見たファンが歓喜していた名曲だ。
スージー鈴木氏は「“アルバム”バージョンと明記してください!」と念押しする。
シングルバージョンは編曲の伊藤銀次がアレンジし、レトロな遊び心のあるサウンドなのだが、アルバム『S/T/R/I/P/P/E/R』に収録されているバージョンは英国・ロンドンで録音され、シンプルでストレートなバンドサウンドに仕上がっているという。
「その中で、沢田研二の声が、ひたすら素晴らしい!」
と、スージー鈴木氏は強調する。
「キーがCで想定されていた曲なのですが、間違えて全音上のDで演奏してしまったらしく、つまり事前の想定よりも高い音域なんですが、見事に歌いこなしています。私は何回も聞いていますが、沢田研二のオールキャリアの中で、個人的にはベストトラックだと思います。
沢田研二は70年代後半から歌がグッと上手くなって、だんだんと細い声から太い声になっていくんです。『渚のラブレター』はちょうどその中間なんですね。繊細さとロックっぽい野太さがうまく交じり合った見事なボーカルです」
上位の3曲だけでも、これほどまでに語れる名曲がある沢田研二は、やはり稀有のスーパースターだ!
(AERA dot.編集部・太田裕子)
◎スージー鈴木/音楽評論家、ラジオDJ、作家。昭和歌謡から最新ヒット曲まで、幅広い領域で音楽性と時代性を考察する。近著に「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」(ブックマン社)のほか、「中森明菜の音楽1982-1991」(辰巳出版)「桑田佳祐論」(新潮社)「サザンオールスターズ1978-1985」(新潮社)「EPICソニーとその時代」(集英社)「平成Jポップと令和歌謡」(彩流社)など著書多数。
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dot.
2024/06/27 11:00