■子どもの富士登山は、聞き分けられるようになってから

 高齢の人も注意が必要だ。心臓などに持病を抱えている割合が高くなることも理由の一つだが、病気と診断されていなくても若いころより心肺機能は落ちている。

「平地では若い人の動脈血酸素飽和度は97~98%くらいありますが、60代以降になると95%に達していない人もけっこういます。平地ですら差があるわけですから、高い山の上では若い人以上に気をつけるべきです。高齢者といっても個人差はありますが、平地で階段の上り下りをして息切れするような人は、すべからく注意したほうがいいでしょう」

 一方、子どもも高山病や低体温症を起こすリスクが高い。齋藤医師は言う。

「子どもは基礎代謝が活発なので、おとなと同じように動いても消費する酸素の量が多い。しかもじっとしていません。酸素の薄い山の上で目いっぱい走り回って酸素を消費すると、低酸素血症を起こしやすいのは当然です。また、子どもの体は体積に対する体表面積がおとなよりも大きく、そのぶん、体温も奪われやすい。小さな子どもほど低体温症を起こしやすいので、おとな以上に防寒、防湿、防風、エネルギー補給を徹底しなければなりません」

 富士山が開山する時期は夏休みシーズンということもあって子ども連れの家族も多い。富士山に登るなら、何歳くらいからが適しているのだろうか。齋藤医師は「聞き分けられるようになってからが一つの目安」と話す。

「注意しても動き回って止めようがない年齢で、富士山はまだ早い。家族の楽しい思い出作りや自然体験という意味なら、無理をして標高の高いところに行くより、低い山で楽しみましょう」

「若いから高山病にかからない」「肺活量が多いから大丈夫」などと思い込んでいる人もいる。しかし齋藤医師はこう話す。

「若くても無理な登り方をすれば発症します。肺活量は極端に低い人は不利ですが、正常範囲内であればあまり関係なく、多いからかからないわけではありません。誰でも発症する可能性があると考え、しっかり対策をしたうえで登ってください」 

(文・谷わこ)

後編「治療と対策」に続く。

【プロフィール】

齋藤 繁(さいとう・しげる)

群馬大学医学部附属病院病院長。同大学院医学系研究科麻酔神経科学分野教授。健康登山塾塾長。日本登山医学会、日本山岳会、日本山岳・スポーツクライミング協会の各種委員を歴任し、高所登山に関する医学研究に取り組む。「病気に負けない健康登山」(山と溪谷社)などの著書がある。