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大学対抗! ネットニュース総選挙

構成/株式会社POW-DER イラスト/沼田光太郎
デザイン/スープアップデザインズ 企画・制作/AERA dot. ADセクション

4大学がネットニュースを制作し、PV数・読了率を競う「大学対抗!ネットニュース総選挙」は、2023年の投票によって慶應義塾大学チームがPV賞※1 & 高校生賞※2 を獲得! 同チームは、高校生賞の賞品として、投票率が最も高かった流通経済大学付属柏高等学校への取材権を与えられました。それに際して、チームのメンバーが記事を企画し、同校サッカー部を取材。完成した記事は、ぜひ下記よりご覧ください!

※1 投票期間中の各ニュース記事ページのPV(ページビュー・そのページが何回閲覧されたか)数が最も多いチーム。
※2 高校生による投票数が最も多いチーム。

トップになれなければ意味がないのか?
強豪サッカー部から見る
スポーツの意義とは

― 流通経済大学付属柏高等学校の強さの秘密 ―

サッカー

 主力選手として活躍し、いつかはプロの道へ——。そんな想いを胸に、部活動でスポーツに打ち込んだ人は少なくないだろう。しかし実際は、日々研鑽を積みながらも、夢や目標に到達できない人が大多数だ。チームで、大会で、“トップ”になれなければ意味がないのか。スポーツに打ち込んだ先には何があるのか。部活動での「勝利至上主義」の考え方が変化しつつある今、流通経済大学付属柏高等学校サッカー部を取材した。

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 流通経済大学付属柏高等学校サッカー部の榎本雅大監督は、2000年に同校のコーチから監督に就任して以降、コロナ禍のあたりからアマチュアスポーツ界を巡る潮流が一気に変わったと感じているという。

サッカーチーム

インターハイ、全国高校サッカー選手権大会、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグなどでの優勝経験があるチーム。プレッシャーの速さとプレー強度を持ちながらボールを動かすスタイルが持ち味だ。(写真提供:流通経済大学付属柏高等学校)

「今は、闇雲に厳しく長時間練習させ、強ければそれでいいという時代ではなくなりました。求められるのは、科学的、客観的な指導です。例えば、私たちのチームでは普段の練習でも選手達がGPSを装着し、走行距離、スピード、加速度、動きの強度、消費エネルギー、心拍数などを測定・分析することで、より効率的にパフォーマンスの向上やケガの予防に取り組んでいます」(榎本監督)

 同部は、全国でも屈指の激戦区といわれる千葉県の代表として、主要大会で日本一に輝いた実績をもつ高校サッカーの名門だ。部員は約130人。国内外から能力が秀でた選手達が集う環境で、レギュラーの座を獲得するのは容易ではない。

グラウンドにいるときだけがトレーニングじゃない

 部員にとって直近の目標は、技術の向上とレギュラーの座の獲得であるはずだ。しかし榎本監督の指導が目指すものは、これだけではない。

「もちろん技術的な向上を求め勝利を目指しますが、それ以上に競技を通して人間的な成長を遂げてほしいと願っています。もっと言えば、グラウンドにいる時だけがトレーニングじゃないんです」(榎本監督)

 2023年、夏。榎本監督が選んだトレーニングは“富士登山”。参加する部員は、標高3776mの山に登るために、必要な準備、登ることの意味、そして、自分がどのように成長できるかを事前学習で考察し、臨んだ。

「大切なのは、その状況にどう向き合うか、仲間と共に頂上を目指す過程で自分にできることは何か、自分自身で一生懸命に考えることです。手っ取り早く誰かに教えてもらうのではなく、自ら導き出す思考は、やがてサッカー選手としての伸び代にもつながります」(榎本監督)

サッカーは人生のテーマを成し遂げる手段の一つ

 榎本監督は、指導のなかで部員一人ひとりがチーム全員の前で原体験を発表し、“人生のテーマ”を見つけていくという取り組みを行っている。

「まずは私自身から原体験や人生について40分かけて話し、私という人間を知ってもらうところから始めます。そしてサッカーをやっていればサッカーが、料理人なら料理が、他のどんな活動や仕事でも、人生のテーマにおけるミッションを成し遂げる手段になり得るといった話もします」

 なりたい未来像を描き、そのための具体的な活動を示し、それを成し遂げるためには何を大切にするか、という指針を見つける。“ミッション・ビジョン・バリュー”という企業経営でも重視される考え方だ。

「一昔前、指導者は雲の上の人でフレンドリーに話すことは考えられませんでした。だからこそ私は、自分から話をしにいく。監督の顔色をうかがうのではなく、オープンな関係の中でミッションに取り組んでほしいと考えています」(榎本監督)

 榎本監督は、サッカーをする目的を見つめ直すことで、チームへどのように貢献するかを具体的に考えることができれば、技術的にも精神的にも大きな成長が期待できるという。

榎本雅大監督

榎本雅大監督。人生のテーマは“自分の人生、自分の好きなことを目一杯やった方がいい”。現在は、部員から社会へこのテーマを広く伝えることを日々の指針にしている。

「レギュラーに選ばれる者と選ばれない者がいることは避けて通れない。しかしサッカーを通して自分自身の成長に気付き、社会性を身につけ、確固とした価値観を持てる子は伸びます。たとえそれがサッカー競技の場でなかったとしても。若い時にこそ、小さなきっかけで大きな変化が起こります。一瞬で人生が展開することも目の当たりにしてきました。成長を遂げていく子ども達を見守ることは、かけがえのないミッションです」(榎本監督)

“人間的な成長”の期待は部員の意識にどう届くのか

学生たち

(写真右から)オゲデベ有規さん(1年)、中野万輝斗さん(2年)、奥山歩夢さん(3年)※学年は取材当時

 技術的な向上だけでなく、人間的な成長をも期待する指導。とくにグラウンド以外のトレーニングについて部員達はどのように受け止めているのか。各学年の選手に聞いた。

「監督から、サッカーだけがサッカー部の活動ということではない、人間的な成長が大切だというお話をしていただきます。自分でも、富士登山、早朝の校舎掃除、職場体験などサッカー以外のいろいろな活動を経験してこそ、人としての魅力に繋がると感じています」(奥山歩夢さん・3年)

「入学してからしばらくは、部員同士の仲は良くても深い話まではできませんでした。富士登山では、登る途中に仲間と助け合ったりするうち、サッカーについてどう思っているのかという話が自然にできました。それ以来話しやすくなって、練習でも以前より頑張れるようになり、試合でもいい結果が出せました」(オゲデベ有規さん・1年)

「自分は富士登山で頂上にたどり着けませんでした。てっぺんにいく難しさというのはサッカーで一番を目指す苦労と似ていると感じました。やっぱりサッカー以外のところでもちゃんとしていないと、そのことがサッカーにも出てきてしまう。自分自身では、アウェーの試合の時には用具や持ち物の整理整頓や挨拶をしっかりやるように心がけています」(中野万輝斗さん・2年)

 多くの部員が、さまざまな場面でグラウンド以外のトレーニングを自然体で受け止め、行動していると分かる。監督が語る「オープンな関係」も同様だ。

学生たち

(写真左から)ストヤノフ・アレクサンドロさん(1年)、高山拓都さん(3年)※学年は取材当時

「グラウンドでは、プレーで気持ちがたかぶって喧嘩腰のきつい言葉が飛び交ったりすることがしょっちゅうです。でも、そんな言葉が出た後もちゃんと切り替えて、冷静に話し合いができる人が多いのかな」(高山拓都さん・3年)

「試合中には熱くなったりして、いい判断ができないことが多いですね。そういう時にチームの中に1人でも冷静な判断ができる人が必要だと思う。そういう存在になりたいです」(ストヤノフ・アレクサンドロさん・1年)

 とはいえ、競い合う仲間との衝突、レギュラー選出での葛藤がなくなるわけではないはずだ。その時、部員達は他者や自分自身とどのように向き合っているのか。

「1年生のときにスタメンでも3年生では出られないっていうのは、普通にあります。ここで終わりじゃないと考え将来を見据えてやっていくのが、モチベーションを保ち次に繋がるきっかけになっています。入部以来続けているサッカーノートというのがあって、悔しいことがあったら、部員はそれぞれ自分のノートに書く習慣になっています」(高山さん・3年)

「自分は、まだあまり試合に出られていません。最近は出られている人にあって自分にないものを自己分析しています。それから、皆が苦しい雰囲気になった時にこそ率先して声を出すよう意識しています」(ストヤノフさん・1年)

「練習の紅白戦ではレギュラー組と控え組で本気でぶつかり合っています。そういう機会はたくさんあって、悔しさや葛藤の気持ちは毎回の練習でぶつけて、出し切れています。ただ劣勢に立たされた時、誰かから声をかけてもらっても反発心を持ってしまうことがあって。そんな時には自分自身にベクトルを向けて考えられるようになりたいです」(奥山さん・3年)

 仲間や他校との競争の中で自分に矢印を向け、課題のために変わろうと努力する。それは部活動だけでなく、社会のどんな環境においても、必要とされるメンタリティだと言えるだろう。選手一人ひとりにこうした姿勢が培われていることが、チームの強さに直結しているのは間違いない。

「生きる力」を育む校風が選手一人ひとりを輝かせる

柴田一浩校長

柴田一浩校長。長く体育科教育に携わり、流通経済大学を経て2022年4月から現職。

 流通経済大学付属柏高等学校にはサッカー部のほかにも、ラグビー部、野球部など好成績を収める運動部が多い。柴田一浩校長は、同校の教育についてこう語る。

「本校には、大学の付属高校という特徴を生かし、生徒一人ひとりの進路や目標に合わせた3つのコースがありますが、『普通科スポーツ進学コース』には多彩な才能を持つアスリートが在学しています。サッカー部で活躍する生徒も、サッカーの技能に加え5教科の成績基準をクリアして入学。部活動と勉学の両立をモットーに活躍しています」(柴田校長)

 創立以来、同校が掲げる「智識(智慧と見識)の涵養と眞理探求の精神を培い、日本的教養と国際性を身につけながらスポーツや文化活動の振興によって、正義、誠実の心と勇気ある気質を育てる」という指針を体現する生徒たちだ。

「部活動で全国大会に出場したとしても、そのことを特別扱いするのではなく、常に教育の中に位置づけ、社会性を持ちコミュニケーションを大切にできるよう指導を行っています。同時に達成感や自己肯定感を味わえる教育活動を進め、学校生活をより一層楽しいと実感できるよう教職員一丸となって取り組んでいるところです」(柴田校長)

 選手一人ひとりが輝き、強豪として知られる部活動を支えているのは、人間的な成長を願い、真の「生きる力」を育む環境に基づくものだろう。校内を行き交う生徒たちの、明るく快活な挨拶が清々しく印象に残った。

新校舎

2023年に創設39年目を迎えた流通経済大学付属柏高等学校は、同年4月に付属中学校が開校し、新校舎が建設された。(写真提供:流通経済大学付属柏高等学校)

取材/飯野 恵(慶應義塾大学)
撮影/林 哲也(慶應義塾大学)※取材当時
構成・文/石上ゆかり