病院に行き外来で主治医にいろいろ聞こうと思っていても、短い診療時間でうまく質問できなかったり、主治医の言葉がわからないまま終わってしまったりしたことはありませんか。短い診療時間だからこそ、患者にもコミュニケーション力が求められます。それが最終的に納得いく治療を受けることや、治療効果にも影響します。今回は、医師に「治療法を選んで、次回までに決めてきて」と言われた乳がん患者の会話の失敗例、成功例を挙げ、具体的にどこが悪く、どこが良いのかを紹介します。
西南学院大学外国語学部の宮原哲教授と京都大学大学院健康情報学分野の中山健夫教授(医師)の共著『治療効果アップにつながる患者のコミュニケーション力』(朝日新聞出版)から、抜粋してお届けします。
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「失敗例:エピソード1」と、「成功例:エピソード2」を順番に紹介します。
【患者の背景と現状】
55歳の女性Fさんは、夫とこれまで健康で幸福な生活を営んできました。2人の娘は、結婚して近くで家庭を築いています。
ところがレディース健診のマンモグラフィー検査で胸にしこりがあることが判明し、精密検査の結果ステージIIの乳がんとの診断を受けました。子育ても終わり、これから間もなく定年を迎える夫と旅行をしたり最近参加した陶芸サークルの仲間とも温泉に行ったり、食事会をしたり、と考えていた矢先だったので大きなショックでした。
治療方法としては放射線や薬物療法もありますが、まずは乳房を切る手術を受けることから始まるという説明を受けました。腫瘍は、これまでの検査で片方の乳房に2.5センチ大のものが一つで、他方の乳房や他の臓器への転移はありません。この病状では術後の転移の可能性が少しだけ高いものの、腫瘍の部分だけを切除する乳房温存療法が可能だそうです。ただし、リンパや血液を介して肺や脳などに転移した場合、治療はとても困難になるので、心配であれば全摘出のほうが、確実性が高いとのことです。