※写真はイメージです。本文とは関係ありません
※写真はイメージです。本文とは関係ありません

 Aさんが支援者の道に進むという仕方で逆境経験を昇華することができたのは、こどもの里という幼少時からの居場所がつねに支えになったからである。

 こどもの里が重要であるとはいえ、語りを詳細に分析したときには、Aさん自身の強さと、母親への思いを昇華したことが、大きいことが分かる。現在のAさんは、単純に自分の困難を踏まえて母子を助けたいという結論にいたったことで、児童養護施設での勤務を選択したのではないだろう。「ママのせい」で苦労をしたという思いを自分の母親に強くぶつける場面を経過したうえで、「絶対ママもどっかで生きづらさ感じてる」と反転することで、支援者の道を定義しているのだ。

 知をめぐるあいまいさは、母親をめぐる状況を詳細に知ろうとするプロセスを通してAさんの主体性を形づくる。そして専門的に学んだ福祉の知識とともに困難を抱えている人をめぐる支援者の「知」という仕方で成就しているのだ。


<脚注>
※注1
頁で「だんだん」お迎えの時間が遅くなった行き着く先で「ずっと」困窮が続くことになったことに触れる。「だんだん」薬物に気づいていったが、行き着く先で「ずっと」母にごまかされていた。「だんだん」から「ずっと」へと、ベースとなるリズムの移行が見られる。

※注2
経験を構成する諸要素のリズムの重層性についてはポリリズムと名づけて拙著『交わらないリズム 出会いとすれ違いの現象学』(青土社、2021)で論じた。