※写真はイメージです。本文とは関係ありません
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 この語りの直前に、同じ頃母親の視点からAさんがどう見えていたのかが語られていた。

【Aさん】〔母は〕やっぱり子どもたちのことは一切考えてなかったみたいで、薬してるときは。もうほんまに自分、自分で。自分たちがどういう気持ちで、夜中、家におったかとかも、全く一個も考えることなかったんですよね。て本人は言ってて。考えることもなくて。考えることなかったし、「そんなこと思ってたんや」っていうようなことばっかり言われたっていうか、〔のちに出所した母と〕話してるなかで分かりましたね。

 この引用では、Aさんから母親への強い思いと、薬物使用時には子どもを「全く一個も考えることなかった」という母親からAさんへの告白とがコントラストを成している。ここであいまいな立ち位置にいるのは母である。Aさんは母親の薬物使用を心配していたが、「でも」母はAさんの気持ちを知らなかった、という知る・知らないのあいまいさだ。

 この引用の前後では、現在は元の生活に戻って安心しているという内容が語られていた。ところがそのなかで、「自分たちがどういう気持ちで、夜中、家におったかとかも、〔ママは〕全く一個も考えることなかった」というおそらくもっとも傷つく事実が語られているという両義性がある。Aさんの思いと母親の無関心というコントラスト、状況が改善した今現在の平和と、母が薬物を使っていた当時の不安というコントラスト、このすれちがいがここでは際立つのだ。

【Aさん】やっぱりママが寝てるときとかも、ママの携帯とかめちゃチェックしたんですよ。怪しい文章のメールとかあったりするし。家帰ったら注射器があって、血の付いたティッシュが散らばってるっていう光景はもう日常茶飯事やって。後々でママに聞いたら、注射器だけは絶対に見られへんようにしてるつもりではおったらしいんです。でも「全部、気づいたで」って言ったら、「そっか」みたいな感じではあったけど。どこに隠してるかっていうのも全部分かってたし、ママがおらんときとかも、隅から隅まで「何かないか」っていうのをすごい漁ってたんですよ。それを見つけたところでなんですけど、でも核心的な事実がほしかったんですかね。これが何かっていうのを多分、知りたかったんですかね。

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「知っても意味がない『でも』知りたい」