撮影:深沢次郎
撮影:深沢次郎

■星を撮るタイミングだった

 深沢さんは子どものころから宇宙が好きだった。

「でも、星の写真は撮ってこなかった。いまがそのタイミングだな、と思った」

 都会から遠く離れ、美しい星空が望める長野県の木曽地方に通った。

「昔、親が別荘みたいなのを木曽に建てたんですが、使わなくなっていた。そこをもう1回、使えるようにしようと思って、リフォームに通いながら星を写した」

 冬枯れの森の中から夜空を見上げるように写した写真。木々の合間を星が埋め尽くし、画面中央にはアンドロメダ星雲が輝いている。「写ったのはまったくの偶然で、びっくりしました」。

 月の光跡が飛び跳ねるように写った不思議な写真もある。

「これは自宅で撮ったんです。満月って、とても明るいんですよ。その光がすごいな、と思って、デッキで月光を浴びながら音楽を聴き、お酒を飲んでいるうちに妖艶な気分になってきて、カメラを持って踊ったりしながら撮影した。そうしたら、こう写った」

 氷柱を写した写真もある。

「さっきの小説は、結局、凍った滝をとらえられなかった、という終わり方をしているじゃないですか。じゃあ、それをとらえてやろうと思った」

撮影:深沢次郎
撮影:深沢次郎

■楽園への歩み

 鶴岡さんを写した写真はほぼすべて外したが、1枚だけ残された写真は不鮮明なモノトーンで、なぜか細い縦筋が入っている。

「昔、彼がテレビに出たときの場面を撮ったんです。NHKのドキュメンタリー番組で『ネットオークションで暮らす人々』みたいな特集があった。彼は上田でレコードのネットオークションで糊口(ここう)をしのいでいたんです」

 しかし、なぜ、この写真を作品のなかに残したのか?

「あれみたいじゃないですか。ユージン・スミスの『楽園への歩み』」。

 それを聞いて、ああ、なるほど、と思った。太平洋戦争の沖縄戦で重傷を負ったユージンが、再びカメラを持つきっかけとなった有名な作品で、光に向けて歩き出す2人の子どもの背中を写している。

 作業着と長靴姿で山道を歩く鶴岡さんは、少しけげんそうな表情でこちらを振り返ると、光のなかに消えて行こうとしていた。

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】深沢次郎写真展「よだか」
コミュニケーションギャラリー ふげん社 4月7日~4月28日